2024年05月08日( 水 )

カネの流れ可視化に失敗した平成の改革 今こそ令和の新たな政治改革を(前)

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東京工業大学大学院
准教授 西田 亮介 氏

東京工業大学大学院 准教授 西田亮介 氏

 低支持率に喘いでいた岸田政権を政治資金パーティー収入不記載問題が直面した。自民党、とくに安倍派は危機的な状況にあるが、ここで思い起こされるのは、約30年前の政治改革においても、国民の政治不信を招いた「政治とカネ」の問題をより適切に規正する仕組みづくりが図られたことであり、現在の事態は政治がカネの流れの可視化に失敗したことを明らかにしている。とくに野党には、改めて政治改革案の提示が求められる。

カネの流れ可視化に失敗 問われる規正のあり方

 低空飛行を続ける岸田文雄政権だが、最大の危機を迎えている。本稿が読者諸兄姉の手元に届くころにはいったい何が起きているのだろうか。予想することすら難しい。時事通信の12月の調査によれば、内閣支持率はなんと17%。内閣支持率は低空飛行どころか、2012年の自民党への政権交代後の内閣と比較しても最低水準。これまで内閣支持率と比べて概ね安定していた自民党の政党支持率も大きく落ち込んだ。岸田政権のみならず与党自民党の立場も危うい。

 ただし野党第一党の立憲民主党の政党支持率の伸びは緩やかで、なかなか政府、自民党に対する批判票の受け皿となりえていないようだ。自民党支持層と非自民支持層、無党派層やその他のあいだの溝は深くて広い。自民党にとってはかろうじての「救い」となっている。

 臨時国会閉幕後、これまでの秘書や事務所関係者の聴取を踏まえて、検察の捜査が本格化している。これは国会議員には憲法第50条で定められた不逮捕特権があるからだ。

 <両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。>(日本国憲法 第50条)

 来年度予算や重要政策を審議する通常国会の開幕までには捜査も一定の結論が出ている(ことを見越して捜査が進められる)はずだから、政界は年末年始も気もそぞろに違いない。心静かに年末年始を迎えるというわけにはいかないはずだ。

 何が起きているのか。23年秋の臨時国会閉幕後、元法相の江東区区長選挙での不正事件と安倍派を中心とする政治資金パーティー不正という2つの政治とカネをめぐる疑惑が自民党と派閥を襲っている。

 前者において、元法相が副大臣を辞任。自民党からも離党した。後者では、自民党の最大派閥安倍派を中心にさまざまな派閥において、政治資金パーティーを販売した資金を手元にプールするか、ノルマを超えた分をインセンティブとしてキックバックを受けるなどして政治資金収支報告書に記載せず、事実上、裏金としていたのではないかという疑惑がある。

 総裁派閥の岸田派も影響を受けるが、何より最大派閥の安倍派が大きな影響を受けている。松野博一官房長官や西村康稔経産大臣、世耕弘成参院幹事長、高木毅自民党国対委員長、萩生田光一自民党政調会長など岸田政権の政府・与党の中枢であり、ポスト岸田政権をうかがおうかという面々を直撃したからだ。そして彼らは何も語らないまま次々と大臣・自民党の要職を辞した。

 一部報道ではキックバックを問題視するような記事も見られるが、そうではない。問題はキックバックそれ自体ではなく、政治資金規正法上の収支報告書への不記載疑惑であり、実際にカネを受け取っていたとすればその不可視性が問題視されているのだ。日本政治は政治とカネにたびたび振り回されてきた。それはその通りだが、現在の政治資金規正法は良くも悪くも「政治にカネがかかる」ことをある程度認めているからだ。
 そのうえで質量、対象などを規制し、カネの出入り、そして政治資金の流れをある程度、規制、追跡できるように公表を義務付けているのである。

 思い返せば、現在の日本の選挙と政治の常識もロッキード事件以後も懲りることなく繰り返された政治とカネをめぐる事件がきっかけとなった。1990年代までに多くの政治とカネの問題が露呈し、世論の厳しい批判を受けた自民党が自ら率先して問題を解決すべく「改革」の産物として導入したのが現行の選挙制度であり、政党助成法に基づく政党助成金制度であり、政治資金規正法であった。同一政党の候補者が競合し、カネがかかりがちな中選挙区制をやめ、政治にかかるコストをある程度国、そして国民が負担することにした。そして政治とカネの流れを可視化しようとしたのであった。

 こうした考えは、過去30年にわたって、スタンダードとして定着してきた。ただし、政治家や候補者個人への政治献金を規制しつつも、政党支部などへのそれを認めていることで骨抜きになっているという批判も根強い。まるでお茶を濁すような「反省」の弁が政治家から聞こえるが、さすがに規制見直しは避けては通れないだろう。

コスパのよい政治資金パーティー

 ところで、政治資金規正法は、政治がカネを集める手段として、政治資金パーティーの開催を認めている。表向きの看板は、勉強会や出版記念パーティーなどいろいろなのだが、要は多くの支援者や関係者が数万円程度のチケットを購入して参加する体で、政党は効率良く政治資金を集めることができる。さらに「政治とのつきあい」のなかでこのチケットを大口で引き受ける企業などがあり、政治の有力なパトロンと化している。原価を低く抑えることもでき、極めて効率の良い集金システムであることは容易に想像できる。

 それだけではない。政治資金規正法には政治資金パーティーに付随して、1回1,000万円以上(!)という大金を集めることが期待される「特定政治資金パーティー」が規定されている。もともと政治資金パーティーはコスパの高い集金手法だが、高額集金可能な特定政治資金パーティーは超効率的な集金手段といえる。

 政治資金パーティーはコロナ禍で鳴りを潜めていたが、22年には年間約90億円という、コロナ前に近い水準にまで復活したことが報じられている。そのなかで特定政治資金パーティーの収入については9割超が自民党に集中していることを日経新聞が報じている(「特定パーティー収入52億円 22年政治資金報告」『日本経済新聞』2023年12月1日付)。

(つづく)


<プロフィール>
西田 亮介
(にしだ・りょうすけ)
1983年京都市生まれ。2006年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。同助教、(独)中小機構リサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て2016年4月より東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。専門は社会学。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『17歳からの民主主義とメディアの授業』など著書多数。その他、総務省有識者会議への参加やコメンテーターとしての活動などでメディアの実務にも広く携わる。

(後)

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