2024年05月16日( 木 )

佐賀駅周辺、国スポ開催に向け活気づく(前)

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魅力度ランキング最下位の佐賀

 佐賀県は有田焼や伊万里焼といった伝統工芸品が、国内にとどまらず海外でも評価を受けるなど、日本屈指の磁器の産地として知られている。また、小さなムラが約700年を通して、40haを超える大環壕集落へと発展し、クニの中心となっていく過程がわかる、極めて学術的価値の高い遺跡・吉野ケ里遺跡もある。同遺跡は1991年に国の特別史跡に指定され、弥生時代の建物や住民の暮らしぶりの一端を体験できる吉野ケ里歴史公園は、現在も相応の誘客効果を発揮している。

 歴史に裏打ちされた佐賀県の強みは、これだけではない。九州の温泉県といえば大分県のイメージが強いが、実は佐賀県も嬉野温泉を筆頭に、武雄温泉、古湯温泉、からつ温泉などの温泉街を擁する、立派な温泉県である。

 なかでも古湯温泉は、2000年の歴史をもつとされる名湯のなめらかな泉質もさることながら、古い空き家をリノベーションしたカフェや雑貨店、図書館を宿泊施設にコンバージョンした「泊まれる図書館 暁」の誕生など、エリア全体で新陳代謝が促進されたこともあり、レトロとモダンが同居する“ニューレトロ”な温泉街へと生まれ変わっている。福岡市内から車で1時間程度と、嬉野温泉と同様、交通アクセスにも優れており、お勧めの観光スポットといえる。2022年9月には、西九州新幹線(武雄温泉~長崎)も開業した。佐賀県は、九州圏内・圏外の人たちにとって、これまで以上に身近な県になったはずだ。

古湯温泉街
古湯温泉街

 しかし、地域や企業ブランドの研究などを行う、(株)ブランド総合研究所が発表した「都道府県魅力度ランキング2022」において、それまで最下位の常連だった茨城県に代わり、佐賀県が最下位に転落してしまった。たしかにこれまで“通り過ぎるだけの場所”と揶揄されることもあった。県が掲げたキャッチコピー「佐賀を探そう」を、自虐ネタとして捉えている県民も少なくなかった。はたして佐賀の魅力は、正しく伝わっているのだろうか。

エンタメとのコラボで誘客図る

 アニメやゲームなどのエンタメコンテンツとのコラボにより、これまで佐賀県に興味・関心がなかった層からの認知も進んでいる。とくに、佐賀を舞台にしたアニメ「ゾンビランドサガ」や、人気ロールプレイングゲーム「ロマンシングサ・ガ」とのコラボは話題になった。ゾンビランドサガのアニメ放映後には、ファンが作品の舞台となった場所に足を運ぶ、いわゆる「聖地巡礼」が活発化。地域の何気ない場所がファン同士や地域住民との交流拠点に様変わりし、佐賀に「コンテンツツーリズム」という新たな誘客手段をもたらしている。

コンテンツツーリズム

 ゾンビランドサガは18年10月からテレビ放送が開始。佐賀県が公表している「佐賀県観光客動態調査結果」を見ると(表参照)、18年と19年の観光入込客数と観光消費額が大きく伸びていることがわかる。18年はそれぞれ前年比で130万人超、470億円超の増加となっており、観光資源の活用が進んでいる様子がうかがい知れる。19年は観光入込客数、観光消費額ともに前年比で微減となったが、観光消費額に関しては2年連続で2,600億円以上の成果を上げている。エンタメコンテンツの積極活用以前の観光入込客数の平均が約1,560万人、観光消費額は同1,760億円(11~15年)ということを考えると、エンタメコンテンツとのコラボは、一定の成果を上げたといえる。

