2024年05月11日( 土 )

【クローズアップ】新たな局面を迎えたネットスーパー

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 年中無休24時間注文、店舗に行かなくて済む利便性を最大の武器に年々増大するネットスーパー市場。今後も大きな伸びが見込め、将来的にはリアルな店舗と売上が逆転すると断言する業界関係者もおり、食品小売のカタチを大きく変える可能性も秘めている。近年はスーパー、ECといった既存勢力に加え、新手のサービスも登場。競争が厳しさを増し戦国時代に突入、各社は次の一手を繰り出し事業の拡大を目指している。

イオンが配送拠点を設けて、新たなサービスを開始

 調査会社富士経済の『通販・e-コマースビジネスの実態と今後 2023』によると、今年のネットスーパー市場は前年比12.9%増の3,128億円が見込まれる。ただ、収益性や運営管理の問題や物流などインフラ整備で莫大な投資も必要で非常に難易度が高いビジネスだ。長年展開してきたスーパー各社も事業の黒字化には苦労してきた。そうしたなかで、ここ数年、将来を見据えた新たなサービスやプラットフォームが出現、物流などの体制整備も進み、システム開発におけるAIなどを活用したDXの取り組みも目立ち、新たな局面を迎えている。

 大手スーパーでは西友が2000年5月に事業をスタートして以来、イトーヨーカ堂、ユニー、ダイエー、イオンなど各社が次々と参入。サミット以外は商品を店舗から配送する店舗出荷で配送してきたが、イオンは専用のセンターを設けて、イオンネクストが運営する新たなネットスーパー「Green Beans」を立ち上げ、今年7月からサービスを開始した。

 きっかけは、19年11月、英国ネットスーパー企業 Ocadoと提携したこと。オカドは店舗をもたず、オンラインで食料品などの注文を受け、顧客のもとに届けるサービスを提供、AIとロボットを駆使した最先端の顧客フルフィルメント・センター(中央集約型倉庫)と精緻な宅配システムを独自に確立し、成長著しい企業。イオンはそのノウハウを活用し、千葉市緑区に在庫・配送拠点の顧客フルフィルメントセンターを建設、体制を整備し、新たなネットスーパー事業の展開が可能になった。

イオングリーンビーンズ

    グリーンビーンズのサービス提供エリアは東京都の新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、大田区、千葉県の千葉市、船橋市、習志野市からスタート、1年後には東京23区全域へ拡大させる。

 オンラインならではの強みと独自高性能AI を生かすことで豊富な品ぞろえを実現し、在庫数を徹底管理し、商品が品切れになるのを最小限に抑えて、生鮮品、ミールキット、冷凍食品、大容量パック、業務用商品、各地の名産品や輸入食材、ベビー用品から医薬品やペット用品まで約2万品目を取り扱う。今後1年をメドに、約5万品目に拡大する予定。

 農産物は鮮度にこだわり、グリーンビーンズ独自の農場ネットワークから調達、産地から配送先まで徹底した温度管理を行い、パッケージは野菜の特性に合わせ「呼吸するパッケージ」など、鮮度維持に最適なものを採用している。

 購入履歴に基づいて、AIがおすすめ商品をワンクリックでかごに入れる 「スマートカート」や、定期購入設定した商品を、必要な頻度(週1回から2カ月に1回まで設定可能)に合わせ自動でカートインする「定期購入」機能なども備え、利便性を高めている。

 さらに、買い物の最後に商品をレコメンドし買い忘れを防止する「チェック アウトウォーク」機能や、お気に入りのレシピから必要な商品を簡単に選べる機能を備え、幅広い商品のなかから欲しい商品を簡単に探すことが可能になった。

 「お気に入り」「買い物リスト」など、便利な機能も用意し、レシピや商品情報も随時配信し、SNSによるコミュニケーションで積極的に情報発信も行っていく。

 配送対応時間は午前7時から午後11時まで1時間単位で、当日から14日先まで指定でき、最低購入金額は4,000円(税別)、送料は配送時間によって異なり、330円、440円、550円(いずれも税込)。

 こうして、AIとロボットを駆使した最先端のオペレーションとロジスティクス、パーソナライズされた快適なユーザーインターフェース、徹底されたコールドチェーンによる高い鮮度管理などにより、 これまでにない顧客体験の実現を目指そうとしている。

