2024年05月04日( 土 )

福岡都市圏の「跡地」動向(2)

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 福岡では、天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの都心部再開発が進行し、天神ビジネスセンターや福岡大名ガーデンシティが誕生したほか、現在も複数の建替えプロジェクトが進んでいる。都心部以外でも、ホークスタウン跡地にMARK IS 福岡ももち、パピヨンプラザ跡地にブランチ 博多パピヨンガーデン、青果市場跡地にららぽーと福岡などが誕生したことは記憶に新しい。各所でまちの新陳代謝が進む過程で、一時的に(あるいは長期間にわたって)発生するのが“跡地”という存在だ。まちが生まれ変わる前の“サナギ”の状態といえる跡地が、福岡都市圏にはいまだ多く存在する。今回、代表的な跡地の動向を追ってみたい。

福岡市東区
アイランドシティ線事業用地跡地

アイランドシティ線事業用地跡地
アイランドシティ線事業用地跡地

 ショッピングセンター「イオンモール香椎浜」に隣接し、福岡都市高速6号線(アイランドシティ線)の工事ヤードとして使用されていた土地で現在、新たな交流拠点の開発への動きが進んでいる。

 同地はもともと、イオンモール香椎浜の開業(03年11月)時に「香椎浜中央公園」として整備された都市公園だったが、アイランドシティ線の事業化にともない、橋梁架設等を行う工事ヤードとして使用するために約5年間にわたって閉鎖。その間、香椎浜中央公園は約500m西側に移転して整備され、20年3月に新たな香椎浜中央公園として開園している。そして21年3月にアイランドシティ線が開通したことで、工事ヤードとしての同地も役目を終え、その跡地活用に向けては福岡市が「福岡高速6号線(アイランドシティ線)事業用地跡地事業」としてプロポーザル方式による公募を実施。イオン九州(株)が地域の交流拠点としての賑わいの創出と周辺環境との調和を念頭においた事業計画を提案し、23年2月に事業予定者に決定した。当該跡地は3区画に分かれており、土地売却価格は①区画(6,393.94m2)が約13.0億円、②区画(1,523.52m2)が約1.4億円、③区画(1,651.65m2)が約2.5億円。

 イオン九州が計画しているのは、新たな「つながり(交流)」が生まれる架け橋「Bridge」となる開発を目指して名付けられた複合施設「KASHIIHAMA BAY BRIDGE」。産地直売所やガーデニングショップなどが入る「LOCAL COMMUNITY ZONE」と、フィットネスやサイクルショップなどが入る「WELLBEING ZONE」、そして飲食店が入るほか、憩いの広場やイベント広場等が整備される「RELAX ZONE」の3つのゾーンで構成される。開業は24年春を予定している。

 周辺エリアではMJRザ・ガーデン香椎(420戸、23年2月竣工)やMJR千早ミッドスクエア(532戸、25年2月竣工予定)などの大型分譲マンションの開発が相次ぐほか、目と鼻の先であるアイランドシティでもさまざまな開発が順次進んでいる。

福岡市東区
スポガ香椎ボウリング場跡地

スポガ香椎ボウリング場跡地
スポガ香椎ボウリング場跡地

 21年9月末に閉店したボウリング場「スポガ香椎店」の跡地では現在、新たな商業施設の開発が進んでいる。

 スポガ香椎店は、1965年12月に「西日本ゴルフセンター」として開業したのが始まり。70年12月にゴルフセンターの隣接地で、ボウリング34レーンを備えた総合スポーツセンター「香椎スポーツガーデン」が開業し、ボウリングレーン増設や施設の建替えなどを経ながら、08年7月に「スポガ香椎店」としてリニューアルをはたした。また、19年12月にはゴルフセンターが閉店となったが、その跡地を再開発するかたちで、21年4月に新たな商業施設「GARDENS CHIHAYA(ガーデンズ千早)」がオープン。一方で、スポガ香椎店は施設老朽化などを理由に、21年9月末に閉店した。22年4月にはガーデンズ千早本館の隣接地で、新たに「ちはや公園」が開業。緑の芝生が広がるオープンスペースのなかに店舗棟6棟が立ち並び、個性豊かで魅力的な7店のテナントが入居している。

