2024年05月05日( 日 )

阪急阪神HDの主要事業の現状と展望(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 かつて阪急電鉄と阪神電鉄は、別の会社であった。しかし、現在は阪急阪神ホールディングス(HD)という持株会社が設立され、その傘下に阪急電鉄や阪神電鉄が存在し、グループでは「都市交通」「不動産(ホテル事業も含む)」「エンタテインメント」「情報・通信」「旅行」「国際輸送(物流)」の6つをコア事業として展開している。本稿では、阪急阪神HDの現状とDX戦略を紹介した後、主要事業である住宅・まちづくり、阪急阪神エクスプレス、文化事業としての阪神タイガースについて紹介する。

阪急阪神エクスプレス

国際貨物 イメージ    阪急阪神HDグループでは、阪急阪神エクスプレスという企業が国際物流を担っている。1948年に日本初の国際航空運送協会(IATA)認可の貨物代理店として、国際航空貨物輸送の業務に進出した。物流の始点から終点までの一貫したサービスで、顧客から厚い信頼を得ている。28の国と地域に140を超える自社拠点を有し、提携代理店も含め、全世界で迅速かつ安全なドアtoドアの国際輸送サービスを提供している。

 阪急阪神エクスプレスは、外航海運利用事業者(NVOCC)でもあることから、国際航空貨物輸送と同様に、グローバルなネットワークを生かした国際海上貨物輸送も行っている。一般コンテナ輸送として、LCLという複数の企業の荷物を搭載し、1本のコンテナに仕立てた混載貨物輸送と、FCLという1社の企業の貨物のみでコンテナを仕立てる貨物輸送はもちろんだが、レーファーコンテナという、冷蔵・冷凍が可能なコンテナを使用した生鮮食品や乳製品、薬品の輸送も行っている。

 通常のコンテナのサイズでは収まらないサイズの貨物は、オープントップコンテナ/フラットラックコンテナという、一部天井や壁のないコンテナで輸送される。バルク貨物やコンテナ以外のさまざまな形状の貨物は、在来船を利用した輸送や、さらには輸出入通関や物流コンサルティングまで、顧客のニーズに応えるため、最適な輸送サービスを提供している。

 このようなことが可能になるのは、阪急阪神物流が高度な物流コンサルティング能力を備えた専門家を多く抱えているからである。そして最先端のITを最大限に駆使し、顧客に最適な物流の方法を提案している。

 阪急阪神物流は、ただ単に貨物を輸送するだけでなく、温度管理が行き届いた高機能倉庫で品質を維持したうえで、管・管理を行うことができるため、生鮮食品や薬品など、温度・湿度に対し厳しい管理能力が要求される貨物にも対応が可能である。

 そして価格の値上がりを抑えるため、保税地で流通加工を行い関税がかからないように対応することも可能であり、そうした配送システムに納期や価格なども加味して、物流全体を包括的に捉え、国内外において高品質で円滑な提供を実現している。

 2009年には、貨物のセキュリティー管理とコンプライアンス体制が整備された事業者に対し、税関手続の緩和・簡素化策を提供するAEO制度における「特定保税承認者」に認証されるなど、貨物の輸出入に不可欠な通関手続きにも精通している。

 以上のことから、阪急阪神エクスプレスは、ITを駆使した総合物流会社であり、オールマイティーに顧客の需要に対応が可能な点が、強みといえる。

阪神タイガース

 文化事業である阪神タイガースの成績は、鉄道事業の業績にも直結する。球団創立は1935年に大阪タイガースとして誕生しているから、読売ジャイアンツに次ぐ歴史を有する球団ではある。

 阪急ブレーブスのように、連続優勝するような機会には恵まれなかったが、巨人戦の開催や歴史のある球団であることから、安定した人気を保っている。1990年代は、最下位に低迷することが多かったが、甲子園球場に年間200万人以上も来客するなど、阪神電鉄にとってはドル箱部門であった。

 だが、2000年代に入ると少子化や中心市街地の空洞化だけでなく、工場の海外移転などもあり、阪神電鉄の利用者数が低迷するようになった。そんななか、2002年に星野仙一氏が阪神タイガースの監督に就任すると、野村克也前監督が育てた選手がいたことも影響して、2003年と2005年に優勝した。その結果、他の関西の民鉄やJRが利用者減や横ばいで推移したなか、阪神電鉄だけは2003年と2005年に利用者が増えた。

 阪神電鉄の幹部も、阪神タイガースが勝てば、阪神電車の利用者数が増えるということを実感するようになり、球団の戦力強化にも真剣に取り組みようになった。阪急阪神HDとなった今日では、阪急電鉄から阪神タイガースの球団オーナーが選ばれており、新風をもたらしている。それゆえ阪神タイガースは、単純に「文化事業」とは言い切れず、鉄道事業にも大きな影響を与えている。

(了)

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