急成長ゆえの凋落か、九州有力通販企業の今後は
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(株)エバーライフ
ヒアルロン酸含有の健康食品『皇潤』で、九州を代表する有力通販企業として知られる(株)エバーライフ。ここ数年は、事業売却や後発企業の台頭による競争激化、広告コスト増大による収益減少などで苦しい業況が続いており、新製品の投入や薬系、海外ルートの開拓などで業績回復を図ろうとしている。同社の成長から現在までの軌跡をたどる。
「皇潤」で九州有数の通販企業に成長
有力企業がひしめく九州通販市場の代表的な存在である(株)エバーライフ。創業者で現在は不動産業の(株)ウェルホールディングス社長の井康彦氏は大学中退後、求人広告営業や羽毛布団のMLM(マルチ・レベル・マーケティング)販売、レンタルビデオ業など、さまざまな職歴を経て、バブル全盛の1990年に不動産売買業として同社を設立した。バブル崩壊で不動産市場が不況に陥っていた94年頃、別事業としてダイエット食品のテレマーケティング販売を開始することになる。
同社が健康食品通販事業を本格化するきっかけとなったのが、94年に発売した、長崎・五島近海に生息するアイ鮫から抽出した肝油を含有する健康食品『鮫肝海王(サメギモポセイドン)』。同社が設立したNPO法人がヒアルロン酸の効果効能を紹介するテレビCMを流し、番組内に相談窓口を設け、そこへ問い合わせや相談をした顧客に対し、同社製品を紹介。問い合わせのあった顧客情報を同社コールセンターに送り、アウトバウンドで引き上げる方法で売上を伸ばし、年商は70億円を超え、一躍通販業界で知られる存在となった。しかし、原料の鮫肝油の供給逼迫や広告コスト拡充を理由に、安価な海外産原料に切り替えたものの、品質や有効性の安定を欠いたことが影響し、その後しばらく業績は足踏みした。この『鮫肝海王』での原料切り替えによる販売低迷は、その後販売する『皇潤』でも同様に起きることとなる。
新たな製品の投入が必要と考えた同社は03年、『鮫肝海王』と同様、60歳以上の年配者を対象としたヒアルロン酸含有の健康食品『皇潤』を発売する。ヒアルロン酸を主成分にした経緯として、化粧品などの美容素材としてだけでなく、医療分野でヒアルロン酸を注射する治療法が知られるようになっていたことがある。食品として、健康食品受託企業であるアダプトゲン製薬(株)製の鶏冠抽出のヒアルロン酸原料『ECM-E』の有効性データに着目。アダプトゲン製薬が販売する健康食品『ヤングライフ』のOEM品として発売を開始した。
販売は『鮫肝海王』と同じく、NPO法人によるテレビCMに加え、三國連太郎氏や八千草薫氏などの大物俳優を起用し、ブランド力を訴求した販売促進を展開。「2ステップ」と呼ばれるお試しキャンペーンからの定期引き上げ、リピート顧客へのお歳暮などのギフト送付によるフォロー、テレアポスタッフのモチベーションを上げるために、1件成約に対して1万円のインセンティブを導入するなどにより販売を伸ばした。
05年3月期には売上高100億円を突破、08年3月期は同207億円6,400万円、最盛期の10年3月期の売上高は263億7,000万円にまで達し、九州有数の通販企業として全国的に知られるようになった。売却そして業績急落に
成長を続けるなか、創業者の井氏は監査法人を入れ、株式上場の準備を進めていた。しかし、経営・財務面が不透明であったことから上場を断念。08年に仏金融大手であるクレディ・アグリコル傘下のCLSAキャピタルパートナーズを通じ、約240億円で売却した井氏は同社から離れ、当時専務だった鍋島邦洋氏が社長となる。
しかし、後発企業の台頭で『皇潤』の類似品が氾濫するようになり、新規顧客獲得が難しくなり、広告費を増大させていく。そのために『鮫肝海王』のときと同様に、原料も「ECM-E」ではない安価なヒアルロン酸原料に切り替えたものの、大手週刊誌に「飲むヒアルロン酸は効かない」という見出しで取り上げられるなど、リピート顧客の離脱を招いた。新製品として、コラーゲンを配合した『美・皇潤』やダイエット米『エバー米』、漢方植物素材を用いた『赶黄草(かんこうそう)エキス』などを投入したものの不発。09年には心身障がい者用低料第三種郵便物制度の悪用が発覚するなど、業績不振や不祥事が続くにつれ、不信や反発も出るようになり、幹部クラスの人材が続々と同社から離脱。11年6月には、鍋島元社長ら取締役全員が退任した。
鍋島元社長の後任には、東大卒でMBAを取得、大手投資会社のリッジウェイ・キャピタル・パートナーズに在籍していた浅井克仁氏(現(株)フェブリナ代表取締役)が就任した。浅井氏は従来型からの脱却として、製造・広告についてはこれまで取引のある企業以外に、コンペによる採用方式に切り替え、『皇潤』のアイテム拡充や、新たな健康食品ブランド『Sence of Eternity(センス・オブ・エタニティ)』を立ち上げ、新たな商品の柱づくりを目指した。だが、業界未経験だったこともあってか、業績悪化の歯止めにはならず、12年12月には親会社のCLSAキャピタルパートナーズが韓国の家電大手企業であるLGのグループ会社で、生活用品販売事業を手がけるLG Household & Health Care社(以下、LG H&H社)に約258億円で全株式を売却。13年7月には浅井社長が退任している。
この間の業績は10年3月期の売上高263億7,000万円をピークに、12年3月期は223億2,600万円で当期利益は7億2,800万円の赤字を計上。13年12月期業績は当期利益は非公表で売上高117億6,200万円(決算期を12月に変更したため、9カ月変則決算)、直近の14年3月期も当期利益は非公表で売上高130億2,800万円となり、最盛期からわずか5年で業績は急落している。
同社の実質トップは、LGの副社長およびLG H&H社のCEOを兼務する車錫勇氏だが、14年10月に元クラシエホールディングス前会長や(株)カネボウ化粧品の社長を歴任した中嶋章義氏が社長に就任している。同社広報部によれば「カネボウを立て直した手腕を評価した」としている。就任の経緯として、同社グループの幹部によれば、代表の車氏は買収後、ほとんど来日していないといい、浅井社長退任後の13年7月以降、実質社長職が不在だったという。中嶋社長とのつながりは、前職時から同社と顧問関係にあったといい、中島氏がクラシエHD会長を14年3月に退任したことで、前職の肩書きと手腕を評価され、社長職に就いたとみられる。
最近は『皇潤』について、通販だけでなく、ドラッグストアなどの薬系ルートにも展開。関係者の話では、グループ会社のある台湾など海外展開を視野に入れているようだ。
また4月に施行された機能性表示食品制度についても、同社に営業に行っている原料や受託製造企業から「買収直後は決裁権もなく、本社も聞いてもらえないのでなかなか話が進まなかったようだが、既存のリニューアルまたは新製品の開発も考えている様子。いろいろ提案している」と話しており、何らかの展開も予想される。設立からわずか数年で健康食品通販の雄となった同社。九州の有力通販は、大手中小の後発企業との競争で厳しい業況にあるところも少なくない。関係者に今後について聞くと、「まだLGがエバーライフを手放すことはない。業況回復を期待している」と話す。同社の今後に注目したい。
【小山 仁】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:車 錫勇
所在地:福岡市中央区天神2-5-55
設 立:1990年1月
資本金:41億3,712万円
業 種:健康食品、化粧品の通信販売
売上高:(14/12)130億2,800万円関連キーワード
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