2024年04月30日( 火 )

福岡都市圏の「跡地」動向(5)

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 福岡では、天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの都心部再開発が進行し、天神ビジネスセンターや福岡大名ガーデンシティが誕生したほか、現在も複数の建替えプロジェクトが進んでいる。都心部以外でも、ホークスタウン跡地にMARK IS 福岡ももち、パピヨンプラザ跡地にブランチ 博多パピヨンガーデン、青果市場跡地にららぽーと福岡などが誕生したことは記憶に新しい。各所でまちの新陳代謝が進む過程で、一時的に(あるいは長期間にわたって)発生するのが“跡地”という存在だ。まちが生まれ変わる前の“サナギ”の状態といえる跡地が、福岡都市圏にはいまだ多く存在する。今回、代表的な跡地の動向を追ってみたい。

福岡市博多区
キャナルシティ博多イーストビル

キャナルシティ博多イーストビル
キャナルシティ博多イーストビル

 96年4月に開業した複合商業施設「キャナルシティ博多」の増設棟であり、“第2キャナル”と呼ばれていた「キャナルシティ博多イーストビル」(以下、イーストビル)も、再開発に向けて動き出している。

 11年9月に開業した地上4階・地下1階建、延床面積1万7,543m2のイーストビルは、「H&M」「ユニクロ」「ZARA」などの衣料品店や「Francfranc」などの雑貨店を核テナントとしており、キャナルシティの増床という位置づけだった。だが、開業からわずか12年で閉館となり、新たに建替えられることになった。

 キャナルシティ博多を運営する福岡地所(株)の発表によると、都心部の洗練されたライフスタイルを実現する商業施設やハイクラス賃貸レジデンスや、短期から長期滞在まで国内外の顧客の幅広い要望に応えるサービスアパートメントなどからなる複合施設「(仮称)新イーストビル」の開発を計画しているといい、福岡市地下鉄「櫛田神社前」駅と直結するほか、キャナルシティ博多本館ともつながる予定となっている。

 また、24年夏から(仮称)新イーストビルの着工までの期間限定で、賑わいと憩いの広場が登場。広場ではスポーツが楽しめるほか、仮設店舗の出店や幅広い年代が楽しめるファーマーズマーケット、セレクトされた生活雑貨やテーマ性のあるマルシェ、キャナルシティ博多本館の店舗とタイアップしたイベントなどを計画中としている。

 前出のかしいかえん跡地における「かしいのはまビレッジ」のように、国内外では開発予定地で事業が本格化するまでの間、市民に開かれた新たな賑わい拠点を構築するなど、暫定利用期間の有効活用方法がまちづくりの新たなテーマとなっている。(仮称)新イーストビルにおいても、国内外のさまざまな事例から検討を行い、この場所に適した広場を設置してさまざまなイベントを開催していくことで、地域の賑わい創出を図っていく予定だ。

福岡市西区
マリノアシティ福岡

マリノアシティ福岡
マリノアシティ福岡

 キャナルシティ博多と同じく、福岡地所が運営する商業施設「マリノアシティ福岡」でも、再開発に向けて検討されているという話が出ている。

 2000年10月に、九州初の本格アウトレットモールを中心とした複合商業施設として西区小戸で開業したマリノアシティ福岡は、04年7月にアウトレットⅡ棟部分が、07年9月にアウトレットⅢ棟部分が、それぞれ開業。海を臨んで大小2つの観覧車が双子状に隣接するという外観も、他に類を見ない特徴的なものだった(大型の観覧車は09年9月に営業終了)。現在、約8万5,200m2の敷地内に約160のテナントが入居しており、地域におけるランドマーク的な商業施設として認知されている。

 だが、開業から20年以上が経過し、臨海部にあることもあって建物や設備の老朽化が進行。また、「鳥栖プレミアム・アウトレット」(佐賀県鳥栖市、04年3月開業)や、「THE OUTLETS KITAKYUSHU(ジ・アウトレット キタキュウシュウ)」(北九州市八幡東区、22年4月開業)など、後発のアウトレットモールが登場したことで、マリノアシティ福岡の優位性や集客力に陰りが見え始めていた。

