2024年05月16日( 木 )

【インタビュー】女性活躍社会が企業活動を活発に 議論の機会を増やしアイデアに溢れる環境を

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WE-Nextの会

 WE-Nextの会は福岡の経済の発展のための必要不可欠な要素として「女性活躍」を掲げ、福岡の女性管理職コミュニティの場を創造・提供している。同会の福岡県下の女性管理職ネットワーク「WE-Net福岡」はこれまで9期にわたって運営されており、福岡に限らず日本全国で活躍するビジネスパーソンとなっている修了生も多い。同会の誕生の経緯や、「女性活躍」が企業や経済全体に与える影響について、自身も西部ガスホールディングス(株)において人事を担当してきた同会副代表・髙山健司氏に話をうかがった。

前団体の意志を絶やさぬために

WE-Nextの会 副代表 髙山健司氏
WE-Nextの会
副代表 髙山 健司 氏

 ──貴会の設立の経緯をお聞かせください。

 髙山健司氏(以下、髙山) 当会の前身は2013年に誕生した「女性の大活躍推進福岡県会議」になります。これは麻生渡元福岡県知事や福岡有数の経営者を中心に始まった運動体で、独自の女性管理職ネットワーク「WE-Net福岡」をもっていました。このネットワークは全国から注目を集め、15年には内閣府の「女性のチャレンジ支援賞」を受賞するなど、女性活躍社会の実現のため着実に進歩を続けていました。しかし、20年の経済団体の合併にともない、廃止。代替組織を作ることなく1年が経過していましたが、そのなかで女性管理職比率に変化がなかったことや著名人による女性軽視発言などが日々マスコミに取り上げられていたことなどから、まだまだ道のりは遠いことを痛感しました。この現実を変えなければならないという使命感から有志が立ち上がり、ジェンダー平等やD&I(多様性・包摂性)が実感できる社会の創出を目的に、前団体の活動を継承するかたちで21年4月に当会は設立されました。

 ──普段はどのような活動を行っていますか。

 髙山 当会の中心となるのは「WE-Net福岡」です。福岡県を中心とした九州圏内で管理職を務める女性のビジネスパーソンを対象に募集を行い、合同定例会やグループ別活動を行っています。自社・自身が抱える問題について討論し合うことで、ジェンダー領域の視点を獲得。社会課題やビジネスシーズに着眼できる人材の育成を行っています。

 当会に属するメンバーの育成だけでなく、自治体と連携して外部の若年層ビジネスパーソンへのキャリア形成支援や出前講演会を行っています。女性活躍社会を推進するためには当会のなかだけでなく、外部のビジネスパーソンや次世代に対する働きかけも必要不可欠だと考えております。

 当会には「ボード会議」と呼ばれる機関が備わっており、麻生渡元知事や㈱テノ.ホールディングスの池内比呂子代表など、前運動体のころからご尽力いただいていた方々に所属していただいています。WE-Nextの会はこのボード会議に向け、毎期の方針の宣言や会期終了後の結果報告を行っています。

 これまで9期にわたって活動してきました。実はここから輩出された修了生もさまざまな活動を自ら行っています。最近では大学や行政主催の勉強会でメンターとなって講話を行うほかフォーラムを主催するなど、修了生が自発的にネットワークの維持や拡大・発展に努めていることで女性活躍への意識の輪がさらに広がり、福岡の経済界に女性活躍の重要性が少しずつ浸透しつつあると感じます。

WE-Net福岡 活動の様子
WE-Net福岡 活動の様子

最終的な目標は「福岡経済の活性化」

    ──ビジネスの場において、なぜ「女性活躍」が必要なのでしょうか。

 髙山 当会の活動は「福岡経済の活性化」のためにあります。近年はめまぐるしく経営環境が変化しており、ESG投資の観点からジェンダーやサステナビリティが注目されるようになったことや経営の仕方についてこれまで以上に投資家からの視線が強くなったこと、もはやジェンダーによって差が生まれないDXという領域で戦ったり、それを経営に取り込もうとしたりする企業が増えたこと…など、これまでにない潮流が一気に押し寄せてきています。しかし、これらすべてに対応するための一種の方策となるのが「多様性」であり、その第一歩となるのが「女性活躍」だと考えています。

 経営者をはじめとして、ビジネスパーソンのなかで多様性への認識は間違いなく高まったと思います。ただ、「意識」が高まっただけで、実際の制度の改善・改革には着手できていない企業が多いのが現状です。女性管理職比率は低いままで、育休取得や各人に合った働き方としてのテレワークなどを自由に選択できているとはいえない。アンコンシャスバイアス(※)の存在に気が付けている人も少ない。これらの事象が停滞した現状を表しています。しかし、ビジネスパーソンが悩むべきはそのようなミクロな部分ではなく、「経済のなかでどのように生き残っていくか」というマクロな部分ではないでしょうか。

※無意識のバイアス:思い込みによる無意識の偏った見方

 多様性へと向かっていこうにも、個人の力では社会全体を変えるのは難しいです。そのため、WE-Net福岡のネットワークに属する女性管理職のメンバーは「まず身内から変えていこう」と、自身が率いるチームにその重要性を伝え、変化を生み出しています。

