2024年04月29日( 月 )

「資本主義の断末魔」 国民の利益を追求する政権の樹立を(前)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

 日本に経済大国の表現はもはや似つかわしくない。「経済停滞大国」と言い換えるべきだろう。2012年に第2次安倍内閣が発足したとき、「成長戦略」が掲げられた。22年5月に英国を訪問した岸田首相は、講演で「日本経済はこれからも力強く成長を続ける」と述べた。しかし、日本経済が力強く成長した事実は過去30年に存在しない。為政者のこうした虚偽発言が日本に対する信用を低下させ続けてきたといえる。失われた30年によって国民経済は疲弊し続けた。そこに追い打ちをかけた23年のインフレ。実質賃金減少は加速した。ところが、物価安定を使命とする日本銀行がインフレ亢進下でのインフレ推進施策を継続。日本円は暴落し、日本は外国資本による乗っ取り危機に直面している。この危機を打開する方策を検討しなければならない。

日本経済凋落

 ドル換算した日米中の名目GDP推移を見てみよう。1995年の日本のGDPは5兆5,000億ドル。米国のGDP7兆6,000億ドルの72%に相当した。日本経済の規模は米国に肉薄する堂々たる世界第2位の地位にあった。バブル崩壊にもかかわらず、日本は経済大国の地位を保持していた。

 ところが、95年から27年間、日本経済の成長は完全に止まったままだ。2022年の日本のGDPは4兆2,000億ドル。米国のGDP25兆5,000億ドルの5分の1にも達しない水準に縮小した。

 22年のドイツGDPが4兆1,000億ドルで23年に日本はドイツに抜かれ世界第4位に後退。26年にはインドにも抜かれ世界第5位に後退すると予測されている。日本のGDPは10年に中国に抜かれ世界第3位になった。その中国の22年GDPは17兆9,000億ドル。日本の4倍以上の規模にまで拡大した。

 1995年のGDP水準を100として、その後の27年間の変化を算出すると、中国のGDPはこの27年間に24倍の規模に拡大(ドル換算値)。米国GDPは3.3倍に拡大した。これに対し、日本の2022年GDPは1995年の76%。日本のGDPは27年経過して4分の3に縮小した。

 OECD(経済協力開発機構)が公表する購買力平価換算の平均賃金水準で見てみよう。購買力平価は現実の為替レート換算値よりも日本の賃金は現時点では高く表示される。日米独英仏に韓国を加えた6カ国で、日本の賃金水準は1991年に第3位だった。日本の賃金水準は十分に高かった。ところが、2022年には6カ国中の最下位に沈んでいる。隣国韓国よりも低い水準だ。

 為替レートの暴落も深刻だ。日本円の実質実効為替レートは1970年水準を下回った。実質実効為替レートとはインフレ率格差を調整し、貿易量で各通貨とのレートを加重平均したもの。通貨の価値変動を最も正確に示す指数だ。この実質実効レートが70年水準を下回った。

 当時は1ドル=360円の時代。海外に出れば日本円の弱さに打ちひしがれた。当時の日本円よりも現在の日本円が弱い。ドル換算して国際標準で測った国民保有資産の金額も激減している。日本円暴落は日本経済凋落を象徴するものだ。

経済凋落の三要因

政治経済学者 植草一秀 氏
政治経済学者 植草 一秀 氏

    日本の実質GDP成長率は1960年代には年率10%を上回る高い伸びを記録。奇跡の経済復興と呼ばれる高度経済成長を実現した。70年代に2度の石油危機に遭遇し、エネルギーを海外に依存する日本の脆弱性が顕わになった。70年代の成長率は5%に低下した。

 しかしながら、80年代後半に急激な円高を背景にした激しい金利低下が生じ、これを背景に資産価格が激烈に上昇。連動して消費と投資が激増して日本経済は未曾有の好況に沸いた。バブル経済の発生である。日本経済の成長率は80年代を通じて5%水準を確保したのである。

 ところが、90年の幕開けとともに日本経済の凋落が始動した。政府がバブル崩壊への対応を誤り、泥沼の30年を生み出してしまった。失われた10年が失われた20年となり、ついに失われた30年が過ぎ去った。

 失われた30年を生み出した要因を3つ指摘できる。第1はマクロ経済政策運営能力の欠落。政策当局はバブル生成時にアクセルを全開にふかし、バブル崩壊が始動してからブレーキを全力で踏み込んだ。本来は逆だ。バブル生成期にブレーキを踏み、バブル崩壊始動後にアクセルに踏み換える。根本的な経済政策運営能力の欠落が日本経済の長期低迷の主因である。

 第2は90年代に表面化した不良債権問題処理を根本的に誤ったこと。詳論は避けるが金融問題への対応が拙劣を極めた。究極の失敗象徴はりそな銀処理である。「退出すべきは退出」としながら、最終的にりそな銀を公的資金で救済。インサイダー取引を含む巨大不正が演じられた疑いが濃厚である。

 第3は分配政策の誤り。市場原理を基軸にする弱肉強食推進政策が遂行され日本は世界有数の格差社会に変質させられた。分配格差拡大は消費需要の構造的停滞をもたらす。結果としてGDP縮小の悲劇が日本を覆うことになった。

(つづく)


<プロフィール>
植草 一秀
(うえくさ・かずひで)
植草一秀「資本主義の断末魔」1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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