2024年05月14日( 火 )

【福岡・七隈】花みずき通り商店会、地域の生活インフラ存続への取り組み

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昭和30年から続く老舗商店会

    3月、博多駅へ延伸開業した福岡市地下鉄七隈線。その七隈線・七隈駅から金山駅までの約1.2kmのエリアを中心に、新旧さまざまな商店が軒を連ねているのが「花みずき通り商店会」だ。

 花みずき通り商店会は、昭和30年代に「七隈本町商店会」と呼ばれた商店街に由来する。当時は、鳥飼梅林線(現・城南学園通り)に小規模の商店が立ち並んでいたという。

 同商店会が位置する地域は、北に中村学園大学、南に九州有数のマンモス大学である福岡大学があるほか、周辺には松山団地・金山団地・茶山団地などの大型団地が存在しており、文教エリアと住宅エリアが共存しているのが特徴だ。2005年2月の福岡市地下鉄七隈線の開通を契機に、城南学園通り沿いに街路樹としてハナミズキが植えられ、商店会の名称も現在の「花みずき通り商店会」へと改称された。

 19年から商店会の会長を務める福岡市議会議員・調崇史氏は、「一般的な商店街では、アーケードがあるなど商店が集中しています。しかし、花みずき通り商店会は、学園通りに沿って店舗が点在しています。そのため、商店街ではなく商店会と称して、会員さんの親睦を図っています」と語る。

商品券で地域活性化に寄与

    45の店舗と企業で構成されている花みずき通り商店会だが、なかには創業50年を超える商店もあり、地域から長く愛されてきた。調会長の政務活動事務所である市政相談所も13年から商店会の会員となっており、花みずき通り商店会の運営に関するサポートを行ってきた。調会長に「七隈線の延伸開業は、商店会にどのようなチャンスをもたらすのか」と問いかけると、その答えは意外なほどに慎重だった。

 「七隈線の延伸開業で、博多や中洲の店に足を運びやすくなりましたが、そのことが地元の飲食店の集客に影響するかもしれません。路線バスも減便され、金山団地の高齢者の方々からは、バスが1時間に1本となり買い物や通院が不便になったとの声を聞きます。地下鉄延伸によって通勤・通学が便利になったことは大いに歓迎しますが、今後、地元経済にどのように影響するのかについては、慎重に見極めなければ。商店会は地域住民にとって欠かせない生活インフラですから、必要な沿線対策があればしっかりと市にお願いしなければと思っています」と話す。

 花みずき通り商店会の活動として特筆すべきは、コロナ禍で落ち込んだ消費需要の喚起であろう。5月8日、新型コロナウイルス感染症はようやく5類感染症へと移行したが、それまでの約3年間は、コロナ禍での感染対策としての行動自粛が求められ、個人消費が大幅に落ち込むなど、各方面に多大な影響をもたらした。とりわけ飲食店は営業時間の短縮や酒類の提供も規制を余儀なくされるなど、深刻な打撃を被った。

 このようななか、個人消費を一層喚起し、商店街をはじめとした地域経済の活性化を図るため、福岡県は福岡市と連携して、商工会議所・商工会や商店街が行うプレミアム付き地域商品券の発行を支援した。

 花みずき通り商店会においても県と市の支援を活用して、地域商品券が販売された。20年9月1日には、30店舗で1万2,000円分の買い物ができる冊子版(500円券24枚)を1万円で販売。2,000冊準備され、1人5冊まで購入可能だった。モバイル版は、同商店会のホームページなどで1万円単位(上限5万円)での購入。これは、参加する21店舗でQRコードを読み取り、金額を入力して支払うもので、花みずき通り商店会では500万円分(額面600万円分)を用意した。こうした商品券は、コロナ禍の3年間で合計5回販売され、地元住民以外からも購入に訪れるなど好評を博し、商店会の活性化にも大きく貢献した。今年度も7月末ごろの販売を予定しているという。

存続という至上命令に向けて

幸せの黄色いポスト
幸せの黄色いポスト

    商店会には、飲食店をはじめとして時計店や美容室などの生活サービスの事業者や、地元金融機関の支店など、さまざまな業種の企業や店舗が加盟している。08年の「幸福の黄色い郵便ポスト・幸福の黄色いベンチ・花いっぱい運動」などのイベントやワークショップは、商店会と地域住民、そして福岡大学や中村学園大学の学生たちによる取り組みだ。16年3月には地域の高齢者のために、商店会とJS(日本総合住生活)が費用を負担して、「幸せの黄色いベンチ」を寄贈し、地下鉄金山駅前に設置された。また、同年6月から12月にかけては、金山団地入口交差点付近にある、黄色いポストが設置されている「花みずき通りふれあい広場」のリニューアル工事を行った。これは福岡市の商店街高度化事業助成金と、県の買い物の場としての商店街機能強化事業費補助金を活用し、それぞれ20%の助成を受けている。新しくお目見えした「花みずき恵比寿」の像には、周辺の商店主などが絶えず花を供え、ときおり手を合わせる来街者の姿も見られる。

 一方で、花みずき通り商店会においても、商店主の高齢化をはじめとして抱える課題は深刻だ。「城南区には、以前は区役所周辺にも商店街がありましたが、現在では花みずき通り商店会だけが組織的な活動を維持できています。他の商店街とも協力して、地域経済を活性化させていきたいです」(調会長)。

 取材を通じてみえてきたのは、さまざまな公的助成もフル活用しながら、「生活インフラとしての存続」という至上命令に取り組む商店会の姿だった。

【近藤 将勝】

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