認定こども園「木質化」された木造建築とは(後)
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内記建築設計室
中・大規模木造建築物の普及においては近年、幼稚園や保育園などの事例が目立つ。そのうち民間の事例が、大牟田市で2023年3月に竣工した幼保連携型認定こども園「若草幼稚園」だ。そこで、設計監理を行った内記建築設計室の代表・内記英文氏に、建物について話を聞いた。その設計・施工には法規制などのさまざまなハードルを乗り越える必要があり、同種の木造・木質化建築物の普及にあたって示唆に富むものである。
保護者の視点も生かし、多目的ホールは横長に(つづき)
──子どもたちへの配慮はいかがでしょうか。
内記 旧園舎当時は、敷地内の複雑な高低差により園舎と園庭とが分断されていたため、園長先生から「南に面した明るい保育室から、子どもたちがわーっと園庭に駆け出して行けたらいいな」というお話がありました。そこで、すべての保育室を南側に一列に並べることからゾーニングを始めました。8クラスを一列に並べると園舎の幅は全長55mになります。それらを広々としたオープンデッキでつなぎ、すべてが南に面した開放的で大きな明るい空間が生まれました。オープンデッキと園庭の間は高低差を吸収するための段差が生じましたが、段差の隙間に生じた天井の低い空間をホビット園庭として、55mの長い廊下では徒競走が行われるなど、魅力的に活用していただいております。
このほか、新築した3棟の外観カラーは、園児さんの制服や園歌からヒントを得て、赤・白・緑とすることで既視感を演出し、住宅地における建築ボリュームへの違和感を軽減しています。地熱蓄熱暖房や、都市ガスとプロパンガスの併用、将来的な防災井戸の設置といった、子どもたちと地域を守る防災拠点としての機能を付加した点も、特徴の1つとなっています。
地域性を考慮した活性化・普及策を
──木造非住宅、中・大規模木造建築物普及の可能性について、どうお考えですか。
内記 若草幼稚園を見学された法人からのご依頼で、現在、みやま市(福岡県)にて同規模の木造園舎を設計し、地元の建設会社で着工、2024年9月頃に竣工予定です。このほか、低層のクリニックなどでも、将来的な増改築が容易になる利点もあり、木造での引き合いが増えています。しかし、こうした在来工法を基本とした大規模な木造建築物については、ノウハウをもつ設計事務所や解析のできる構造事務所が限られることや、大工などの技術者も極端に高齢化していること、さらに近年の木材価格の高騰を踏まえると、将来的な安定供給とまでは一筋縄ではいかないように感じています。CLTや複合梁などのハイブリッド工法は、大牟田のような地方においては、まだ現実的な選択肢ではありませんが、コストや技術が一般化してくれればと期待しています。
県境に位置する大牟田市は、熊本、佐賀、大分に隣接しており、福岡県産材に限らず複数の県産材のなかから、より安価な木材を選定し安定的に入手できる環境にあります。木材活用の活性化や中・大規模木造建築物の普及のためには、所在県の枠組みに拘らず、九州全域の実情に合わせて取り組むことが大切だと思います。
木造建築は風土的にも日本文化に根付いており、親近感を抱けます。若草幼稚園でも、棟上げ式や餅まきを園児さんたちと一緒に経験できました。しかし、人材や資材不足などの状況を踏まえると、はたして骨組みが木造である必要があるのか、内装木質化のほうが木の印象が強いのではないかなど、その効果を施設用途の付加価値としてどう位置付けることができるのか、計画段階で十分に話し合って取捨選択されることをお勧めいたします。
(了)
【田中 直輝】
(学)泉ヶ丘学園(若草幼稚園)
理事長・安元 大介氏1952年、初代園長の安元ヒサ氏が創立した若草幼稚園は、2022年5月に70周年を迎えました。87年の35周年にRC造2階建ての園舎を新築し、合わせて法人化、12年4月から幼稚園と保育園の機能を併せもつ「幼保連携型認定こども園」となりました。
出生率が低い大牟田市ですが、共働き世帯が増えるなか保育園のニーズは右肩上がり、幼稚園は右肩下がりという状況で、市内にもこども園が増えてきました。そこで将来的な存続や教育・保育の環境改善を図るため、創立70周年の記念事業として新園舎プロジェクトを立ち上げ、内記一級建築士とともに全国各地の先進的な取り組みを行う施設を見て回るなど、構想から足かけ7年を経て、新園舎が完成いたしました。
構想当初は鉄骨造やRC造も想定しましたが、木の香りがする暖かな園舎づくりへの想いを伝え、木造で建設することにいたしました。その結果、園児・保護者・教職員の安全性や快適性、教育と保育のさまざまな可能性を追求、展開でき、さらに災害にも強い、地域に貢献できる施設になったと感じています。幼保連携型認定こども園 若草幼稚園
福岡県大牟田市上官町3-101
TEL:0944-52-4919<工事概要>
設計監理:内記建築設計室(一級建築士事務所)
施工管理:(株)今村組
構 造:木造軸組在来工法・
45分準耐火建築物2階建
敷地面積:6,236.14m2
延床面積:<あかりえ>1,426.85m2
<みどりえ>323.79m2
<ソラシドーム>240.25m2
<COMPANY INFORMATION>
代 表:内記 英文
所在地:福岡県大牟田市白金町186-1
設 立:2004年4月
TEL:0944-56-3786月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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