2024年05月05日( 日 )

阪急阪神HDの主要事業の現状と展望(中)

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運輸評論家 堀内 重人

 かつて阪急電鉄と阪神電鉄は、別の会社であった。しかし、現在は阪急阪神ホールディングス(HD)という持株会社が設立され、その傘下に阪急電鉄や阪神電鉄が存在し、グループでは「都市交通」「不動産(ホテル事業も含む)」「エンタテインメント」「情報・通信」「旅行」「国際輸送(物流)」の6つをコア事業として展開している。本稿では、阪急阪神HDの現状とDX戦略を紹介した後、主要事業である住宅・まちづくり、阪急阪神エクスプレス、文化事業としての阪神タイガースについて紹介する。

 鉄道事業以外の分野でも、従来にないサービスを次々と提供している結果、沿線の良質な「まちづくり」に貢献するだけでなく、社会に新風を吹き込んでいる。とくに鉄道事業と沿線の宅地開発は小林一三が手がけた事業であり、現在も暮らしを支える「安心や快適」、暮らしを彩る「夢や感動」を継続して提供していると、グループは自負している。

 その結果は、(公財) 日本生産性本部 サービス産業生産性協議会が実施している日本最大級の顧客満足度調査にはっきりと表れている。調査は総計12万人以上の利用者からの回答を基に、統計的な手法により企業・ブランドを評価しているものだ。

 阪急電鉄は、郊鉄道の部門で14年連続1位を獲得している。筆者が見ても、阪急電鉄は車両の手入れが良く、車内で使用される備品もリサイクルが可能な素材が使用されるなど、環境重視の姿勢が観られる。

 宝塚歌劇団は2016~2018年、2021年度にエンタテインメントの部門で1位を獲得している。2021年度には、34業種328企業・ブランド中で年間総合ランキングでも1位を獲得するなど、小林一三が「私が死んだとしても宝塚歌劇団は手放すな」と言っただけの成果を上げている。

住宅・まちづくり

宝塚大劇場 イメージ    住宅やまちづくりに関しても、箕面有馬電気軌道が開業した当初から、良質な住宅や商業施設をはじめとした鉄道沿線の開発に注力し、沿線に新たな需要を生み出してきた。また新宝塚温泉から始まる娯楽施設の開発や、教育機関などの誘致を通じて文化の創造・発展に貢献し、地域に貢献してきた。

 沿線価値向上の取り組みは、小林一三の時代から実施されていた。ターミナルとなる梅田に百貨店、宝塚に新宝塚温泉(後の宝塚ファミリーランド:現在は閉園)と宝塚歌劇団を開設し、沿線の宅地開発も行うといった戦略を実施してきた。

 長きに渡る取り組みにより、現在、阪急阪神HDグループの沿線エリアの評価は関西圏のなかでは相対的に人気が高く、同グループは、沿線価値の創造力を自分たちの強みだと自覚している。

 事実、大手不動産会社7社が、2023年10月に「住んでみたい街」の関西編のアンケートを実施したが、その結果、ベスト10のうち、8つの街が阪急阪神HDグループの沿線が入った。なかでも注目されるのが、阪急沿線が5つ、阪急系の北大阪急行電鉄も入れると6つも入っていることで、そのことからブランド力の高さがうかがえる。

 詳細については、1位が西宮北口(阪急)であり、2位が梅田・大阪(阪急、阪神)、3位が夙川(しゅくがわ:阪急)、4位の千里中央は北大阪急行電鉄、5位の芦屋川は阪神電鉄である。

 6位の高槻・高槻市は阪急沿線であり、7位の芦屋は阪神電鉄である。8位の天王寺は、JRの沿線であるから、どちらにも該当しないが、9位の岡本は阪急沿線である。10位の本町もどちらにも該当しないが、近鉄や京阪電鉄、南海電鉄の沿線などはベスト10にまったく入っていない。

 とくに阪急神戸線の沿線には、1位の西宮北口、3位の夙川、9位の岡本と3つも入っている、3位の夙川や9位の岡本は六甲山の麓の高台に位置し、神戸港などが見下ろせる眺望の良さがあり、岡本には甲南大学もあることから、文化度が高いというイメージがある。

 阪神電鉄は、「甲子園球場」以外にかつては甲子園阪神パークという遊園地もあり、文化・娯楽以外に尼崎周辺は「工業地帯」というイメージが強かったが、工場の海外移転で産業の空洞化が起こると、阪神電鉄本線の利用者数が減少してしまった。

 「住んでみたい街」のランキングで、5位が芦屋川、7位に芦屋が入るということは、阪神電鉄沿線も「ブランド力が高い」ということであり、阪神電鉄のイメージアップに貢献している。芦屋付近は、阪急神戸線の西宮北口~岡本間と同様に、高級住宅地というイメージが強い。また深江には、神戸大学海事学部が立地するなど、学術的なイメージもある。

 阪神電鉄の活性化のためには、あとで述べる阪神タイガースもあるが、芦屋や芦屋川に大学のサテライトキャンパスなどを誘致すれば、大阪や神戸の企業に勤務する人も、仕事を終えた後に通うことが可能となり、「学術都市」としても発展させることが可能で、さらなるブランド力の向上につながるだろう。

(つづく)

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