2024年05月23日( 木 )

ウクライナ侵攻から1年、様相が変化するウクライナ

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国際政治学者 和田 大樹

ウクライナ キーウ 戦前イメージ    2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過した。昨年の年明けの際は、ウクライナの各都市はクリスマスツリーで彩られ、街では市民が年明けを祝い、どこにでもある平和な生活が見られていた。しかし、それは2月24日を境に破壊され、南部マリウポリなどの写真を見ると「これが年明けのときと同じ街か!」と懐疑的になるほどに、ウクライナの人々の生活はまったく変わってしまった。

 侵攻から1年が経ち、ウクライナをめぐる政治的環境にも変化が生じている。侵攻当初、プーチン大統領は数日のうちに首都キーウを陥落できると認識し、メディアや専門家の多くもそのように捉えていたが、欧米諸国から軍事支援を受けるウクライナ軍の抗戦が功を奏し、ロシア軍はキーウ周辺からの全面撤退だけでなく、ロシア国境のウクライナ東部・南部で抵抗戦を強いられている。一概に断言できるわけではないが、これまでの1年は、ロシアにとっては“如何に支配地域を拡大するか”、ウクライナにとっては“クリミア奪還までを想定し、如何にロシア軍を外に排除するか”が最大のポイントであった。欧米諸国による支援も武器・兵器に特化し、ウクライナを取り巻く情勢は地域的、極地的な様相が濃かったように思われる。

 しかし、以下のような事実により、その様相はよりグローバルに、もっといえば、米露間の代理戦争的なものに近づいているように感じる。まず、欧米諸国による供与の変化だ。これまでは武器・兵器が中心だったが、米国やドイツ、英国などは最新鋭の戦車を供与することを決定した。今後欧米各国からウクライナに渡る戦車の総数は300を超えるという。また、ペンタゴンの高官は2月末、戦闘機の供与には1年半かかるとし、現時点で供与は現実的ではないとのバイデン政権の意向を示した。しかし、戦車や戦闘機の供与となれば、たとえバイデン政権にウクライナへ軍事的に関与する意思がなくても、ロシアがそれによって米国への敵意を強め、代理戦争の様相が強まることは避けられない。武器・兵器と戦車・戦闘機では供与の重さが異なろう。

 また、2月21日のプーチン大統領による一般教書演説は、強く米国を意識したものとなった。そのなかで、プーチン大統領は米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の履行を停止することを明らかにし、米国が核実験を実施すればロシアもそれに続き、核戦力を強化する意思を示した。そして、28日、新STARTの義務履行をロシアが一時停止すると定めた法律にプーチン大統領が署名し、発効された。また、これに関してペンタゴンのカール国防次官は同日、議会下院軍事委員会の公聴会の席で、ロシアには経済的、軍事的劣勢が続いており、核兵器の軍拡競争を行うための資源がないとの見解を示した。

 対中国を最重要課題とするバイデン政権は、ウクライナへの関与で対中けん制が劣化することへの警戒心から、ウクライナ戦争の代理戦争化を最大限避けるであろう。しかし、米国の対ウクライナ支援をロシアがどう見るかは別問題であり、ウクライナ戦争の代理戦争化というものは、大国中国にとって政治的には都合の悪くない動きともいえよう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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