2024年04月29日( 月 )

ラグビー日本代表の挑戦に幕 W杯2023の教訓(後)

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ラグビー イメージ    ここでは、日本代表そして日本ラグビーが今後進化するために何ができるのかを提言したい。フランス大会からの教訓とも言えるものだ。

 アルゼンチン戦の16分にトライした日本のLOアマト・ファカタヴァ。アマトのトライは、今大会のベストトライ集にエントリーされるべき、本当にクリエィティブで秀逸なアクションである。自陣10m左サイドのエッジを、パスを受けて疾走。1人を弾き飛ばし、相手陣10m付近で自らチップキック。自らキックしたボールを全力追い。相手ゴール前でクリアキャッチしてトライ。アマトは約60mを全力で走りながら、コリジョン(衝突)、そしてキックを駆使するアクションを披露した。

 LOのポジションの選手は、アタックでは密集でボールを推進させ、ひたむきにタックルを繰り返すディフェンスなどが求められる。いわゆるチーム一のタフネスで、ハードワークする選手である。よって、キックする、ボールをもって疾走する、コリジョン、キックされたボールを空中でコンテスト(競い合い)するなど、ボール争奪の中心となることが求められる。

 スキルフルなキックや華麗なパス&ランについては、「そんなものより、コンタクト能力を鍛えろ!」と指示されるのが、日本のラグビー。つまり、思い込みや決めつけでの役割分担が、プレイ選択の幅を狭めている。

 ラグビーに正解はない。勝てば正解で、負ければ「やめてしまえ」と非難される。ただ1ついえることは、ラグビーはボールの保有選手が中心で、その選手の判断がすべてであることだ。あらかじめ決められた戦術を、遂行することを求められる一方で、ボールをもった選手は、自分の目の前にスペースが見つかれば、そのまま前進する。

 前進するためにどうするのかを最優先させること。ボールを運び前進して、相手陣地を支配し、トライするのがラグビーだ。戦術を表層的に実行し、「決められた通りにやった。それでも負けた。どうすればいい」が今の日本ラグビー。しかし、「お前はどうしたいのか」と自問自答する風土が必要ではないだろうか。

 幸い日本人のDNAには、「勤勉・誠実・遵守」の志向と風土を伝承されている。器用で創意工夫する能力も世界で指折りだ。つまり、体格のサイズだけに頼らずとも世界と互角に戦える素養はある。「勤勉・誠実・遵守」、そして器用、創意工夫は、ラグビーをプレイするにおいて、何をおいても不可欠であることは明らかだからだ。

 これらを最大限活かすためには、先ずは“遊び”のなかでパス&ランやキックができる風土をこしらえることだ。とくにジュニアやユース世代のトレーニングのなかで、どんどんやるべきである。

 (基本練習を積み重ねる前提で)杓子定規に“型にはめる”トレーニングをするのではなく、遊びやリラックスできる環境下で、ボールを扱うアクションを実践する機会を設ける。MLB(メジャーリーグ)の関係者の話では、「新しい変化球は、遊びのなかやキャッチボールで生み出されている」という。システマチックに戦うことも大切である。

 そのうえで、“遊び”のなかで生み出される新たなアクション=戦い方も必ず存在する。アマト・ファカタヴァのトライを見て痛感した。“遊び”からの志向によってこそ「勤勉・誠実・遵守」や器用・創意工夫が花開くことを。

 日本ラグビーは年々進化している。他方で、他国も進化している。強豪国から学ぶことは大切である。一方で、日本にも前述通り世界一の志向と風土を有する。これらを生かしたラグビーの構築そしてマネジメントが求められる。整理すると以下の4点になりそうだ。

 1. 選手全員、80分間タフに戦える体力を丁寧に育む
 2. 粘り強い足腰を生かした、コリジョン技術の開発と実践
 3. 手先と脚元の器用さを存分に発揮できるパス&ラン、キックを遊びのなかでも鍛錬する
 4. 「お前はどうしたいのか」という志向を根付かせる

 日本代表には、今すぐ実践できることから、取り組んでもらいたい。どのようなヘッドコーチや体制になろうとも、国内に多くの次世代選手が揃っているのだから。

(了)

【青木 義彦】

(前)

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