2024年05月18日( 土 )

セブン&アイのお家騒動 世襲と決別したライフコーポ(前)

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 創業家回帰と世襲──。経営者にとって永遠のテーマだ。総合スーパーのイトーヨーカ堂を創業した、セブン&アイ・ホールディングスの伊藤雅俊名誉会長が3月10日に死去した。98歳だった。伊藤氏と、ダイエー創業者・中内功氏(2005年9月19日、83歳で没)、イオングループの創業者・岡田卓也氏(97歳)、ライフコーポレーションの創業者・清水信次氏(2022年10月25日、96歳で没)は、戦後の流通革命を主導してきた第一世代だ。

 伊藤氏、清水氏、岡田氏は同世代なので「3人会」をつくり、年に数回会っていた仲だったという。ライフコーポレーションの清水氏とイトーヨーカ堂の伊藤氏が相次いで他界した。世襲についての考え方は、伊藤氏と清水氏では正反対だった。

創業者・伊藤氏と「カリスマ経営者」の間に亀裂

セブン&アイ・ホールディングス イメージ    伊藤雅俊氏の死去を受けて、報道各社は一斉に評伝を掲載した。

 伊藤氏最大の功績は、セブン&アイをコンビニエンスストア、セブン-イレブンを中心とした日本屈指の流通グループに育てた名誉顧問の鈴木敏文氏(90歳)を見出したこと。この評価では各社は一致している。

 セブン&アイには2人の創業者がいた。1人はスーパーのイトーヨーカ堂を創業した名誉会長・伊藤雅俊氏。セブン&アイの大株主である。そしてもう1人は、コンビニのセブン-イレブン・ジャパンを創業した会長兼最高経営責任者(CEO)の鈴木敏文氏。こちらは「雇われ経営者」である。

 イトーヨーカ堂とセブン-イレブンというセブン&アイを日本有数の小売業に引き上げた2つの両輪を先頭に立って引っ張ってきた両者の確執がいきなり表面化した。

 2016年4月7日に開かれたセブン&アイの取締役会で、会長・鈴木敏文氏が提案したセブン-イレブン社長の退任案が否決され、鈴木氏は会長の辞意を表明した。名誉会長・伊藤雅俊氏が、この人事案に反対した。

 当時91歳の創業者・伊藤雅俊氏と、83歳のカリスマ経営者・鈴木敏文氏の亀裂が表面化した瞬間だった。

鈴木会長による世襲に創業家の伊藤家が反発

 セブン&アイの内紛劇には、鈴木敏文会長=鈴木康弘取締役親子の世襲をめぐって創業家・伊藤家との対立があった。

 有森隆著『創業家一族』(エムディエヌコーポレ-ション刊)に収録されているセブン&アイ・ホールディングスの「創業家はなぜカリスマ鈴木敏文を追放したか」の世襲のくだりを要約する。

 鈴木氏は退任会見で、「井阪隆一セブン-イレブン・ジャパン社長の解任案に対し、なぜか、伊藤雅俊・名誉会長が反対に回った。今まで伊藤家とは良好な関係にあったが、ここにきて急に変わった」と語った。辞任する理由は、創業家である伊藤家との対立にあるという。

 創業家である伊藤家との対立は、鈴木氏の次男、康弘氏(1965年2月生まれで、現在58歳)への世襲人事にある。

 世襲問題に火をつけたのは、米投資ファンドのサード・ポイントだった。「物言う株主」として知られるダニエル・ローブ氏は16年3月27日付の書簡で、「井阪氏の社長職を解く噂を耳にしたが降格は理解できない。鈴木会長は、次男の康弘氏をセブン-イレブン・ジャパン社長、最終的にはセブン&アイ・ホールディングスの社長に指名しようとしている可能性があると投資家の間で懸念されている」と指摘した。

 これまで水面下で語られていた世襲問題が一気に噴出した。

鈴木会長の次男・康弘氏、破格の大出世 

 15年5月28日に開催されたセブン&アイHDの定時株主総会で、鈴木会長の次男である鈴木康弘氏が執行役から取締役に昇格した。康弘氏の取締役昇格は、敏文氏が康弘氏を後継者にすることを社内外に宣言したものと受け止められた。

 康弘氏は1987年、武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部電気工学科卒業後、富士通にシステムエンジニアとして入社。96年、ソフトバンクに転職。99年8八月、書籍のネット通販会社、イー・ショッピング・ブックスを設立して社長に就任。2009年12月にセブン&アイの傘下に入り、セブンネットショッピングに社名変更した。

 康弘氏が破格の大出世を遂げるのは14年3月から。中間持株会社のセブン&アイ・ネットメディアが子会社のセブンネットショッピングを吸収合併。吸収された康弘氏は吸収したセブン&アイ・ネットメディアの社長に就任、セブン&アイHDの執行役員に昇格した。

 セブン&アイの孫会社の社長にすぎなかった康弘氏は、子会社の社長に格上げになり、本体の執行役員に名を連ねた。さらに14年12月、康弘氏のために新設された最高情報責任者(CIO)に就いた。そして、セブン&アイの取締役に昇格した。

 康弘氏の肩書は、取締役執行役員最高情報責任者(CIO)。鈴木会長の最高経営責任者(CEO)、村田紀敏社長の最高執行責任者(COO)などの経営中枢で序列5位のポストだ。わずか1年余で三段跳びの異例な大抜擢である。

 これに対して、伊藤名誉会長の次男、順朗氏(1958年6月生まれで、現在64歳)は取締役執行役員CSR(企業の社会的責任)統括部シニアオフィサーの肩書きをもつが、経営中枢のポストではない。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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