2024年05月17日( 金 )

農地転用は開発用地捻出の“切り札”となるか?(1)

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福岡県内で用地確保できずアサヒビール新工場が鳥栖へ

 アサヒビール(株)の持株会社であるアサヒグループホールディングス(株)は、今年2月15日付で発表した「生産・物流拠点の再編計画に関するお知らせ」のなかで、2025年度末をメドに福岡市博多区にある「アサヒビール博多工場」の操業を終了させ、近隣へ移転するという予定を示した。さらに6月23日には、同工場の移転先として佐賀県鳥栖市を候補地とし、鳥栖市に対して土地譲受申込書を提出した旨を発表。選定理由については「九州全域への効率的な供給や十分な水量を確保できる立地であり、敷地面積を含めて最も条件に合致したため」としており、今後、土地売買契約に係る市議会の議決を経たうえで、正式に決定する予定。26年から「新九州工場(仮称)」として操業を開始するとしている。

新九州工場(仮称)イメージ図
新九州工場(仮称)イメージ図

 26年3月末での操業終了が予定されている博多工場は、大日本麦酒(株)(現在のアサヒビールやサッポロビールなどの前身)の博多工場として1921(大正10)年4月に操業を開始したのが始まりで、昨年4月に操業100周年の節目を迎えた福岡市内でも有数の老舗工場。これまで九州全県および山口県を出荷エリアとして、アサヒスーパードライやクリアアサヒ、アサヒスタイルフリーなどを製造してきており、年間生産量は約1,753万箱におよぶという。なお、博多工場跡地の活用については、現時点で未定としている。

2026年3月末に操業終了の「アサヒビール博多工場」
2026年3月末に操業終了の「アサヒビール博多工場」

 新九州工場(仮称)は、アサヒグループにおける次世代生産体制のモデル工場として、製造方法の刷新などによってエネルギー使用量を従来比で50%削減し、使用するエネルギーの再生可能エネルギー化も推進。現・博多工場と比較して敷地面積は2倍以上となり、想定年間生産量は1.3倍となる見込みで、ビール類やノンアルコールビールテイスト飲料、RTD(主に缶チューハイや缶カクテルや缶ハイボールなどの低アルコール飲料)、アサヒ飲料商品などのグループの多様な商品や容器の製造を行い、物流面での効率化と工場の操業度の向上を図る。なお、新工場でも博多工場の従業員を継続雇用する方針で、現地での新規採用は今のところ予定していないという。

 今回のアサヒビール新工場の県外移転決定に対して、服部誠太郎・福岡県知事は次のようなコメントを発表している。

 「(福岡)県では、今年2月に工場移転の発表がなされてから、これまで同社と県内への工場移転に向けた協議を行ってきた。そのなかでアサヒビールから示された、①大量の水や約20ha以上の用地が確保できること、②現在の雇用関係や取引関係の継続が可能な距離であることなどの条件を受けて、複数の候補地を提案。アサヒビールには、県内移転を最優先に誠意をもって検討していただいた。しかし、同社の事業計画は2026年1月に新工場で操業を開始するとのことであり、本県の提案はすべてこれから造成を行う農地であるため、農地転用や用地買収に期間を要することから、県外への移転となったものとうかがっている」(一部抜粋・要約)。

 この服部知事のコメントにある「本県の提案はすべてこれから造成を行う農地であるため」という部分に注目すれば、もはや福岡県内ではアサヒビール新九州工場(仮称)のような規模の工場の受け皿となり得る用地は、農地転用からの土地造成でしか捻出できないことを示している。

【坂田 憲治/代 源太朗】

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