 当会では1期生につき7~8カ月間、ミーティングをしながら活動していますが、1人ひとりから着実な成長が感じられます。意見を出し、それを班員で議論するというのが基本的なミーティングの内容になりますが、ここでの「意見を出しても否定されない」という経験から「自分にも発言権がある」とわかるため、回を重ねるごとに議論が活発になっていきます。さらに、自分以外の人からの意見をもらうことによって、改善点に気付くことができるため生み出す企画の精度も上がっていきます。

大学での講演会も行う
大学での講演会も行う

    また、適切な議論のためには各人が情報を収集したり、考えたりする必要がありますので、自ずとチームメンバーの質も向上していきます。さまざまな知恵を携えた人たちが集っている状態はまさしくD&Iであり、それが企業の成長に欠かせないということがわかります。最近は企業のIT化が進んでおり、単純作業は取って代わられるといわれますが、デジタル機器の「運用」は最後まで人間が務める役割であり、そのための議論は今後も絶えず行われます。今後の企業活動において、議論を活性化させる必要性はより濃くなっていくでしょう。

 経営者はこの激動の時代のなかで舵取りをしなければなりません。その道で何が起こっているのか、この先で何が起きそうなのか。情報収集はすべての要になります。しかし、この情報に溢れた時代においては経営者ひとりの情報収集能力では到底カバーしきれません。多様な人物を採用・育成することによってアンテナを広く掲げることができるため、リスクヘッジの方策とすることができるのです。

 ──福岡の現状はいかがでしょうか。

 髙山 03年に国は「20年までに女性管理職比率を30%にする」という目標を掲げましたが、達成することはできませんでした。福岡市では課長相当職以上(役員除く)に占める女性の割合は11.3%(福岡市男女共同参画年次報告書(令和3年度事業実績))となっており、同項目の全国平均である31.2%(厚生労働省、令和3年度雇用均等基本調査)を下回っています。

 多様性を認知している経営者は多い一方で、その腰の重さも感じられます。「うちの女性社員は管理職に就きたがらない」「管理職に就ける人がいない」「女性だけを優遇したら組織が成り立たない」。行政や企業のセミナーで講演を行ってきたなかで、よく耳にしたのがこの3つの言葉です。しかし、これらすべてには根本的なズレがあります。管理職に就きたくないと思う理由は聞きましたか?管理職クラスまで社員を育てましたか?今までの制度が平等ではなかったのではないですか?多様性の重要性を認識している経営者は増加傾向にあります。ただ、まだ実行できていないのはこれらのような懸念が行動を阻んでいるのだと思います。

コロナ禍においてはオンラインでの活動を行った
コロナ禍においてはオンラインでの活動を行った

現状把握し改革に着手 経験を与え、意識を育てる

 ──実際の例としておうかがいしたいのですが、西部ガスホールディングスとしてはいつごろから「女性活躍」を意識するようになったのでしょうか。

 髙山 当社では2013年、「女性活躍推進計画」という10年にわたる計画を始動させました。当時、女性が活躍できる環境の整備が進んでいないという意識があり、これには長期で取り組まなければならないと考えていました。まず始めたのが経営陣や管理職、社員、そして当事者である女性自身の意識改革です。ここでわかったのは「女性はさまざまな仕事を割り当てられていなかったことから、経験不足な面が多い」ということです。計画達成のための活動として女性たちでプロジェクトチームを組み、会社に提言をしてもらうなど、研修を積み重ねてきました。また、当グループにおいては半分近くの社員が現場職となっていますが、ここにも女性社員が増え始め、活躍の場が広がっています。

 このような取り組みを行いながら、アンケートを実施するかたちで定点観測を行ってきました。取り組みの成果は徐々に結実しはじめ、「会社から育成してもらっている実感はありますか」「管理職に就きたいという意識はありますか」という項目において「はい」と答える人の数が増加しています。今年、ついに始動から10年が経ちます。いま振り返ってみると、初期のころから育成してきた社員の意識はかなり高くなってきていると感じます。近いうちに、さまざまな分野で活躍する管理職がさらに増加していくだろうと期待を寄せています。

 ──福岡の経営者に向けたメッセージをお願いします。

 髙山 経営者が先頭に立てば、多様性の第一歩である「女性活躍」は進むと確信しています。会社やチームを変えていくためには小さな変化が必要不可欠で、それを恐れずに突き進まなければなりません。さらに重要なことは「社員と正面から対話すること」です。これをしないことには環境変化のなかで舵取りはできないと感じています。

 多様性が大事であることを理解している経営者は多いと思いますが、一歩を踏み出せている方はまだ少ないと感じます。福岡経済の「伸びしろ」となるこの層に働きかけ、変革を起こしていくべく、これからも継続して発信してまいります。

【杉町 彩紗】


<PROFILE>
髙山 健司
(たかやま・けんじ)
1959年8月21日佐賀県生まれ。同志社大学法学部卒業後、82年4月に西部ガス(株)に入社。エネルギー統括本部北九州支社総務部長やひびきエル・エヌ・ジー(株)への兼務出向などを経て2020年6月からは取締役・常務執行役員を務める。また、21年4月よりWE-Nextの会・副代表、23年4月より西部ガス・カスタマーサービス(株)の代表取締役を務める。


<INFORMATION>
代 表:高見 真智子((株)サイズラーニング 代表取締役)
所在地:福岡市中央区大濠公園2-35
設 立:2021年4月
URL:https://we-next.jp

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