 そうしたなか23年10月、同施設を運営する福岡地所グループが、事業の大幅な見直しも視野に入れながら、マリノアシティ福岡の建替えを検討している旨のニュースが流れた。現時点で具体的な計画内容や時期については発表がないものの、福岡地所による前出のイーストビル建替え計画などを鑑みると、マリノアシティ福岡の建替え検討にも現実味が感じられる。今後、どのようなかたちで生まれ変わるかは不明だが、マリノアシティ福岡が登場したときのように、エリアに絶大なインパクトを与える再開発をぜひ期待したいところだ。

福岡市中央区
長浜地区商業施設

(仮称)福岡市長浜地区商業施設
(仮称)福岡市長浜地区商業施設

 福岡市中央区長浜の一角において22年、「スポーツクラブNAS北天神」や「釣船茶屋 ざうお 天神店」「天然温泉 天神ゆの華」などの複数の施設が相次いで閉店。現在、その跡地での再開発が進行している。

 賃貸借契約期間の満了により閉店となったこれらの施設だが、土地の所有者である日本貨物鉄道(株)(JR貨物)では、22年5月に発表した22年3月期決算の説明資料のなかの主な取り組みの進捗状況の「不動産事業を通じた地域活性化への貢献」の項目で、23年3月期の取り組みとして「千葉みなとや長浜地区(福岡市)の既存開発物件の再開発」を列挙。同地における再開発が勃発する旨を示唆していた。

 その同地では現在、「(仮称)福岡市長浜地区商業施設」が着工し、工事が進行している。届出によれば、S造・2階建の建物となる予定で、1階部分が駐車場(183台)、2階部分が店舗になる。店舗部分には「(仮称)ケーズデンキ福岡長浜店」が入居し、店舗運営は(株)九州ケーズデンキ(茨城県水戸市)が手がける。完成は24年7月末の予定。

 立地からすれば、長浜鮮魚市場との一体開発など、もっとエリア特性を生かした開発の可能性もあったように思われたが、最終的には大型家電量販店の入居という結末に終わるようだ。

福岡市博多区
冷泉小学校跡地

冷泉小学校跡地
冷泉小学校跡地

 児童数の減少などを理由として98年に博多小学校として統合された4つの小学校(冷泉小学校・奈良屋小学校・御供所小学校・大浜小学校)のうち、冷泉小学校の跡地では再開発に向けた動きが長らく停滞している状況にある。

 これまで福岡市は、博多区上川端町に位置する冷泉小学校跡地(約6,800m2)については、博多の歴史や伝統文化を生かすとともに、これまで学校施設が担っていた役割や機能を踏まえながら、地域にとっても、福岡市にとっても魅力ある跡地活用となるよう、取り組みを進めてきた。18年4月からは、跡地全体を対象として埋蔵文化財の発掘調査に着手。その結果、19年10月に11世紀後半から12世紀前半の港の護岸と考えられる遺構が発見された。発見されたのは、跡地内を斜めに横断するかたちで、当時の海岸線に合わせて幅1.2m~1.6m、高さ60cm、長さ70mからなる石積遺構。周辺からは中国からきた商人の居住施設があったと見られることや、当時の貿易の主要な輸出品であった陶磁器や土器なども大量に見つかっている。また調査では、石積遺構が使用されなくなって埋め立てられた後につくられた中世の井戸や溝、近世の寺院墓地なども検出された。

 23年10月には、この発見された石積遺構が、中世に博多が国際貿易都市として栄えていたことを示す学術的な価値があるとして、「博多遺跡」として国の史跡に指定されることが決定。24年3月に正式に指定される見込みとなっている。

 前出の九大・原町農場跡地と同様に、埋蔵文化財や遺跡が絡んでくると、その保存を第一としながらの遺跡としての利活用の検討が優先され、大々的な再開発には着手しづらい状況が生まれてくる。冷泉小学校跡地でも今後、国の史跡に指定された博多遺跡を保存しつつも、いかにして活用し、魅力ある再開発を進めていくのか、その難しい舵取りが問われてくることになる。

(つづく)

【坂田 憲治/代 源太朗】

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