2024年04月29日( 月 )

福岡都市圏の「跡地」動向(4)

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 福岡では、天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの都心部再開発が進行し、天神ビジネスセンターや福岡大名ガーデンシティが誕生したほか、現在も複数の建替えプロジェクトが進んでいる。都心部以外でも、ホークスタウン跡地にMARK IS 福岡ももち、パピヨンプラザ跡地にブランチ 博多パピヨンガーデン、青果市場跡地にららぽーと福岡などが誕生したことは記憶に新しい。各所でまちの新陳代謝が進む過程で、一時的に(あるいは長期間にわたって)発生するのが“跡地”という存在だ。まちが生まれ変わる前の“サナギ”の状態といえる跡地が、福岡都市圏にはいまだ多く存在する。今回、代表的な跡地の動向を追ってみたい。

福岡市中央区
須崎公園再整備事業

福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業

 福岡市博多区千鳥橋~中央区西公園下交差点までを結ぶ那の津通り沿いでは、須崎公園と、多目的ホール・福岡市民会館の一体的な再整備が進んでいる。須崎公園は1951年に開園し、60年代に入ると園内に整備された屋外音楽堂が若者を中心に利用され、福岡の音楽文化の創造・育成に寄与した。海援隊やチェッカーズなど、有名バンドを輩出した聖地としても知られている。

 63年に建設された福岡市民会館は、ホール機能を備えた文化施設で、市民による文化芸術活動の発表の場として音楽や演劇などの興行の場として重宝され、国内外の著名アーティストによる公演が開かれることで、市の文化的風土の醸成に寄与してきた。

 2つの施設は、ともに開園・開館から50年以上が経過しており、老朽化や時代の要請(ユニバーサルデザインなど)への対応が不可避となっていた。また、17年には文化芸術振興基本法が文化芸術基本法に改正され、これを機に文化芸術にとどまらず、観光・まちづくり・国際交流・福祉・教育・産業などの振興も法律の範囲に組み込まれた。

 市ではこうした環境の変化を受け、須崎公園を水辺に開かれた公園として、福岡市民会館を文化振興の拠点施設として一体的に再整備することを決定。「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業」として入札を実施し、日本管財(株)九州本部を代表企業とするグループが同事業を落札した。落札価格は208億7,140万2,038円(税別)。新たな拠点文化施設の開館は25年3月、公園の開園は27年3月を予定している。同事業の対象エリアは約4万175m2。拠点文化施設には、大ホール(約2,000席)、中ホール(約800席)、文化活動・交流ホール(約150席)、リハーサル室・練習室、エントランスホールといった機能が導入される。

 古くから日本におけるアジアの玄関口として、多様な文化と交わりながら発展を遂げてきた福岡市。天神5丁目の那の津通り沿いに誕生する、新たな交流拠点は、市が文化的魅力にあふれた都市として飛躍を遂げるための一里塚となる。

福岡市中央区
福岡県立美術館

福岡県立美術館
福岡県立美術館

 須崎公園再整備事業の対象エリア内には、福岡県立美術館(以下、現県美)が存在している。現県美は、1964年にオープンした図書館と美術館の併設施設、福岡県文化会館を前身としており、オープン後約60年が経過している。老朽化への対応として、中央区大濠1丁目の福岡武道館跡地への移転新設が決まっていることから、現県美の動向が注目されている。

 福岡県によれば、現県美を解体するのかどうかも含めて「まだ決まっていない(23年12月入稿時点)」とのこと。既出の再整備イメージパースでも現県美のある場所は空白となっており、県と土地の貸主でもある市との間で、今後話し合いが進むものと考えられる。現県美の概要は、本館がRC造・地上4階建、美術品などの収蔵庫部分がSRC造・地上7階建で、延床面積は6,929.08m2(敷地面積は5,645.95m2)。すでに約1万点に上る収蔵作品を擁しており、将来的に作品点数は増える可能性が高いことから、現県美は残し、福岡武道館跡地に新設される新福岡県立美術館(以下、新県美)と補完的に運用していくことが文化芸術振興の観点からは望ましい。

 一方で、同再整備事業を市による新たなまちづくり施策として考えた場合には、現県美を解体し、代わりに民間投資を誘発するような“目玉”となるシンボル施設や、新たな公園を象徴するモニュメントが欲しいところだ。

