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2015年08月21日 14:29

中島淳一「古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵」(4)

劇団エーテル主宰・画家 中島淳一氏

 己の創作領域のみを棲家とし、その域を超えた活動には慎重になりがちな芸術家が多いなか、福岡市在住の国際的アーティスト、中島淳一氏は異色の存在である。国際的な画家として高い評価を得るだけでなく、ひとり芝居に代表される演劇、執筆活動、教育機関での講演活動などでも幅広く活躍している。
 弊社発行の経営情報誌IBでは、芸術家でありながら経営者としての手腕を発揮する中島氏のエッセイを永年「マックス経営塾」のなかで掲載してきた。膨大な読書量と深い思索によって生み出される感性豊かな言葉の数々をここに紹介していく。


 ルドンの言葉に学ぶ~春は来ていないわけではない。それどころかちゃんと来ている~

 フランスの幻想画家ベルトラン・ジャン・ルドン(1840~1916)はボルドーに生まれる。身体衰弱のため、生後2日目にして殺風景な荒地ベイルルバードという村に里子に出され、10歳までそこで過ごす。
 青年期に詩人・マラルメと交友。真の意味で絵画という自分自身にふさわしい表現手段に目覚め、目に見える現実ではなく、感じとられる現実を、モノクロームの木炭画や石版画で幻想的な表現をする。晩年はパステルや油彩を用いて神話的夢幻の世界を精妙かつ鮮明な色彩で描き、象徴主義やシュルレアリスムの先駆者となった。

彼らの目標は現実を直接に再現することにほかならない。

 ルドンと同じ年に印象派の巨匠・モネが生まれた。モネは外光を追求し、ルドンは内なる世界に開眼する。己とは真逆のモネの写実的志向の意味をルドンは正確にとらえていた。
 モネは言う。「盲人に生まれて、そのあとで突然視力を取り戻せたのであれば、どれほどよかったであろう。そうすれば対象について何一つ知ることなく、無垢の状態で立ち向かうことができたろうに」。
 芸術は何よりもまず、できる限り素朴に先入観なしに見、凝りすぎることなく、美化することなく再現し、自然そのものに自然がつくり出す効果を支配させることである。
 ルドンはモネの絵画論にいかなる偏見も抱いてはいなかった。しかし、それゆえに、なお一層明確に批判をする。

写実主義的理論は芸術に制限を加え、その最も豊かな源泉を拒んでいる。

 芸術の豊穣の源泉は思想と霊感であり、天才にほかならない。天才が我々に啓示するいっさいである。現実を文字通り再現することにのみ執着する画家の欠点は完璧な仕上げや小道具をうまく描き上げるために人間や思想を犠牲にしている点である。
 彼らにとって人間とは肉体の美しさやその衣裳の絵画的効果以上に興味を引くものではないので、彼らの描く人物には精神的生命が欠けている。画家が遭遇するあの恵まれた瞬間に表現する秘められた奥深い生命の輝きが欠落しているのだ。真の芸術家は見られた現実が土台として必要であることを認めてはいるが、真の芸術とは感じられた現実のなかにこそ存在することを知っているのである。

春は来ていないわけではない。

 第一次世界大戦の勃発という狂暴な様相を呈する現実の世界のなかにありながら、ルドンは鮮やかな色彩で神話的宇宙を織り上げる。
 たしかに釈迦の言う通り、人生は1つの苦しみである。人類は愚かにも理性の錯乱のために自ら人間的なものを破壊し、深淵のように口を開いた明日への不安を抱きながら、生きている。
 それでも生命力そのものが枯渇することはない。如何なる苦痛を味わおうとも、そこに新たなる意味を見い出し、自分自身の神話を創造するしかないのだ。かくして命の春は永遠に続いていくのである。

<お問い合せ>
劇団エーテル
TEL:092-883-8249
FAX:092⁻882⁻3943
URL:http://junichi-n.jp/

<プロフィール>
nakasima中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
 1952年、佐賀県唐津市出身。75~76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩を書き、絵を描き始める。ホアン・ミロ国際コンクール、ル・サロン展などに入選。日仏現代美術展クリティック賞(82年)。ビブリオティック・デ・ザール賞(83年)。スペイン美術賞展優秀賞(83年)。パリ・マレ芸術文化褒賞(97年)。カンヌ国際栄誉グランプリ銀賞(2010年)。国際芸術大賞(イタリア・ベネチア)展国際金賞(10、11年)、国際特別賞(12年)など受賞多数。
 詩集「愁夢」、「ガラスの海」、英詩集「ALPHA and OMEGA」、小説「木曜日の静かな接吻」「卑弥呼」、エッセイ集「夢は本当の自分に出会う日の未来の記憶である」がある。
 86年より脚本・演出・主演の一人演劇を上演。企業をはじめ中・高校、大学での各種講演でも活躍している。福岡市在住。

 
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