2024年05月05日( 日 )

認定こども園「木質化」された木造建築とは(前)

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内記建築設計室

東門上空より見る建物全景
(撮影者:タナカ写真スタジオ田中太)

 中・大規模木造建築物の普及においては近年、幼稚園や保育園などの事例が目立つ。そのうち民間の事例が、大牟田市で2023年3月に竣工した幼保連携型認定こども園「若草幼稚園」だ。そこで、設計監理を行った内記建築設計室の代表・内記英文氏に、建物について話を聞いた。その設計・施工には法規制などのさまざまなハードルを乗り越える必要があり、同種の木造・木質化建築物の普及にあたって示唆に富むものである。

木造・木質化建築賞、木質化の部で優秀賞

 ──若草幼稚園は、「第9回福岡県木造・木質化建築賞」の「木質化の部」で優秀賞を受賞しました。構造体は木造ですが、なぜ「木質化」だったのでしょうか。

内記英文 氏
内記 英文 氏

    内記 旧木造園舎は、老朽化や耐震性不足などの理由から建て替える必要性がありました。新園舎をどのようなものにすべきかを探るなかで、「伸びやかで広々とした自由度のある空間、そして何よりも木の香りがする暖かな雰囲気の木造園舎にしたい」とのご要望がありました。

 幼保連携型認定こども園とは、文科省管轄の幼稚園(3歳から就学前の幼児教育の場)と厚生労働省管轄の保育園(0歳~就学前の保育の場)の機能を併せもつハイブリッドな施設であり、2023年度よりこども家庭庁が設置され窓口が一本化されました。しかし、建築基準法では、幼稚園と保育園それぞれの基準で厳しいほうを採用するという運用になっており、より高いハードルの法規制が求められています。

 新園舎の計画では、2階に保育室などを設けないことで、建築基準法では木造での建築が可能となりますが、面積規模と用途により、空間を分断する「防火壁」の設置や、「内装制限」といった壁天井に燃えない材料(ビニルクロスや不燃化粧板など)を使用し人工的で冷たい空間づくりをせざるを得なくなり、木造に拘ることで木造園舎のイメージとはほど遠いものになる矛盾を感じました。そこで、建築基準法を再解釈し、骨組みは木造でありながら、本来必要のない準耐火建築物の性能をもたせることで、防火壁や内装制限を取り払うという選択が、建築主からのご要望に最大限応えることになると判断しました。

 木造らしさを強調する柱や梁は、すべて強化石膏ボードなどの不燃材で覆いますが、内装制限がかからないため、壁や天井に無垢板材や自然素材を使用できます。一部の柱には燃えしろ設計(柱が燃えても一定時間強度を維持できるよう柱のサイズを大きくする設計)を採用し、子どもたちが無垢の木柱に直接触れられる設えとしました。

 より厳しい基準をクリアしながら、木造園舎らしい暖かみと柔らかな雰囲気の下、子どもたちを安全に見守る空間をつくり出せたこと、こうした取り組みが<木質化の部>での受賞となった経緯です。

 ──設計・施工で苦労されたことはありましたか。

 内記 敷地には最大4.5m(約1.5階分)の高低差があり、そこに点在する4施設をどうやってスムーズに一体化させるかが設計面における最難題でした。高低差というハードルを空間の上げ下げによって攻略していくなかで、屋根裏や床下の隙間や段差など、子どもたちにとっては隠れ家であり遊び場となるような空間が生まれ、平屋という単純な建物でありながらも、複雑で立体的な空間づくりへと昇華させることができました。

施工中の光景
施工中の光景

    施工面では、コロナ禍での着工や施工中のウッドショックにより、人材と資材の調達が不安視されました。大牟田市では前例のない規模の木造建築物であったため、地元の建設会社や大工さんらが施工方法を容易にイメージできるよう、住宅建築の延長として在来軸組工法を採用し、人材不足に対応できました。資材不足に対しては、設計段階からプレカット事業者と協議をしながら、安定供給できる樹種とサイズを絞り込むことで、納期の遅れや大幅なコスト増を抑えることができました。

保護者の視点も生かし、多目的ホールは横長に

 ──建物の特徴は、ほかにどのような点がありますか。

 内記 息子が旧園舎時代の若草幼稚園に通っていたこともあり、私自身、父母の会の役員として幼稚園の活動に関わっておりましたので、先生方の日々の活動や旧園舎ならではの苦労を共にする機会が多くありました。

 とくに、学芸会やお祭りなどの行事のたびに、木造園舎の屋根裏や各所に点在する倉庫から大量の道具類を人力で運び出すのですが、その労力たるや想像を絶するものでした。そこで新園舎では、すべての道具類を1カ所にまとめて倉庫動線を整理し、搬出入の労力を軽減させることに努めました。また、旧園舎のホールは縦長の形状(長方形の短辺側にステージ)であったため、入園式や卒園式のたびに、保護者間で最前列の座席を確保するための争奪戦が繰り返され、三脚でのビデオ撮影は最後方で行うといった、ホール形状に起因する暗黙のルールも保護者の大きなストレスとなっていました。そこで、新園舎のホールは、保護者の多くが最前列に座れるように横長の形状(長方形の長辺側にステージ)とし、またホール後方には、段上がりの廊下から見通し良くビデオ撮影が行えるような設えとし、保護者の皆さまからは大変好評をいただいております。

あかりえホールの様子(撮影者:タナカ写真スタジオ田中太)
あかりえホールの様子
(撮影者:タナカ写真スタジオ田中太)

(つづき)

 【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:内記 英文
所在地:福岡県大牟田市白金町186-1
設 立:2004年4月
TEL:0944-56-3786

(後)

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