2024年05月10日( 金 )

【中国総領事】中国経済情勢と今後の展望

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中華人民共和国駐福岡総領事
律 桂軍 氏

 コロナ政策を大きく転換させ、大多数の国民の感染という痛みをともないながらも、経済の正常化を目指す中国。旧正月(今年は1月22日)を前に、中国駐福岡総領事の律桂軍氏より、現在の中国経済の情勢と今後の展望に関する論考を寄稿していただいたので掲載する。

律 桂軍 中国駐福岡総領事

    現在、中国の感染対策が新たな段階に入ったことで、中国経済も最も苦しい時期を越え、2023年には全体的に回復し上昇することが見込まれます。

 コロナ流行からの3年間、中国経済は多くの試練に耐えながら、一貫して世界経済発展の動力源となってきました。20年、主要経済体で唯一のプラス成長を記録し、21年には主要経済体のなかで最高の8.1%という経済成長率を実現しています。22年は数々のプレッシャーのなかで粘り強く回復し、年間GDPは120兆人民元(約18兆ドル)を超え、実質経済成長率は前年比3%増を達成しました。過去3年間の中国経済成長率の平均は約4.5%で、世界平均を大きく上回っています。

 このコロナ大流行の3年間における中国経済のパフォーマンスは、粘り強さや潜在力、活力、長期的な上昇傾向という中国経済のファンダメンタルズに変化がないことを示しています。中国は世界で最も整った産業システムと、最大の潜在力をもつ内需市場を備えており、製造業の規模は世界の30%に達し、世界の製造業の中心となっています。このことは我々がリスクや挑戦に立ち向かうための強固な保障であり、最大の底力です。

 23年には、感染対策や関連措置の調整・最適化が経済回復にもプラスの影響をもたらし、今年の上半期、とくに第2四半期には社会生産・生活秩序が加速的に回復して、経済も活気を加速的に取り戻す見込みです。

 政策については、既存の経済政策と新規の景気促進策が相乗効果を発揮しています。22年に有効需要拡大と産業構造最適化に関する一連の政策や措置を実施しており、23年にもその効果が継続的に表れる見込みです。23年にはさらに、ニーズに応じた新たな政策や措置を打ち出していきます。既存の経済政策と新規の景気促進策が同じ方向で機能することで、経済回復にプラスに働くでしょう。

 23年、中国は財政、金融、産業、科学技術、社会に関する5つの大きな政策を総合的に実施します。財政政策では、社会資金に対する財政のレバレッジ効果を高めるため政策に力を入れ、適度な財政拡張を行い、政策効率を高めます。金融政策は的確で力強く、流動性の余裕を保つために十分な強さを併せもつものとします。財政政策や金融政策によって社会の総需要を下支えし、経済全体の回復を促します。また、産業政策、科学技術政策、社会政策と合わせて相乗効果を発揮させます。

 23年、中国は対外開放と協力をさらに進めます。現在、日本と欧州、韓国の対中投資額が増加しており、なかでも各国の中小企業が中国に大きな関心を寄せています。中国は海外からの市場参入を拡大し、外国資本に対するネガティブリストを適正に縮小して、現代サービス業の市場開放に力を入れるとともに、教育や医療、介護などの分野の市場開放を進めます。また、自由貿易試験区や海南自由貿易港、各種の開発区や保税地域などの開放型プラットフォームについて、その先導的かつ試験的な役割を発揮させます。

 市場志向で法令を遵守する、国際性を備えた一流のビジネス環境を整えます。外資系企業に内国民待遇を与え、公平な競争を促すとともに、知的財産権と外国投資の合法的権益の保護を進めます。外資系企業に的を絞ったサービスを提供します。外国投資家との交流を深め、問題解決を助け、貿易・投資・商談を行いやすくするため最大限の便宜を図ります。

 もちろん中国経済はさまざまなリスクや挑戦にも直面しています。世界的にはウクライナ危機が深刻化し、食糧やエネルギー安全の課題に直面するうえ、コモディティ価格が高値で変動し、スタグフレーションが懸念されます。国内では経済の回復基盤が不安定で、需要の収縮、供給への衝撃、市場の期待の後退という三重の圧力が大きくのしかかっています。

 しかしながら、習近平主席を核心とする中国共産党中央の力強い指導のもと、我々には経済活動を好転させるための自信と条件、そして力があります。米金融大手ゴールドマン・サックスもこのほど、23年の中国経済の成長率予測値を当初の5.2%から5.5%に引き上げました。23年、世界経済の成長は伸び悩みが予想されますが、中国経済は回復が期待され、独自の上昇軌道を描くことになるでしょう。


<プロフィール>
律 桂軍
(りつ・けいぐん)
1967年生まれ。99年中華人民共和国駐日本国大使館アタッシェとして着任。以後、中国外交部アジア局処長(課長)、駐日本国大使館参事官、外交部アジア局参事官、駐シドニー総領事館副総領事、駐日本国大使館公使参事官を歴任。2020年6月、駐福岡総領事に着任。

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