歴史を変える男・ヤクルト村上宗隆の55本塁打

神宮球場 イメージ    打った瞬間、誰もが確信した。巨人のリリーフエース・大勢が外角に投げたストレートを一閃したヤクルト・村上宗隆は、打球の行方を確認してゆっくりと一塁へと歩みを進める。鋭く大きな弧を描いた打球は、神宮球場全体を包む大きなどよめきを切り裂いてレフトスタンドに落ちていった。王貞治と並んで日本選手最多タイとなる、55本塁打の瞬間だった。

 村上宗隆は、2000年熊本生まれの22歳、右投げ左打ち。九州学院高校から2017年ドラフト1位でヤクルト入りし、プロ入り5年目のスラッガーだ。プロ入り2年目の19年、開幕スタメンの座をつかみ、いきなり36本塁打、96打点を記録。打率は2割3分1厘と振るわなかったが、20年シーズンは全試合で4番に座り、打率3割7厘、28本塁打、86打点とリーグを代表するバッターに成長した。21年シーズンは打率2割7分8厘、39本塁打、112打点で本塁打王および史上最年少でのセ・リーグMVPを獲得し、チームのリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。

 そして迎えた今シーズン。村上は前半戦だけで33本の本塁打を放ち、後半戦も5打席連続本塁打を記録するなど、圧倒的なペースでホームランを打ち続けている。そして13日、54号・55号本塁打を神宮球場のスタンドに叩き込み、偉業を達成した。

 村上の特徴は、なんといってもスイングスピードの速さと、そこから生み出される打球の速さ。54号本塁打のように引っ張って右方向に飛ばす打球の速さは言わずもがなだが、特筆すべきなのは逆方向、左に飛ぶ打球速度だ。

 右方向への引っ張りなら弾丸ライナー、左方向なら流し打って緩やかなアーチを描く弾道……というのが普通のバッター。だが村上のスイングスピードで叩かれた打球は、まるで右打者が引っ張ったような鋭いライナーで飛ぶのである。なにしろ打球の音が違う。

 55号本塁打が、まさにその典型だった。打たれた大勢投手が、「信じられない」という表情を浮かべて両手を膝につけてガックリとうなだれたのも当然だろう。今の村上は、インコースもアウトコースもお構いなくホームランにできる、史上まれにみる強打者といっていい。

 あえて気になる点をあげるとすれば、特徴であるスイングスピードの速さが手首や肘、腰などに与える負担だろうか。大きな故障がないことを祈るばかりだ。

 ヤクルトは今シーズン、あと15試合を残している。王越えの56号はほぼ確実、そしてバレンティンのプロ野球記録60本も視野に入る。なにより22歳という若さは、来シーズン以降のさらなる記録更新にも期待できる。

 若き大打者のこれからを、プロ野球ファンとして楽しみに見届けたいものである。

【深水 央】

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