2024年05月10日( 金 )

百年に一度の変革 開発に沸く長崎と諫早(前)

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JR新駅ビルが今秋開業
刷新される長崎駅周辺

 2022年9月、武雄温泉駅(佐賀県武雄市)と長崎駅(長崎市)の約66kmを結ぶ西九州新幹線が開業を迎えた。九州新幹線西九州ルートの一部開業という位置づけではあるものの、長崎県にとっては待望の新幹線開業だ。県内には3駅(新大村駅、諫早駅、長崎駅)が置かれ、それぞれの駅前では開業に合わせたかたちでの整備が進行。新幹線駅の開業をきっかけとして、交通結節点としての機能を強化しつつ、それぞれの地域の新たな交流・賑わいの拠点としていきたい考えだ。

 長崎市では、新幹線が乗り入れられるように再整備された長崎駅の駅前を中心に、大規模な再開発事業が進行。県庁舎および市庁舎も移転し、今後はその跡地再開発の動向も注目を集めるなど、まさに“百年に一度の変革”といわれる様相を呈している。一方で、長崎市、佐世保市に次いで県内第3位の人口を擁する諫早市では現在、新幹線駅開業にともなう駅周辺開発だけでなく、ソニーや京セラなどの大型工場の開発が相次いでおり、それに付随して住宅需要も増えるなど、“TSMC狂想曲”に沸く熊本県菊陽町を彷彿とさせる状況が生じている。

 今回、長崎市の中心部や諫早市における開発動向のうち、代表的なものを取り上げてみたい。

● ● ●

 長崎駅前では、長崎市による「長崎駅周辺土地区画整理事業」が進行してきた。

 これは、連続立体交差事業によって移転される車両基地の跡地などを含めて土地区画整理事業を施行することにより、新幹線および在来線といった鉄道施設の受け皿を整備するとともに、道路や駅前広場などの基盤整備と土地利用の転換・有効利用を図り、国際観光都市・長崎の玄関口にふさわしい都市拠点を形成しようとするもの。施行地区は長崎市尾上町、大黒町、八千代町および西坂町の各一部で、施行面積は約19.2ha。事業費は約164億円(地区外街路などを含む)で、事業期間は09~23年度までの15年間となっている。

 同事業の一環で、20年3月には駅北西部に長崎警察署(旧)と稲佐警察署を統合し、長崎運転免許センターを併設した長崎警察署(新)が開設されたほか、21年11月には駅西側に常設展示場複合型MICE施設「出島メッセ長崎」が開業。また、20年3月にJR長崎本線(浦上~長崎)が高架化された後、22年3月に高架下商業施設「長崎街道かもめ市場」が開業し、同年9月の西九州新幹線の開業にともなって新幹線も乗り入れる新たな長崎駅としての開業を迎えた。

長崎駅新駅舎
長崎駅新駅舎

    その長崎駅の駅前では、JR九州による新たな開発が佳境を迎えている。駅前にはもともとアミュプラザ長崎(1~5階部分)とJR九州ホテル長崎(6~10階部分)で構成される駅ビル(2000年9月開業)があったが、西九州新幹線の開業を契機として国際観光都市長崎の“陸の玄関口”を刷新するために、駅周辺開発および新たな駅ビルの開発に着手。当初は「新長崎駅ビル(仮称)」とされていたが、今年6月に既存の「アミュプラザ長崎 本館」と増床部分の「アミュプラザ長崎 新館」を合わせるかたちで「JR長崎駅ビル」という名称に決定した。新館はS造・地上13階建、延床面積約10万2,000m2で、1~4階と5階の一部が商業ゾーン、5・6階がオフィスゾーン、1階と7~13階部分がホテルゾーンという構成。ホテルゾーンには米マリオット・インターナショナルによる「長崎マリオットホテル」が入る。新たな駅ビルの開業は23年秋、長崎マリオットホテルの開業は24年初頭をそれぞれ予定している。

