2024年05月11日( 土 )

会社は「我が子」 子ども以上に愛情を注いだ夫婦の生き様

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ゼオライト 共同経営者
河村恭輔氏・河村勝美氏(故人)

水プラントメーカーとして全国基盤を築く

    ゼオライト(株)の企業としての紹介については当サイトに記事をいくつか掲載しているので、そちらを見ていただきたい。同社の設立は1970年に遡る。創業者は河村恭輔氏である。「逆浸透膜を活用した水づくりから水プラントメーカー」として業績を浸透させた半世紀の戦いはまさしく「山あり谷あり」のドラマそのものであった。

 一時は会社乗っ取りの危機にも遭遇したこともあったが、恭輔・勝美夫婦は鉄の団結でピンチをねじ倒した。「会社は我が子より愛しい。悪人に負けてたまるか」と言い聞かせながら戦いに臨んだ。このご両人はまさしく「中小企業経営者の見本」と提言できる。このご夫婦からさまざまな薫陶を受けた。深く感謝する。

朝食づくりに専念・注力

 いまどきの中小企業経営者には想像もできないであろう!勝美氏が社員たちのために朝食づくりを始めたのである。「家族のある社員さんたちはしっかりと朝食をとっているから健康には心配しなくても良いであろう。しかし過半数を占める独身組はまともに食事せずに現場を直行することを知った。これでは空き腹で仕事に集中できずに健康に悪いという認識に至った」と朝食づくりの動機を打ち明けてくれた。

 決断即実行が勝美氏の信条である。本社の隣接地に食堂を構えた。準備のスタートは朝4時半である。自らが料理の仕込みを買ってでた。ご飯を炊き、味噌汁を仕込む。おかずを2~3品そろえる。6時過ぎから朝食を求めて社員が出社してくる。ご飯のおかわりをする彼らを目の当たりにして「早く起きて朝食の準備をした甲斐があった」と勝美氏の体内には満足感が充満していった。清々しい気分である。

 この朝食の提供は6年ほど続いた。しかし、時代が労働時間規制に動き始めたため、中止した。「朝食時間まで労働時間にカウントされるようであれば続行できないな」と判断したのである。勝美氏からこの朝食提供に関する見解をいただいている。「社員さんたちの健康に関して、私たち(朝食づくりのスタッフ)が真剣に考えてくれているのだと理解してくれた。そのころから社員たちも会社への愛着心をもつようになったと思う。社員間でも結束が高まってきたと記憶している。表現を変えていえば、社員間の結束がゼオライトの躍進開始の原動力になったのではないか」。本当に感動する言葉である。あとで触れるが、理念を徹底して具現化した実例である。

熱心に学習する

 恭輔・勝美夫婦は熱心でよく学習した。学問の学ではない。「いかに強い会社をつくるか!」の経営実践が学習である。落としどころは「理念経営」「社員を守る、大切にする」経営の実現である。スタート時の1995年当時は、ある教育機関で一緒に学んだこともあった。経営陣の教育期間を終えると社員コースに移る。ゼオライトは、まずは幹部候補社員たちを大量に参加させた。その結果、3代目社長を継承した嶋村謙志氏のようにすべてが大きく羽ばたくようになった。

 学習レベルを立ち止まらせることがなかった。「ステップアップ・ステップ」がモットーであった。最終的には盛和塾(京セラ創業者・稲盛和夫氏が塾長)に入門して、さらにレベルをアップさせた。圧巻なのは入門した塾で必ず最高の栄冠賞を得ていたことである。盛和塾での研修中にはコンサル代2,000万円を投資して会社の仕組みづくりまでを刷新し積み上げていった。まずは「研修は己の鍛錬の場」と位置付けて両夫婦が陣頭指揮で受講し続けた。だからこそ社員たちも真剣に受講して大きく成長した。結果、会社のレベルアップが実現するのは間違いなかった。

健康面でも細心の配慮

 さらにいろいろな助言を受けた。やはり人間の人生は気学の法則に決定づけられる。気学を知り「自分の運勢の法則を事前に予知できて対応策を講じる」ことは賢明なことである。この気学の必然も河村夫婦から叩き込まれた。さらに健康に関しても最大の配慮をもって対応してこられた。唐津にある治療院の紹介も受けた。筆者夫婦も通院に通った。おかげで健康に留意することができた。

社員優先の思考に、もらい涙を流す

 恭輔・勝美夫婦も年齢を重ねていくと事業継承のことが深刻なテーマになってくる。各銀行がM&Aプランを投げてくるようになった。ある金融機関の提案に食指が動いたこともあったが、一頓挫した。「どうして条件も悪くないのに案件が破綻したのであろうか?」と疑問を抱いた。「値段で折り合わずに破綻したとは思われない。別の要因があるな?」と推察した。恭輔創業者に遠慮なく質問を投げかけてみた。

 「恭輔会長!どうして今回のM&A案件を断ったのですか?」と迫った。「社員たちのことが可哀そうになったのです」と涙声になって打ち明ける。契約日前夜、ベッドに横になった。社員のみんなの顔が浮かんでくる。いつもよりも寝つきが悪い。突然、ある社員の顔が鮮明となって「会長! 会社を売らないでください。会長・勝美社長の下で私は働き続けたいのです、と迫られたときに目が覚めた」と説明する。

 恭輔氏は身振りをしながら大粒の涙を流す。「社員たちのなかから次の経営者を抜擢するのが最良策と決断を下した。嶋村専務であれば確実に事業継承できると確信した次第である。社員たちも安心して献身的に働いてくれるであろう」と経緯を述べてくれた。永年、企業調査に携わってきた筆者も感動して涙が溢れ出した。「これだけ己の私欲を節制して社員たちのことを考える経営者に初めて遭遇した」と驚嘆したのである。

夫婦、あの世でも仲の良い伴侶なり

 恭輔氏は2020年11月に86歳で永眠された。悔いなきビジネス人生を全うできたのは同氏の人柄と他人様の努力の賜物である。勝美氏は23年2月に79歳で成仏された。2年3カ月、勝美氏は一人暮らしをされた。自宅を訪問すると恭輔氏の仏壇を指さしながら「恭輔さんが早くこちらへやって来いと迫られるのよ」とのろ気話を耳にしたのが非常に懐かしい。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:嶋村 謙志
所在地:福岡市博多区那珂5-1-11
設 立:1970年8月
資本金:9,000万円
TEL:092-441-0793
URL:https://www.zeolite.co.jp

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