2024年05月16日( 木 )

【技能実習生】実習生の生活・人生を保障する制度設計を

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 母国では獲得できない技能などの習得を謳いつつ、不足する国内労働力を補う暗黙の機能をはたしてきた外国人技能実習生。彼らの生活保障をめぐる制度上の課題として、送り出し国によっても若干の違いはあるものの、来日時に多額の借金を抱えること、来日に備えて母国で長期間の日本語研修に参加するために仕事を辞めて収入が得られなくなること、などが挙げられる。

 DEVNET INTERNATIONAL世界総裁の明川文保氏は、新興国の経済発展にともなう所得向上と円安などの影響を受け、実習生が日本にきて母国で背負った借金を返して自国通貨に換金して残るお金と、母国で働き続けて得られる所得との差がなくなっていくと指摘する。そして、新興国の若者が実習生として日本にくるメリットはますます小さくなり、たとえば現在主流を占めるベトナム人も、数年後にはほとんど来なくなるかもしれないと警鐘を鳴らす。

 ベトナム人実習生に限ったことではないが、彼らが日本で実習先に恵まれず、過重労働、賃金不払い、暴行の被害などを経験した場合、そうした情報がSNSなどを通じて母国で共有され、日本イメージの悪化を招いてきたという事実がある。

契約書類をそろえず、一方的に解除を通告

DEVNET INTERNATIONAL 世界総裁 明川 文保 氏
DEVNET INTERNATIONAL
世界総裁 明川 文保 氏

    新興国で日本イメージを悪化させるとともに、実習生の生活にも大きな影響をおよぼす事態が生じた一例を、前出の明川氏の報告から紹介する。

 明川氏が代表理事を務める実習生の監理団体・国際異業種協同組合(山口県防府市)は、2016年、山口県のカット野菜企業((株)やおいち、山口県宇部市)から、実習生の斡旋の依頼を受けた。同社側は人手不足の深刻さを強調しつつも、実習生の受け入れに関する書類の作成に時間を要したため、書類が提出されるのを待たずにベトナムにて候補者の面接を行い、実習生8人の採用を決め、契約を締結した。しかし、翌17年3月になって、遅れていた書類を提出するどころか、人手はもう要らないと言い、実習生との契約解除を申し出たという。不審に思った同組合関係者は、16年末の繁忙期を乗り切るために同社に紹介した人材紹介会社が紹介した外国人が、やおいちの従業員としてスーパーに出入りするところを目撃した。同社はその外国人に対して当初は要らないと言っていたにもかかわらず、その後、明川氏らに断りもなく、採用していたのだ。

 これを知ったベトナム側の送り出し機関も、同社の行為に怒り心頭に発した。実習生8人は来日前の6カ月間の研修に参加するため、ベトナムでの仕事を辞めていたのである。また、約50万円の研修費用も彼らは支払っていた。もちろん、同組合としても、これはとうてい見過ごせる行為ではなかった。同組合は17年9月、同社を被告とし、実習生8人の支払った経費および組合の遺失利益として約500万の損賠賠償を求めて山口地方裁判所に提訴。20年11月の一審判決では敗訴となったが、同月、広島高等裁判所に控訴し、同高裁は21年10月、同組合の主張を概ね認め、実習生8人の支払った経費をめぐり同社に支払いを命じる判決を下した。同社は最高裁判所に上告したものの、これは不受理となった。

 実習生が受け入れ先企業との面接を終えて契約を済ませてから、実際に受入先企業での実習が始まるまでには相当の時間がかかる。母国の企業退職、日本語研修への参加、ビザ取得、来日、監理団体での研修参加を終えてようやく実習となるのだが、明川氏は、この期間、実習生はいわば宙ぶらりんの、保障のない状態に置かれるという。やおいち社で彼らが経験したような事態が発生すれば、実習生の人生は大きな被害を被るのである。

実習生の保証のための法改正を

 新型コロナウイルス感染症の拡大による入国制限にともなって、多くの実習生の来日が事実上延期となった。彼らの多くは心理的に不安な状態に置かれ、日本行きが遅れるからといって諦めて母国で再就職することにも踏み切れず、生活上困っているにちがいない。また、同協同組合の篠田則孝専務理事は、実習生の受け入れを計画していたものの、コロナ禍で取りやめた企業は少なくないとしており、来日のために企業を退職した人も多くいるはずだという。

 このような現状に鑑み、前出の明川氏は、実習生制度をめぐり次のように提言する。すなわち、行政は実習生が母国にいる間から彼らの正当な権利を担保すべきであり、そのために法改正を行うべきだというのが1つ。また、受け入れ企業に対しては、受け入れ計画を変更するかもしれないような、財務面に余裕のない企業は、実習生の受け入れを行うべきではないし、監理団体もしっかりと受け入れ企業を見極めるべきだというのが2つである。

【茅野 雅弘】

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