「もうつくれない」昭和初期の建築物・九段会館を保存再生(後)
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今回の工事の全体を通して、文化財専門会社により既存建物の記録調査が実施されている。創建時の仕様書を解き明かし、現場にて仕様書との確認と実測調査、記録が行われ、創建時部材の真正性の評価を行い、国に報告し、その都度許可を得ながら、工事が続けられた。部分解体調査による計画変更は膨大となったが、それにより創建時部材をできるだけ用いる真正性と復原の正確性は高められた。
また、解体されたホールにおける漆喰の精巧なレリーフ、ステンドグラス、石材、瓦、装飾金物など貴重な部材は一部取り外して保管し、九段会館テラス4階ギャラリーで展示されている。将来補修用の瓦、スクラッチタイルも保管されているという。
誰でも入れる歴史的建築物「ぜひ訪れて感じて」
さて、これまで駆け足でまとめてきた保存部分の意匠と九段会館が持つ歴史の雰囲気は、ぜひ読者の皆さまにも現地でたしかめていただきたい。九段会館は、軍人會館からGHQ接収、遺族会への貸与と運営、ホールとしての成功、そして東日本大震災による被災と、戦前から現代へと至る日本の精神史を画してきた事件と事故を経験してきた現場である。
建築的には、帝冠様式建築の代表的な事例が保存されたといえる。京都、横浜、名古屋などの事例と比較して実際に見てみるのも面白いだろう。また、この建物は、設計コンペで新たなデザイン理念が打ち立てられ建設された最初期の事例としても貴重だ。その理念の当時の根拠は何にも増してナショナリズムであった。文化財的には、文化財行政が保存建物を観賞用としてではなく、活用にシフトしてきている昨今の状況のなかで、大規模な動態保存の試みとして特筆に値する事例だ。
最後に、神山所長による次の言葉で締めくくりたい。「現場経験のすべてをつぎ込んだ、全身全霊で、できた完成度も高い。帝冠様式の外装、動態保存の大理石・御影石・正面玄関のドア、昭和初期の国力のかかった建物で、職人の気合が伝わってくるディテール、誰でも入れる場所にあるので、ぜひ訪れて感じてほしい」。
(了)
【永上 隼人】
参考
・洪洋社編集部編「軍人会館競技設計図集」洪洋社 1931年
・日本建築協会編「日本趣味を基調とせる最近建築懸賞図集」 1931年
・帝國在郷軍人會本部「帝國在郷軍人會概要」 1932年
・近江栄『建築設計競技 コンペティションの系譜と展望』鹿島出版会 1986年
・藤岡洋保「軍人会館 (現・九段会館)─「帝冠様式」は軍国主義の象徴か?」、『コア東京』2020年7月号、(一社)東京都建築士事務所協会
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