2024年04月29日( 月 )

木造非住宅への取り組みが新たな可能性を切り拓く

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(有)日通建
代表取締役 田中 慎二 氏

(有)日通建 代表取締役 田中慎二氏

 従来は主にRC造や鉄骨造により建設されていた低層の商業・施設系建築物。しかし、最近では脱炭素化の動きなどを背景に、木造による建築物「木造非住宅」の建設事例が徐々に増加しつつある。そこで、この分野で近年、施工実績を積み重ねている(有)日通建・代表の田中慎二氏に話を聞いた。田中氏は「木造非住宅は新たな可能性を切り拓く契機になった」という。

自社の強みにマッチ

 ──非住宅に本格的に取り組むようになったきっかけは、何でしょうか。

 田中 2021年に福岡市西区今宿での有料老人ホーム建設の依頼がありました。当初は鉄骨造を計画していましたが、予算の制約などから木造に変更せざるを得ませんでした。ただ、当時はウッドショックの影響もあり、900坪分の木材調達が難航。そこでさまざまな木材関連企業に声をかけるなかで、佐賀県唐津市に本社工場があるプレカット材メーカーと連携する機会が生まれました。材料の確保から工程の管理まで細かい連携ができ、とくに見積もりの正確さに惹かれ、プレカット材の提供を受けることにしました。結果的に工事は順調に進み、有料老人ホームは22年8月に完成し、引き渡しをすることができました。

有料老人ホームの外観
有料老人ホームの外観

 この経験から、「木造非住宅は当社の強みにとても合致している」と感じました。通常、設計事務所はこの種の建物を避けがちですが、それは構造計算業務などが負担になるからです。一方、当社は電気通信工事から事業をスタートさせ、さまざまな工事に取り組んできました。それにより業界内のネットワークを築き、自社一貫施工体制を確立しています。有料老人ホームの施工を通じて、そうした強みをベースにプレカット材メーカーからの支援も受けられたことなどから、低層の木造非住宅でしたらほぼすべての工事を自社で行えることが明確になったのです。

 その後はクラフトビール会社の工場建設(2階建)にも関与。これまで下請として、一部工事のみに参加する場面はありましたが、木造非住宅であれば全工程に関与することができます。これにより利益の確保が容易になり、仕事がより楽しみになりました。木造非住宅への挑戦は、当社にとって新たな可能性を切り拓くきっかけとなりました。

(上)クラフトビール工場の外観、(下)クラフトビール工場の施工中の様子
(上)クラフトビール工場の外観
(下)クラフトビール工場の施工中の様子

脱炭素化を背景に高まる企業需要

 ──今後、木造非住宅分野は拡大するとお考えですか。

 田中 間違いなくそうなるでしょう。カーボンニュートラル社会を実現するため、企業は事業全体において脱炭素化が求められています。これは店舗や事業所においても同様です。これまで、低層のコンビニエンスストアやドラッグストアなどが鉄骨造などで建てられていますが、環境負荷の低い木造に変わる可能性があります。事業用建物には無柱の大空間や大開口が必要ですが、技術の進化によりどちらも木造で対応可能です。

 現在、大手飲料会社の事務所(2階建)の建替計画に携わっていますが、これも、もともとは鉄骨造の予定でした。しかし、当社の取り組みを知ったことで木造に変更されました。相手方は木造で事務所を建てられることを知らなかったそうですが、木造が環境に優しく、コストを削減できることが評価され、契約に至ったのです。

住宅市場縮小のなかで

 ──これまで木造非住宅が普及してこなかった要因は何でしょうか。

 田中 設計事務所が低層の木造建築物に積極的でなかったのは、木材は品質の安定性などが鉄やコンクリートに比べ劣っていると認識されていたこと、木造の設計経験が不足していたことが挙げられます。また、事業主が木造で事業所を建設する可能性を認識しておらず、発注自体が限られていました。さらに、木造建築は主に住宅に利用されてきましたが、それを担う工務店が非住宅分野への進出に尻込みしていたことも要因です。しかしながら、今の時代は以前とは大きく異なり、住宅市場は縮小傾向にあります。このため、木造非住宅分野の展開は代替策として注目すべきでしょう。