JR長崎駅ビル
JR長崎駅ビル

    こうして駅周辺の再開発が進む一方で、駅東側を通る国道202号の対岸にある県営バスターミナルが入る「長崎交通産業ビル」においては、当初予定していた移転計画が白紙となった。1963年11月竣工の同ビルでは老朽化が進み、以前から建替えや移転の議論がなされ、12年度に駅北側に新設移転する方針が決定。当初は22年度にも供用開始される計画だった。だが、県内の経済界から駅前の路面電車や路線バスを含めた交通結節機能強化の検討を求める声が挙がり、「長崎市中心部の交通結節機能強化の基本計画」(20年7月)では移転を白紙にして現地建替えする方針が決定した。だが、現地建替えの時期や整備手法などの具体的な方針は未定。今後、駅前の再開発が進んでいくなかで、重要な交通拠点の1つであるバスターミナルの早急な機能強化が求められるだろう。

臨海部に移転の県庁舎
旧庁舎跡地は賑わい拠点に

 長崎駅の南側に位置する臨海部では、18年1月に長崎県庁および長崎県警察本部の新庁舎が竣工を迎えた。

 新庁舎は、県庁舎および県警本部をまとめて旧魚市跡地に移転したもので、3万182m2の敷地に行政棟(RC造・地上8階建、延床面積4万6,565m2)、議会棟(RC造・地上5階建、延床面積6,699m2)、警察棟(RC造一部S造・地上8階建、延床面積2万1,734m2)、駐車場棟(RC造・地上3階建、延床面積1万1,639m2)の計4棟の建物を建設。海側から庁舎を臨んだ前面には、緑豊かな長崎漁港防災緑地(おのうえの丘)も整備されている。庁舎の内外への広がりを意識し、長崎港への視線を意識した「港の軸」と稲佐山を感じさせる「山の軸」を設定・視覚化するほか、新庁舎共有部に立体的な吹き抜けを設けることで、全体の空間やフロア構成を可視化し、人々に開かれた庁舎“シティホール”を実現。こうした点が評価され、同庁舎および防災緑地は19年度のグッドデザイン賞を受賞するなど、長崎港の最奥部における新たなランドマークの1つとして認知されている。

長崎県庁(左)と長崎県警察本部(右)
長崎県庁(左)と長崎県警察本部(右)

    一方で、県庁舎跡地(江戸町)および県警本部跡地(万才町)における今後の活用法についても、検討が重ねられている。

 同跡地においては当初、14年7月に長崎市からホール機能の提案などを受け、老朽化が進んでいた長崎市公会堂(15年3月末閉館)に替わる新たな文化芸術ホールを整備する方針で、19年6月に県庁舎跡地整備方針が策定されていた。だが、同年10月から埋蔵文化財調査に着手したところ、発掘調査によって江戸時代の長崎奉行所西役所などの遺構が出土。そのため早期整備が見込めなくなったことで、20年1月に長崎市が文化芸術ホールの見直しを表明していた。その後、県では22年6月に「県庁舎跡地整備基本構想(案)」を取りまとめ、利活用における理念や必要な機能などの考え方を示している。

 同基本構想によれば、基本理念を「歴史が息づく地で、賑わいと交流による新たな価値を創造する」とし、県の将来の発展に資するような利活用を推進していくとしており、整備する機能については、県民・市民の憩いの場、イベントなどによる賑わいの場として利用できる「広場」のほか、この地の歴史の変遷や世界遺産などの県の魅力を発信する「情報発信機能」、多様な交流を促進する「交流支援機能」など。また県警本部跡地では、産学官等の連携によるオープンイノベーションを推進するコワーキングスペースやシェアオフィス、共同研究スペースなども整備し、新たなビジネスやサービスの創出も支援していく。今後は、石垣上や第一別館跡地付近等のオープンスペースを暫定供用しながら、利用状況等を検証のうえで、その後の設計・整備を検討する計画。全体の設計・整備は24年度以降に実施していく予定となっている。

(左)長崎県庁舎跡地/(右)長崎県警察本部跡地
(左)長崎県庁舎跡地/(右)長崎県警察本部跡地

(つづく)

【坂田 憲治】

(中)

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