福岡市中央区
福岡高等裁判所跡地

福岡高等裁判所跡地
福岡高等裁判所跡地

 福岡武道館跡地に誕生する新県美は、地上4階建、延床面積約1万4,000m2(敷地面積20,666m2)。都心のオアシス、大濠公園の南側ということもあり、公園の景観に溶け込むように建物の高さは低く抑えられているほか、県民が親しみを感じられるように、県産木材や石材など地のものを積極的に取り入れる。また、1階ロビーに吹き抜け空間「メディアヴォイド」を設けることにより、大型の美術作品も展示可能となる。設計を(株)隈研吾建築都市設計事務所が手がけることでも話題を呼んだ。

 新県美の隣には福岡市美術館があり、県と市の垣根を越えて、美術館同士の交流が促進されることへの期待も高まる。加えて、大濠公園ではセントラルパーク構想のもと、隣接する舞鶴公園との一体的な再整備が進んでおり、都心にいながら緑やアートがより身近に感じられるエリアへと変化を続けている。周辺の大手門、黒門エリアではマンション開発も活発化しており、新県美の誕生とセントラルパーク構想の実現を機に、憩いやアートに対する需要は相応に高まっていくものと考えられる。

 セントラルパーク構想そのものに含まれている、福岡高等裁判所跡地は、23年10月、大型駐車場として生まれ変わった。整備面積は3.1haで、295台(内、大型バス18台)が駐車可能。公園の案内施設やテニスコート(3面、二の丸からの移設)も整備されたほか、上之橋御門跡方面から新設された階段を経て、駐車場へと直接移動できるようにもなっている。江戸時代における福岡城への入城動線を再現したもので、江戸時代に屋敷が並んでいたとされる駐車場の隣接地には、L字形の園路が整備された。単なる天神側からのエントランスにとどまらない工夫が凝らされたことで、歴史コンテンツを呼び水とした観光振興の一助となりそうだ。

 セントラルパーク構想は30年頃の完了を目安に、段階的に整備が進められている。整備にともない(1)大濠公園北側エントランス、(2)くじら公園~三ノ丸広場、(3)舞鶴中学校跡地・城内住宅、(4)舞鶴公園線沿線、(5)福岡城本丸・二ノ丸周辺、(6)鴻臚館跡、(7)福岡高等裁判所跡地、(8)大濠公園南側エントランスの8つのエリアに大別されており、四季折々の植物・生き物の観察が楽しめる自然公園として、また、前述の2つの美術館の存在を生かしたアート巡りの拠点として、存在感の発揮が期待されている。

福岡市中央区
こども病院跡地

こども病院跡地
こども病院跡地

 14年11月にアイランドシティ(東区)へ移転したことで、中央区唐人町での役割を終えた「福岡市立こども病院」の跡地約1.7haも、再開発に向けて現在動き出している。

 福岡市は23年1月、公募していた「こども病院跡地活用事業」の優先交渉権者として、積水ハウス(株)を代表とし、㈻福岡大学を構成員とするグループ(以下、積水・福大グループ)に決定したと発表した。積水・福大グループが提案した事業の基本方針は「FUKUOKA NEXT WELL BEING GARDEN CITY~過ごすだけで心も身体も健康になる持続可能なまちづくり~」。IoT機能を充実させた内科総合病院(117床、オンライン診療やAI画像診断など)のほか、健康プラザ(1階:小児科クリニックなど、2~3階:健診センター)、分譲マンション2棟(A棟:1~23階建の全178戸/B棟:1~9階建の全44戸)、防災備蓄倉庫などを擁するコミュニティハウスなどを整備していく方針。開業時期は、27年春頃を予定している。

 さらに23年7月には、福岡大学が運営する同大学西新病院(早良区)を同跡地に移転させることも明らかになった。西新病院は福岡大学が福岡市医師会から成人病センターを事業譲受するかたちで、18年4月に開院。現在は循環器、消化器、糖尿病・代謝・内分泌、呼吸器、脳神経の5つの診療科からなり、病床数117を備え、医師・職員など約200人が勤務している。移転後の新病院も移転前と同等規模となる予定で、新たな感染症に対応するための設備も整備、地域の避難所としての機能ももたせるとしている。

(つづく)

【坂田 憲治/代 源太朗】

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