2024年05月06日( 月 )

中東情勢と日本への影響

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国際政治学者 和田 大樹

 国際安全保障情勢の関心がウクライナと台湾に集まるなか、今年10月7日、パレスチナ自治区・ガザ地区を実行支配するイスラム原理主義組織ハマスが、イスラエルへ大規模な奇襲攻撃を仕掛けてから2カ月が経過する。それ以降、ハマス殲滅を目的とするイスラエルによる攻撃が強化され、病院や学校などが空爆され、罪のない子どもや女性たちが次々に犠牲となった。

 すでにパレスチナ側の犠牲者数は1万人を超え、最近は一定期間停戦となったが、イスラエルは攻撃を再開し、自らが避難を呼び掛けたガザ地区南部へも地上侵攻を図っている。イスラエルによる攻撃が終息する兆しは見えず、来年も続きそうな状況だ。

 一方、日本は石油の9割を中東地域に依存しているが、今後も日本への影響は限定的となる可能性が高い。現在起こっている紛争は極めて局地的なものであり、これが中東全体の安全保障を脅かす事態に発展する可能性は低い。

中東 イメージ    サウジアラビアなどアラブ諸国はイスラエルによる攻撃継続に強い懸念を示してはいるが、ハマスやパレスチナ人を救済するために積極的に動いているわけではなく、今後もアラブ諸国が深く関与することはないだろう。

 イスラエルと敵対するイランも、この問題に深く関与すれば(具体的にはイランがパレスチナ防衛のためイスラエル軍を攻撃するなど)、米国などからのさらなる経済制裁に遭い、イスラエルと直接軍事衝突するリスクが飛躍的に高まることから、イスラエルをけん制する以上のことはしていない。おそらく、今後もこの姿勢に変化はないだろう。

 反イスラエル闘争を具体的な行動に移しているのは、レバノンやイエメン、イラクに点在する親イランのシーア派武装勢力で、レバノンのヒズボラはイスラエル領内へのロケット弾攻撃などをエスカレートさせ、フーシ派は遠く離れたイエメンからイスラエルに向けてドローンやミサイルなどを発射し、米軍などはその一部を紅海上で撃墜している。

 しかし、これらによる行動にイランが具体的に関与しているわけではなく、親イランのシーア派武装勢力による反イスラエル闘争のみで、日本の石油事情に大きな影響をおよぼす事態に発展する可能性は低いといえよう。

 フーシ派はこれまでにサウジアラビアのリヤド、UAEのアブダビなど遠方にドローンやミサイルを発射し、その一部が着弾したこともあるが、日本へ向かう石油タンカーの出発点となるペルシャ湾側へ攻撃を企てるとは考えにくい。

 一方、日本と欧州などを結ぶ民間船舶はスエズ運河、紅海やバブ・エル・マンデブ海峡を通過するが、フーシ派はバブ・エル・マンデブ海峡周辺を航行するイスラエル船舶を狙った攻撃を繰り返している。

 最近も日本郵船が運航する貨物船がイエメン沖で拿捕され、フーシ派は貨物船を乗っ取る様子を映した映像を公開した。フーシ派はイスラエルとそれを支援する米国への敵意を強く示し、日本が直接の標的というわけではないが、日本船籍が巻き込まれるリスクもあるので十分に注意する必要があろう。

 この海域では、過去にもフーシ派ではなく国際テロ組織アルカイダの犯行だったが、イエメンのアデン港に給油のため停泊していた米駆逐艦コールに爆発物を積んだゴムボートが突っ込み、爆破により米兵17人が犠牲となったテロ事件(2000年10月)、イエメン・ムカラ沖合でフランス船籍の石油タンカー・ランブールに対して小型ボートによる自爆攻撃があり、1人が死亡、17人以上が負傷したテロ事件(2002年10月)が起きている。

 イスラエルによる今日の攻撃がすぐに停止される気配は見えず、フーシ派など親イランのシーア派武装勢力による攻撃が今後も続くことだろう。ここでも説明したように、日本の石油事情に大きな影響を与える事態に発展する可能性は低いが、来年を見据え、日本企業はこういった情勢を的確に把握する必要があろう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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