2024年04月29日( 月 )

40年前から月給制のスギヤマに聞く業界の現状

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(株)スギヤマ

 現場の花形といわれる「とび」を主体に実績を重ね、業歴86年を誇る(株)スギヤマ。同社の3代目社長・杉山英治氏に、業界環境の現状や職人不足への対策などを聞いた。

専門工事だけでない強み

杉山英治 氏
杉山 英治 氏

    ──御社の概要および強みについて、お聞かせください。

 杉山 当社は1937年4月に、初代の杉山大治が杉山組を創業したのが始まりです。その後、現会長の杉山秀彦が後を継いで2代目社長となり、2010年4月に私が3代目社長となりました。専門工事であるとび・土工工事を中心に、土木工事や建築工事などを手がけています。とびは、現場の安全を確保する重要な職種です。現場作業員が安全かつ効率良く作業ができる足場を組むことが求められ、工事現場の花形ともいわれています。

 当社が最も大切にしているのは「人財」です。専門工事業界のなかでも、今では多少増えてきたと思いますが、当社では約40年前から月給制にしています。職人たちに安定した生活を送ってもらいたいというのが願いです。

 当社の強みは、専門工事だけではなく、請け負う工事によって2つの部署を設けていることです。主要取引先である清水建設(株)や戸田建設(株)などのゼネコンの下請を担当する「工事部」と、元請の「事業部」があります。現在、工事部で40名、事業部で20名の職人・社員が頑張ってくれています。元請の立場を知ることで、下請工事がスムーズに進められるようになったと自負しております。

 ほかにも、PC(プレキャスト)取付工事やタワークレーンの組み立て工事などの特殊工事を施工できることも当社の強みです。工法が特殊であるため、とび・土工の許可をもっているからといって、すべてのとび・土工業者が施工できるというものではなく、施工可能な技術者も多くありません。そのためPC工事は、九州外でもいくつか実績があります。基本的な工事に加え、このような特殊工事を行えるという点も長年「とび」を続けてこられた理由の1つだと思います。

 ──業界環境の現状および今後の見通しについて、考えをお聞かせください。

 杉山 建設業界自体は活況です。当社でも、30~40現場を常に同時進行している状況ですが、2024年以降は予定していた工事の延期などの影響で少なくなってきています。主な原因は、発注者による予算の見直しです。コロナ禍でも工事の延期や白紙になったケースを耳にしていましたが、昨今の資材高騰や職人不足による人件費の増加などで建設コストが上昇し、当初の予算と合わなくなってきています。

 これまでは中型工事といわれるマンションや社屋の工事が多かったのですが、ここ最近は物流倉庫施設や半導体関連工場といったような大型工事が増加してきており、物件ごとのボリュームも大きくなっています。大型工事の着手延期は人員面に大きな影響が出ます。というのも、職人を待機させておかなければならないからですが、長年取引を行っている得意先に迷惑をかけるわけにはいきませんので、現場が動き出せば、こちらもいつでも動き出せるような体制を取っています。新規案件がきても、工事消化が厳しい場合が出てきていますので、人員の配置を調整するのは非常に難しい。それでも機会損失をできるだけ減らすよう、ギリギリまで考えています。

職人不足への対応策

    ──職人不足への対策をお聞かせください。

 杉山 毎年200を超える九州一円の高校に求人を出しているほか、当社社員の出身校に足を運んで、直接交渉をしています。ほかにも、会長(杉山秀彦氏)が建設産業専門団体九州地区連合会(以下、建専連九州)の会長を務めており、当社でも工業高校への出前授業を行っています。その卒業生が建専連九州の加盟企業に入社することがあり、当社にも在籍しています。

 また、社内に展示場ルームを設置しており、工事部および事業部が竣工してきた建築物に写真や建築模型を展示しています。これは学校の就職担当者や面接に来る学生たちに当社の仕事を理解しやすくするためで、いわゆる「仕事の見える化」の一環です。この展示は、現役社員も「自分が携わった建物だ」と喜んでおり、モチベーションアップにもつながっています。外国人技能実習生の採用による対策も行っており、現在2名の外国人技能実習生が働いています。実は、今日(取材日)もリモートで11名のインドネシア人の面接を行ったところでした。彼らは非常に重要な戦力となっています。

 高齢化による職人不足は今後さらに深刻化していきますので、ICT化も積極的に進めています。今までは土木工事で重機(バックホー)を使って地面を掘る際に、どこを基準に掘っていくかをスプレーで線を引いていたのですが、これには手間も人手も要ります。それが今では、バックホーに施工図(基礎伏図)を読み込ませることで、スムーズな掘削作業ができています。

 ──専門工事業を含む建設業界の課題について、お聞かせください。

 杉山 業界全体としての課題は、労務単価の低さでしょう。当社は基本的に一次下請として工事を受注することが多く、二次、三次下請などには「工事を請けてもらっている」という気持ちで、しっかりと工事に見合った金額を支払っています。合わせて、元請には適正な労務単価にしてもらうように交渉しているところです。現在、建設業―とくに専門工事業は、製造業やほかの業種に比べて年間所得が低い。これを増やしていくことで、若者が職を検討する際の選択肢に入るようにしなければならないと考えています。

【内山 義之】


<プロフィール>
杉山 英治
(すぎやま・えいじ)
1974年、福岡県出身。学校卒業後、東京都内の建設業者に入社し、とび・土工工事業に携わる。2002年に(株)スギヤマに入社。10年4月、代表取締役に就任。趣味はバンド・マラソン。


<COMPANY  INFORMATION>
代表:杉山 英治
所在地:福岡市東区多の津4-5-13
    スギヤマビル5階
設 立:1962年4月
資本金:2,000万円
URL:http://www.sugiyama-g.co.jp

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