2024年05月13日( 月 )

リジェネラティブ・デザイン論、都市の「逆開発」考察(3)

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【提案】身体性をとりもどすアプローチ

~行き過ぎた都市化はすべての問題の根源に鎮座する~

<リジェネラティブ・デザイン>
□アクロス福岡(事例①)
□泥の建築(事例②)
□自然素材の思考(事例③)
□仮説)山に戻す建築
□再生設計の建築
□2038年の備え

 雨の水を川に変える「流域」という地形は、水循環の基本単位であり、その空間に展開する生物世界を含めて考えれば「流域生態系」であり、水の暮らしまで含めて考えれば「流域生活圏」であるということがわかってきた。私たちは、この地図の世界を塗り替えていかなければならない。そのなかで同時に浮かんでくる有用なアプローチを、筆者なりのアプローチで、身体性を取りもどす提案としてみたい。

リジェネラティブ・デザイン

 世界で1年間に消失する森林の面積は500万ha。日本全体の森林面積は2,500万haなので、今の世界の森林の喪失速度は、5年間で日本全体が丸裸になるという勢いだ。江戸時代と比べて現代の日本人は、1人あたり40倍のエネルギーを消費しているといわれる。そのエネルギーの大部分は石油から得られる。その石油は地面に埋まっているのを掘り出しているわけだから、使えばいずれなくなる。だから持続可能性ということが盛んに叫ばれる。現在、意識ある消費者の圧力によって企業がサスティナビリティに目を向けるようになった。しかし、これからは経済システムを地球の限界に合わせたものにしなければならない。そのためには消費者から「市民」というマインドセットに移行し、ただ目の前のメニューから選択するのではなく、もっと高い目標を目指さなくてはならない。

 そのために今、デザインに求められる姿勢は「人のため」という従来の仕組みや方法論ではなく、(社会)環境の、多様な生物のためといった、より包括的、長期的な視点からモノづくりに取り組むことが必要とされる。

 “リジェネラティブ(Regenerative)”とは、英語で「再生(更生)させる」ことを意味する言葉だ。「継続」を示す“サスティナブル”は、あくまでも今あるシステムを維持する意味合いが強い。つまり、サスティナビリティからニュートラルを越えて、もっと積極的な領域にまで入り込まなければならないのだ。

 リジェネラティブという言葉は、問題の根本を解決し、現状をより良くするための積極的なつくり替えに使われる。とくに環境の再生に関する取り組みと相性が良い。また、サスティナビリティは人間中心だが、地球全体に視野を広げ、我々が依存しているほかの生命システムとの健全さを取り戻すことも必要なのだ。リジェネラティブ・デザインとは、回帰したり復元したりすることではなく、その場が有している潜在力を最大限に引き出しつつ、そこにまったく新しいものをつくりあげること。“場所”に対峙する建築・建設産業にとっては避けては通れない、取り組まなければならない最上位の命題となってきている。

リジェネラティブ・デザイン ぐりんぐりん(設計:伊東豊雄) アイランドシティ中央公園
リジェネラティブ・デザイン
ぐりんぐりん(設計:伊東豊雄)
アイランドシティ中央公園

アクロス福岡(事例①)

 世界人口の増加、都市化、インフラの必要性を考えれば、建築、エンジニアリング、そして建設の各業界は、その考え方や計画、建設・運営方法を一変させることを目指す必要がある。建築環境について再考するだけでなく、それをリデザインしなければならないのだ。「環境に害が少ない」というだけでは、これからの課題への対処に十分なパラダイムシフトとはいえない。本来の自然を可能な限り損なわず、むしろより充実させながら都市を開発する。

 アクロス福岡の基本構想は、建物が建設されることによって失われてしまう、地表分の面積をそのまま地域のコミュニティに還元するということだった。生み出された緑の楽園には、風や鳥によって運ばれた種が新たに芽吹き、堆積した落ち葉が表土となって微生物や昆虫が生息する。その虫を餌とする鳥が集まっては木々の実を落としていくという循環型生態系ができている。より豊かで地域に根差した生物多様性へと、都会に生まれたガーデンの成長は今も続いている。

 本来不可分であるはずの人間の生活環境と自然の生態系。建築と自然を分け隔ててきたその境界線を問い直すこと、業種や分野、産業、パーソナルな背景を超えたまったく新しい線を引くことに、リジェネラティブ・アーキテクチャーの一歩目はあるのかもしれない。

アクロス福岡  公式HPより
アクロス福岡  公式HPより

泥の建築(事例②)

 泥の建築は、アジアやアフリカの発展途上国だけでなく、歴史的に世界中に存在しているにも関わらず、長く研究されてこなかった。汚く、原始的で、強度的に弱いという偏見とともに、その魅力が机上で体験できないことが知識不足の理由だっただろう。最近の泥建築の多くは、セメントを10%ほど混ぜている。一見少なく感じるかもしれないが、建築の規模が大きくなればなるほど、環境的には見逃せない数値だ(日本ではなかなか難しい表現だが、デザイン次第では泥にセメントを加えなくとも強度を保てる建築物は、可能なところまできている)。

 泥の最大の利点は、土に戻すことができるところにある。人為的な加工を一切必要とせず、完全に再生可能なマテリアルは現在、土の他には存在しない。つまり泥、土、砂といった地表を覆う素材こそが、万能のリジェネラティブな建築資材ということだ。

 泥の建築は、特別な技術や道具を必要としないため、老若男女を問わず、地域のコミュニティの誰もが建設に携わることができる。年月を経た土壁には、やがてヒビ割れが生じるが、身近にある泥をすくい、水に濡れた指でなぞるだけで子どもでも修復ができる。建築に「使う人」が携わることで、建てられたものを享受するだけじゃないという感覚が、空間を「身体的な道具」として取り戻すことにつながる。

泥の建築 ジェンネ旧市街 世界遺産オンラインガイド公式HPより
泥の建築 ジェンネ旧市街
世界遺産オンラインガイド公式HPより

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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