 当社はプレカット材や集成材、木材と鉄のハイブリッド工法など、多岐にわたる構造体メーカーと連携し、さまざまな種類の木造建築物を提供できるよう努力してきました。先ほど述べたように、自社で工事を完結できることも強みです。一方で、将来を見据えると、住宅を中心とする事業分野では既存のビジネスモデルからの脱却は不可欠で、だからこそ木造非住宅分野への取り組みを強めているのです。

4号特例縮小という課題にも対応

3階建事務所兼共同住宅の施工実績も
3階建事務所兼共同住宅の施工実績も

    ──建設業界、なかでも住宅業界には押し寄せる変革の波はほかにもありそうです。

 田中 住宅需要の減少はもとより、建築物への要求はより高い水準が求められるようになっています。なかでも、25年度から適応される4号特例()の縮小が注目すべき課題です。この特例は、太陽光発電や省エネ設備の設置によって建築物の重量が増し、それにともなう構造躯体や接合部への負担が大きくなることを考慮したもので、建築物の重量を適切に評価するため、構造設計図書の提出が必須とされる法改正です。

 これにより、必要な作業や人員の増加、そしてそれにともなうコストアップが事業者にとっての負担となることが予想されます。しかし、たとえばJAS規格に適合したプレカット材を構造躯体に活用したり、設計支援サービスを提供するメーカーと連携して効果的な設計を行うことで、この負担を軽減することが可能です。脱炭素化の動きから、すでに先んじて公共建築物の木造化が進行しています。木造の事業所への需要の高まりに合わせて木造非住宅分野に取り組むことは、社会情勢の変化への適切な対応となるでしょう。

※4号特例(審査省略制度):建築基準法第6条の4に基づき、建築確認の対象となる木造住宅等の小規模建築物(建築基準法第6条第1項 第4号に該当する建築物)において、建築士が設計を行う場合には構造関係規定等の審査が省略される制度。 ^

「木造のショールーム」を田川郡に開設へ

本社事務所は古い住宅をリノベーションしたもの
本社事務所は古い住宅をリノベーションしたもの

    ──御社の今後の取り組みについて、お聞かせください。

 田中 木造非住宅分野において、より効率的な展開を目指しています。現在、田川郡内に木造の事務所兼倉庫の建設を進めていますが、これは「坪単価25万円の建物(基礎・木構造)の場合、施工金額はこのくらいになります」といった具体的な見積もり金額を、建築主などにわかりやすく提示するためのショールーム的な役割をはたすことを期待しています。この方法によって価格感を明確に伝え、木造非住宅分野での受注を促進したいと考えています。

 当社の事業規模は約5億円で、そのうち木造非住宅事業は約3割を占め、年間1~2棟の供給を行っています。私自身は売上の規模よりも事業の内容を重視すべきだと考えており、急激な拡大は考えていません。また、当社は創業以来、若い職人たちと信頼関係を築き、大工などの各分野で人材確保に成功しています。幸いなことに、人材不足を感じることはほとんどありません。若手の意匠設計者もおり、顧客とのコミュニケーションも円滑に行える体制を整えています。とはいえ、今は来たるべきタイミングに備え「人づくり」にしっかりと取り組み、基盤の強化に努めたいと考えています。

【田中 直輝】


<プロフィール>
田中 慎二
(たなか・しんじ)
1969年11月24 日生まれ、粕屋(現・魁誠)高校卒業。地場電気通信会社から独立し建設業に進出。一般建設業から不動産・建築事務所部門設立し、現在は特定建設事業者として事業の幅を広げている。2級建築士、1級建築施工監理技術者、宅地建物士、管理建築士、既存住宅状況調査技術者、相続診断士の資格を取得。趣味は釣り。可愛い孫と遊ぶのが一番の楽しみ。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中 慎二
所在地:福岡市東区馬出6-20-6
設 立:1995年1月
資本金:2,000万円
TEL:092-612-7770
URL:http://nittuken.co.jp/

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