ダークストアのクイックコマースで新展開

 スマホアプリECサイトからの注文を受けて商品をピックアップし配送するダークストアという新たなビジネスモデルで新規参入をはたしたのがOniGO。

 ダークストアは欧米や中国で先行し、短時間で顧客のもとに商品を届けることができるのが特徴で、オニゴーも1拠点あたりの配送エリアを半径1~2kmに絞ることで、スマホアプリやパソコンから注文すると最短10分で商品が届く「即配」が売りもの。

 21年8月に初めての拠点を東京都目黒区に設け、取扱品目は生鮮品や加工食品、日用品など約700品目からスタート、価格もスーパーと同程度で、宅配料は330円(税込)だが、5,000円以上購入すると無料になる。

 その後、東京23区、都下、神奈川、埼玉、千葉にサービスエリアを広げて、今年3月時点で63拠点を設置し、首都圏の1,000万世帯をカバーしている。拠点増にともない、売上も急拡大している。ただ、事業の成長スピードは当初の計画より緩やかだ。当初掲げていた21年度内に100拠点という目標とは大きな隔たりがある。

 こうした事態を打開するため、他企業と連携し配送を請け負う協業も取り組み始めている。コンビニエンスストアのローソンストア100と組み、昨年2月に「ローソンストア100中野中央店」(東京都中野区)にて実証実験を始めた。オニゴーの配達拠点から「ローソンストア100」が半径約2km以内に入っている場合、アプリ上にローソンストア100の商品が自動的に表示され注文が可能となる。注文が入ると、店舗近くの拠点に常駐しているオニゴーのスタッフが商品のピッキングから配送までを一貫して行う。生鮮品を中心におよそ700品目取り扱い、販売動向を分析しながら随時、品目や品数を見直し、店舗オペレーションや顧客ニーズなどを検証し24年度には100店舗への拡大を目指している。

 この協業により、ローソンストア100にとっては店舗の客層拡大につなげることができ、オニゴーにとっては品ぞろえの幅を拡げながらコアサービスであるクイックデリバリーに専念することができる。

オニゴーローソン100

 昨年3月、首都圏で103店舗を展開するスーパーのヨークと組んで、「コンフォートマーケット西馬込店」(東京都大田区)から、一部の取扱商品を店舗から約1.5km圏を対象に、注文から最短10分で届けるクイック宅配サービス事業の実証実験をスタートした。取扱商品は生鮮200、惣菜80、加工食品1,800の計2,080品目で、順次拡大させていく。
 同店にはオニゴーのスタッフが常駐し、ピッカーがピッキング、ライダーが指定先へ配達する仕組み。ヨークはネットスーパー業務を外注することで業務の効率化が図れ、オニゴーは生鮮や総菜の品ぞろえの強化につながるWin-Winの関係を構築する。

 こうした他企業とのアライアンスを拡大するために、今年1月には、月額数万円~の低額でオニゴーのシステムを利用できるオールインワンシステム「Qスマート(β版)」の提供を開始した。

アマゾンや楽天もプラットフォームを提供

 大手ECのアマゾンや楽天もネットスーパーのプラットフォームを提供している。昨年1月にサービスを開始した楽天グループの「楽天全国スーパー」は、スーパー事業者向けに受注管理やオンライン上の決済などの機能を提供するプラットフォームだ。

 楽天は西友と協働運営する「楽天西友ネットスーパー」で培ったノウハウを生かし、集客・販促活動や、配送にともなうオペレーション構築など、事業者のネットスーパー事業の立ち上げおよび運営を一気通貫でサポートする。売上に応じたシステム利用料およびマーケティング費用が発生するものの、初期費用は無料で、早期にネットスーパーを立ち上げることが可能となる。

 ユーザーは、プラットフォーム上で郵便番号を入力すると、居住エリアへの配送に対応するネットスーパーを検索でき、楽天IDでログインすることで、事前に登録した住所やクレジットカード情報などを利用してスムーズに商品を購入することができる。また、「楽天ポイント」を貯めたり使ったりすることも可能となる。