 そして現在、スポガ香椎店跡地の約1万6,770m2の敷地で、新たに「(仮称)千早商業施設」の開発が進んでいる。S造・地上2階建、延床面積約1万140m2の施設を建設する計画で、開業は24年春を予定。スポガ時代から同施設の運営を手がける高橋(株)(福岡県久留米市)によると、同施設の完成をもって「GARDENS CHIHAYA」の全面完成となるとしており、今以上に日々の憩いの場として、そしてイベントなどを通して体験・出会い・発見に溢れるような「ライフスタイルセンター」を目指していくとしている。

福岡市東区
福岡高等技術専門校跡地

福岡高等技術専門校跡地
福岡高等技術専門校跡地

 18年4月に新校舎への移転が行われた福岡高等技術専門校では、隣接する旧校舎跡地での再開発が進んでいる。

 西側半分(国道3号側)4,058m2は、25年間の事業用定期借地権設定契約で、(株)ハローデイが7,200万円/年で落札。食品スーパーを核とするS造・地上4階建の複合商業施設「ハローパーク千早店」として、23年5月に開業した。

 残る跡地の東側半分(3,300m2)は、福岡県が「定期借地方式による土地貸付」による有効活用を図るために、「福岡高等技術専門校跡地有効活用事業」として公募型プロポーザル方式で民間事業者を公募。その結果、スターツ九州(株)を代表企業とし、(株)九電工、(株)青木茂建築工房の計3社で構成されるコンソーシアムが優先交渉権者に選定された。新たに賃貸マンションおよび一般向け店舗を配置した複合施設が整備される計画で、建物完成後には、福岡県の福岡農林事務所や福岡市の新千早公民館などが新施設内に移転する予定となっている。定期借地の開始は、25年3月からの70年間。今後、新施設は25年3月に着工し、27年2月に完成予定となっている。

福岡市博多区
アサヒビール博多工場

アサヒビール博多工場
アサヒビール博多工場

 まだ跡地になっているわけではないが、JR竹下駅前に位置するアサヒビール博多工場も、今後の再開発動向が注目されている。

 同工場は、1921(大正10)年4月に大日本麦酒(株)(現在のアサヒビールやサッポロビールなどの前身)の博多工場として操業を開始したのが始まり。21年4月に操業開始100周年の節目を迎えた、福岡市内でも有数の老舗工場だ。同工場ではこれまで、九州全県および山口県を出荷エリアとして、アサヒスーパードライやクリアアサヒ、アサヒ スタイルフリーなどを製造。年間生産量は約1,753万箱におよぶという。

 だが、アサヒビール(株)の持株会社であるアサヒグループホールディングス(株)は、22年2月15日付で発表した生産・物流拠点の再編計画のなかで、25年度末をメドに博多工場の操業を終了させ、近隣へ移転するという予定を示した。その後、同年6月にはその移転先として、佐賀県鳥栖市を候補地とし、鳥栖市に対して土地譲受申込書を提出した旨を発表。同年10月には佐賀県および鳥栖市と進出協定を締結し、新工場の名称を「アサヒビール鳥栖工場」としたことを発表し、26年から新工場での操業を開始する予定としていた。

 ところが23年11月、建設や設備などにかかる費用が当初計画から大幅に高騰したことを受けて、3年をメドに鳥栖工場の操業開始時期を延期する旨を発表。それにともない博多工場での操業も延長される。なお、博多工場の操業終了後の約12haもの跡地活用については、現時点で未定としている。

 そうしたなか福岡市では23年8月、アサヒビールに対して博多工場の跡地活用をめぐって、小中学校の用地確保に向けた要望を行った。同工場から約900mに位置する青果市場跡地で大型商業施設・ららぽーと福岡が開業し、周辺では同工場の近隣も含めてマンション開発が活発化。今後もさらなる人口増が見込まれることから、同工場が位置する那珂小学校区内でのさらなる学校用地の確保が課題となっている。もともと同工場敷地内の一角には、福岡市内でも最大規模の前方後円墳「東光寺剣塚古墳」が存在しており、その保存・活用などの課題も抱えており、小中学校などの公的施設の用地として利活用していくのは、落としどころの1つとして、なくはないだろう。今後、アサヒビール側がどのような最終決断を下すかは定かではないが、引き続き跡地活用をめぐっての動向が注目される。 

(つづく)

【坂田 憲治/代 源太朗】

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