全国初の路線バス共同経営で計画以上の改善効果　熊本5社

　熊本市と近郊間の乗合バスで競合する同市のバス会社5社（九州産交バス、産交バス、熊本電鉄、熊本バス、熊本都市バス）は昨年4月1日、“ムダな競争”を避けるため、全国初の共同経営方式を導入した。7月20日開かれた熊本県地域公共交通協議会では、この共同経営について初年度の収支改善効果が計画（想定）を上回ったという報告がなされた。その反面、コロナ禍で輸送人員が減って赤字額は拡大したという。地方バス再生の道は平たんではない。

　地方では少子高齢化や人口減少で交通事業者や銀行が経営を維持し続けるのが難しくなっているとして、2020年11月に関係省庁の認可を得た会社合併や路線調整、運賃協定などは独占禁止法の適用を除外する独占禁止法特例法が施行された。

　特例法適用の第1号が、この熊本市のバス5社の試み。熊本市の熊本桜町バスターミナルを発着する乗合いバス4方面55系統で、重複路線の廃止や待ち時間の平準化（運行時間の等間隔化）などに取り組み、運転手を1日当たり5.6人、車両を同4.7台浮かせることを目標にする計画を立てた。期間は24年3月末までの3年間。

　4方面55系統のすべてで2社が競合する。これを、3方面では運行便数の少ない方の会社が撤退して多い方に路線を無償譲渡し、残る1方面では2社が時刻表を統一して相互に等間隔で運行している。

　計画では、コロナ禍による4方面55系統の輸送人員の減少をコロナ禍前実績比10.1％減と仮定。共同経営を行った場合と行なわなかった場合の収支は、前者は5億500万円、後者は5億3,500万円の赤字が発生するが、赤字額は3,000万円に圧縮されて収支改善効果が見込めるとしていた。

　ところが、コロナ禍で実際の輸送人員は同24.8％減の445万7,000人に落ち込んだ。計算上、共同経営を行った場合と行なわなかった場合、前者は6億1,300万円、後者は6億4,100万円の赤字になり、2,800万円の収支改善効果が得られる。ただ実際の収支実績は6億800万円の赤字にとどまり、共同経営を行わなかった場合よりも3,300万円の収支改善効果があったことが分かった。

　5社共同経営推進室は、収支改善効果を押し上げた要因として実車走行キロが、熊本県全路線の平均はコロナ禍前実績比7.5％だったのに対し、4方面55系統は同10.1減だったことを挙げ、「共同経営の効果として実車走行キロが抑えられ、燃料費や人件費の削減につながった」と分析する。

　その反面、実際の赤字額は、コロナ禍の影響がなく共同経営を行わなかった場合の計算上の予測値4億4百万円を2億円以上上回る。このため共同経営について「やらないよりは、やった方がよかった」（熊本県関係者）といった”冷めた声”も聞こえてくる。

　ただ4方面55系統のダイヤ平準化などで浮かせた運転手や車両は、新しい商業施設や高層マンションなどがオープンしたJR熊本駅方面に振り向けたことで、平日ダイヤを1日179便から同215便に増便することができた。結果、熊本駅前の1日当たり乗車人数は20年度下期の約1,500人から21年度下期は約2,100人に増え、波及効果が表れている。

　熊本市の人口は73万人。西鉄1社が乗り合いバス路線を”独占”する福岡市の162万人に比べ90万近く少ない。ここに5社がひしめき合う状態で、共同経営推進室は「さらなるメスを入れて赤字路線を見直す必要がある」としている。今後は、今回の共同経営に参加する全5社が参入して過供給状態の県庁方面44系統を計画対象に追加し、10月1日から実施する。

　計画は25年9月末までの3年間。路線変更や廃止、待ち時間の平準化によって、44系統で1日当たり運転士5人、同車両4台を浮かせ、年間約2,400万円の収支改善効果を狙う。

　「本当はもっと効率化を図りたかったが、5社間の利害調整が難しかった。そして何より、国が利便性の維持を求めている大前提がある」。計画策定に関与した同推進室の社員は共同経営方式の限界を指摘する。

　国交省地域交通課によると、特例法を適用した公共交通事業の共同経営を進めるエリアは、熊本を含め全国5カ所。このうち徳島県南部では今年4月、JR牟岐線阿南駅-浅川駅（延長50.7km）間でJR四国と並行区間のバスを運行する徳島バスが全国初の鉄道と乗合バスの共同経営を始めた。複数の交通手段が存在するエリアで持続可能な地域公共交通の在り方を探るパターンの1つとして注目されている。

【南里　秀之】