2024年04月29日( 月 )

福岡都市圏の「跡地」動向(3)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 福岡では、天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの都心部再開発が進行し、天神ビジネスセンターや福岡大名ガーデンシティが誕生したほか、現在も複数の建替えプロジェクトが進んでいる。都心部以外でも、ホークスタウン跡地にMARK IS 福岡ももち、パピヨンプラザ跡地にブランチ 博多パピヨンガーデン、青果市場跡地にららぽーと福岡などが誕生したことは記憶に新しい。各所でまちの新陳代謝が進む過程で、一時的に(あるいは長期間にわたって)発生するのが“跡地”という存在だ。まちが生まれ変わる前の“サナギ”の状態といえる跡地が、福岡都市圏にはいまだ多く存在する。今回、代表的な跡地の動向を追ってみたい。

筑紫野市
JT九州工場跡地

JT九州工場跡地
JT九州工場跡地

 1986年3月に操業を開始した日本たばこ産業(株)(JT)の九州工場では、セブンスターやナチュラル アメリカンスピリット、Ploom S 専用たばこスティックなどの銘柄を年間約87億本製造(20年度)していたが、たばこ市場のニーズの変化と需要停滞にともなう国内事業量に応じた体制への見直しにより、JTは21年2月に同工場の閉鎖を発表。22年3月末をもって閉鎖となり、その後は「JT九州工業とりこわし工事」として、22年10月15日から23年9月15日までの事業期間で(株)鴻池組 九州支店による解体工事が行われていた。

 今後、敷地面積16万5,886m2という広大な跡地の利活用の動向が注目されているが、JTによる自社利用や売却などの方針については未公表となっている。過去に閉鎖された国内のJT工場跡地では、分譲マンションと市立病院として再開発されたケース(鹿児島工場跡地/05年3月末閉鎖)や、宅地や分譲マンション、公園、商業施設などで構成される“街”をつくるケース(浜松工場跡地/15年3月閉鎖)もあった。JT九州工場跡地においても、広大な敷地を活用したかたちで何らかの大規模開発が行われる公算が大きい。

 なお筑紫野市の平井一三市長は、市役所をはじめとした公共施設が集積する市中心部に位置する同跡地を、将来的なまちづくりを考えていくうえでの重要な場所と位置付けており、市として取得したい意向を示している。今後、筑紫野市が同跡地を取得して公的な利活用がなされるのか、それともJTなどの民間企業による新たな活用がなされるのか、その動向が引き続き注目されている。

筑紫野市長・平井一三氏
筑紫野市長 平井 一三 氏

    JT九州工場跡地は、やはりあれだけ広大な土地ですし、市役所に近いだけでなく、周辺には国や県、市のさまざまな施設が集積しており、筑紫野市の中心地的なロケーションに位置しています。それだけポテンシャルの高い土地ですから、筑紫野市の将来のまちづくりを考えていく場合、非常に重要な場所になるという認識をもっておりますし、市が取得することについても前向きに検討を行っているところです。跡地活用については市民の皆さまからの関心も高く、「緑地を残してほしい」「スポーツ施設をつくってほしい」「福祉サービスの施設を集積してほしい」など、さまざまな声をいただいており、先般JTの本社を訪問して、そうした“市民の声”を届けてきております。

 もちろん、取得の可否についてはどうなるかわかりませんし、あくまで一民間企業が所有する土地ですから、行政側があれこれと口出しできるものでもありません。ですが、筑紫野市が将来にわたって、多くの人に「住みたい」と思っていただけるような魅力的なまちづくりを進めるにあたって、この跡地をいかに利活用していくかが、市の将来を左右する非常に重要な問題だと考えております。今後、JT九州工場跡地でどのような開発が進められ、どのような場所に生まれ変わっていくかはわかりませんが、筑紫野市に新たな魅力をさらに付加していってくれるような場所になっていってほしいと思います。

筑紫野市長 平井 一三 氏

筑紫野市
筑紫野市役所旧庁舎

筑紫野市旧庁舎本館
筑紫野市旧庁舎本館

 19年1月に市役所現庁舎が開庁した筑紫野市では、移転前の旧庁舎の跡地活用の動向も注目されている。

 1936年11月に二日市町役場として竣工した旧庁舎は、戦後の高度成長期における人口流入や行政需要の増加にともない、たび重なる増改築を実施。最終的には、本館のほかに別館5棟、さらには上下水道庁舎と文化財担当事務所などが離れた場所に設置され、施設・機能が分散していたことで「タコ足庁舎」とも呼ばれ、筑紫野市民や職員などの多くの人が不便さを訴えていた。また、多くの庁舎建物が耐用年数を過ぎて老朽化が進行していたほか、耐震基準も満たしていないなど、安全面でも課題を抱えていたことから、新たな庁舎の建設計画が進行。17年7月からJR鹿児島本線沿いにあった旧九州森永乳業跡地で新庁舎の建設工事が進められ、18年12月に竣工し、19年1月に開庁を迎えた。

 一方で、旧庁舎跡地のその後の利活用については、長らく沈黙状態が続いている。このうち、旧上下水道庁舎だけは「筑紫野市旧上下水道庁舎用地活用事業」として公募型プロポーザルが実施され、地場の筑紫ガス(株)を代表企業とする筑紫ガス・アトリエサンカクスケールグループが事業者に決定。ガス機器ショールームやカフェなどで構成される複合施設「nodoca」として22年4月に開業し、新たな活用がなされている。また、残る旧庁舎のうち、本館では現在、24年3月末までの期間で「筑紫野市旧庁舎本館解体工事」として、建物の解体が進行。ようやく少し動きを見せ始めたかたちだ。

 旧庁舎跡地の今後については、「現在は市民の声なども聞きながら、利活用の方針について検討している段階」(平井市長)といい、前述のJT九州工場跡地の動向とともに、今後の筑紫野市における市民の関心事の1つになりそうだ。

(つづく)

【坂田 憲治/代 源太朗】

(2)
(4)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事