 第一弾として、群馬県を拠点に1都14県でスーパー130店舗を展開するベイシアが「ベイシアネットスーパー」を出店した。現在22店舗で実施している。1万品目以上の商品をそろえ、ウェブ上で注文した商品をベイシアの店舗からピックアップして配送先へ届ける。最短で注文当日の配送が可能で、最長で3日前から注文を受け付ける。

 首都圏で133店舗を擁するいなげやも昨年6月から出店、神奈川県大和市周辺エリアを対象にサービスを開始した。

 これに先立ち、アマゾンジャパンは19年9月、スーパー最大手のライフコーポレーション(以下ライフ)と組んで、ライフの店舗で取り扱う生鮮品や惣菜をアマゾンが届けるサービスを始めている。

 対象エリアのアマゾンプライム会員は、ライフの店舗で取り扱っている生鮮品をはじめ、店舗で調理された惣菜や店内で焼き上げたパンである「ライフプレミアム」や「スマイルライフ」といったライフのPB商品など数千点の商品を、専用アプリを通じてオンラインで購入できる。

 注文後、ライフ店内の専門スタッフが商品を選び、アマゾンの配送ネットワークで商品を届ける。配送時間は当日または翌日の正午から午後10時まで、2時間単位の時間指定が可能。

 さらに21年6月から、スーパー314店舗を展開するバローホールディングス(以下バロー)との協業により、バローの店舗で取り扱う生鮮品など数千品目の商品をアマゾンプライム会員向けにオンライン販売しバローの店舗から最短2時間の配送サービスの提供を始めている。高級スーパーの成城石井が昨年3月、富山県を中心に52店舗を出店している大阪屋ショップも9月に加わった。

元祖スーパーサンシもノウハウを提供し事業化

 三重県で13店舗を展開するスーパーサンシ(以下サンシ)は1984年に店舗起点で宅配事業を開始し、90年代にネットスーパー事業を始めたパイオニアとして知られる。ネット化により黒字化を達成し、さらにスマホアプリを開発したことでさらに会員数が増加し、運営が完全に軌道に乗った。

 いまではネットスーパーの売上が全体の20数%を占めており、なかには年間10億円程度の売上をネットスーパーで叩き出す店舗もあるという。

 実店舗でのレイアウト、商品のアピールの仕方などの工夫を重ね、スマホやネットで同じように体験してもらい、いかに実店舗と同じ頻度で同じ商品を購入してもらうか、日々の実験を繰り返すことでノウハウを積み重ねてきた。さらに、需要予測に基づき在庫管理の精度を上げ、欠品率を下げるなどして、顧客の支持を得てきた。

 フランチャイズ契約を結んだ企業に対して、システムや運営ノウハウを提供するネットスーパー経営支援サービス「JAPAN NetMarket」を2019年に立ち上げた。

 サンシの成功パターンをそのまますぐに展開でき、初期費用は極めて低額で、導入した初月から2~3%の売上アップも可能という触れ込みで、1店舗で始めても1年で黒字化、2店舗目からは初期費用はかからず、ローコストで収益を積み上げることができるという。

 当初は地域の中小ローカルチェーンを想定していたが、中堅チェーンのサミットがサンシとパートナー契約を結び、システムを導入し、昨年10月、「サミットネットスーパー」のサービスを「サミットストア砧店」(東京都世田谷区)からスタートした。

 同社のネットスーパー事業は、09年に親会社の住友商事と共同で、ネットスーパー専用の物流センターを設けるセンター出荷型モデルで始めたが、事業が頓挫し、14年に撤退していた。今回は店舗起点型で再チャレンジ。

 月額会費制で、戸建は550円(税込)、集合住宅は880円(税込)。1回1,500円(税別)以上購入すれば、何度利用しても会費以外に配送料は発生しない。会員は「置き配」を基本としており、会員宅用にカギ付きロッカーを貸し出している。

 サンシとフランチャイズ、パートナー契約を結んでいる企業は21社におよんでおり、今後100社まで拡大させる計画だ。

 ネットスーパーは、プラットフォーマーが台頭し、AIやロボティクスによるDX(デジタルトランスフォーメーション)でさらなる進化が見込め、利便性の向上や効率化は加速するだろう。今後はドラスティックな展開が予想され、マーケットの様相も一変する可能性がある。

【西川 立一】

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