佐賀県観光客動態調査結果
佐賀県観光客動態調査結果

 無論、エンタメの力に頼り切りだったわけではない。前述の吉野ケ里遺跡をはじめ、佐賀県には悠久の歴史を背景とした魅力的な観光スポットが複数ある。たとえば唐津市には、豊臣秀吉の家臣・寺沢志摩守広高が、慶長7年 (1602年)から7年の歳月を費やして完成させた市のシンボル、唐津城がある(※現在の天守閣は1966年に文化観光施設として建造された、5層5階の慶長様式の模擬天守)。JR唐津駅から唐津城までは徒歩20分程度。道中はかつての城下町の面影を残しており、ちょうど良い散策コースとなっている。また、イカの町として全国的な知名度を誇る“呼子”町もある。歴史・自然・食が調和した、佐賀県を代表する観光地だ。

 唐津市の21年の観光入込客数は221万人で、コロナ禍にも関わらず前年比113.8%の向上をはたしている。

 三菱地所・サイモン(株)が運営する鳥栖市の「鳥栖プレミアム・アウトレット」は、04年3月の開業後、複数回のエリア増設を行うなど絶えず集客力の向上に取り組み、コロナ禍前の18年9月までの累計レジ客数が、6,900万人を超えるなど、年平均約490万人が利用する人気施設となった。佐賀県内の温泉旅館の宿泊者を対象としたクーポンの発行や、地元の町を取り上げた物産展の開催など、地域色豊かな取り組みも特徴的だ。

 社会インフラも、それ自体が立ち寄りスポット化している。九州佐賀国際空港(佐賀空港)は、有明海の干拓地を利用して建造されたこともあり、周囲に遮蔽物がほとんどなく、展望デッキからの眺めは壮観だ。駐車場も一部を除いて無料(約2,000台分)で、「丸干しむつごろう」など、佐賀県ならではのお土産を購入することもできる。

 喜瀬川ダムには、ダムの誕生によって形成された人造湖「富士しゃくなげ湖」があり、足漕ぎボートやカヌーなど、水辺のアクティビティを満喫することができるため、訪れる人も増えてきている。

 歴史的遺構、既存インフラ設備、そしてエンタメコンテンツ。それぞれが相乗効果を生み出すことで、周遊性の向上が果たされれば、佐賀観光、ひいては佐賀県自体の魅力も、高まっていくのではないだろうか。

唐津城/佐賀空港

2024年、佐賀で国スポ・全障スポ開催

 観光立県になり得る高いポテンシャルを秘めてはいるものの、うまく波に乗り切れない佐賀県。しかし、24年には「SAGA2024国スポ・全障スポ」(以下、国スポ)という大きな波が押し寄せる。国スポ開催は、佐賀が全国から脚光を浴びると同時に、出場選手や関係者を含む、多くの人に佐賀の魅力を伝える絶好の機会といえる。

 国スポこと国民スポーツ大会の元になっているのは、国民体育大会(国体)だ。国体は、全国の主要都市が焼け野原となった戦後の混乱のなか、スポーツを通して国民、とりわけ青少年に勇気と希望を与えようとの思いから、戦災を免れた京都を中心とした京阪神地域を舞台に46年にスタートしたスポーツ大会。以降、幾度かの変更を経て、現在秋(9~10月)開催の本大会と、冬(1~2月)開催の冬季大会の2季別で開催されている。

 全障スポこと、全国障がい者スポーツ大会は、障がいのある選手が競技を通じて、スポーツの楽しさを体験するとともに、多くの人々が障がいに対する理解を深め、障がいのある人の社会参加を推進することを目的として開催されている。65年に宮城県を舞台に第1回大会が開催され、以降、オリンピック終了後に開催されるパラリンピックのように、毎年、国体終了後に開催されている。

 佐賀での国スポ開催は、76年開催の「第31回国民体育大会(若楠国体)」以来、実に48年ぶりとなる。また、国民体育大会の名称を国民スポーツ大会に変更する「スポーツ基本法の一部を改正する法律」成立により、国スポの名称で開催される初めての大会でもある。
 国スポでは、陸上競技から水泳、馬術、空手、なぎなた、クレー射撃などの正式競技37競技のほか、合気道、草スキー、滝登りといったデモンストレーションスポーツ28競技など、多種多様な全73競技が実施される予定で、24年10月5日(土)~15日(火)までの11日間、佐賀県全域がスポーツのフィールドと化す。

(つづく)

【代 源太朗】

(後)

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