2024年04月28日( 日 )

【TSMC効果】再興なるかシリコンアイランド九州(4)

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県外企業の熊本進出

 県外企業もTSMC周辺エリアでの開発には食指を伸ばしてきている。たとえば鹿児島の住宅メーカーの(株)七呂建設(鹿児島市)は、23年10月に合志市でショールーム「四季ZEN+」を開設した。同社ではTSMC進出にともない、台湾からの移住者に対応した住宅設計のニーズが増えると想定。それに対応し、台湾の方が家を建てる際に注視する「台湾風水」に基づいて住宅を建築できるシステムを導入することで、台湾の方向けの住宅供給をスタートした。

 (株)KAKEI(東京都文京区)は、地元ハウスメーカーである(株)アネシス(熊本市東区)と提携し、移住者向けの住宅販売のサポートを開始した。KAKEIでは、不動産の購入と住宅の管理、台湾と日本の居住習慣の違い、台湾人が気にする風水や暮らしに関する情報をアネシスに提案し、台湾人向けの住宅販売フォローや日本の生活様式に関するサポートを通じて、日本と台湾のつながりを促進していくとしている。

 らくだ不動産(株)(東京都渋谷区)も、新たに熊本エリアでの不動産仲介サービスの提供を開始した。TSMCを中心として半導体企業の集積が進む熊本県の不動産市場は、物件と所有者が多様化し、今後も継続的に成長することが見込まれることから、「地域にどのような不動産会社があるかで、その地域の不動産価値の未来が変わる」をモットーに、熊本県内でエージェント型の不動産取引を推進していくという。

 福岡のハウスメーカー・イデアハウス(株)(福岡市早良区)も、24年1月に同社初の県外拠点となる熊本店を熊本市中央区に開設した。建売住宅でありながら提案性の高いオンリーワンの家づくりを行う同社では、同店を拠点として熊本エリアでの新築分譲住宅「イデア」シリーズの展開を進め、福岡県外における事業展開の試金石としていきたい考えだ。

 熊本エリアは、シリコンアイランド九州の拠点として半導体企業の集積が進み、都市としての成長が期待できる非常にポテンシャルの高い商圏だと考えています。労働人口の増加や所得の向上が見込まれ、住宅需要も増加していくと思います。当社としては4カ所目の拠点で、初の県外進出となりますが、当地で成功することが全国展開の足がかりになることを望んでいます。

イデアハウス(株) 代表取締役 伊藤 治 氏

熊本市内の再開発

 TSMC進出と直接的な関連があるわけではないが、熊本市の中心部では、街中の活性化のための施策として「まちなか再生プロジェクト」と銘打った再開発事業も進行している。

 福岡市の「天神ビッグバン」を熊本版にアレンジしたような施策で、老朽化したビルを建て替える際に容積率割増や高さ基準の特例承認、財政支援などのインセンティブを付与することで、公開空地の確保などによる防災機能の強化や、上質で魅力的な都市空間の創造などを図っていこうというもの。20年4月から30年3月末までの10年間で100件の建替え目標を掲げており、「Shinsekai下通GATE」や「TERRACE87」「(仮称)NTT西日本桜町ビル建替計画」「日本生命熊本ビル」「JR熊本春日北ビル」「(仮称)甲玉堂」などの複数の建替えプロジェクトが進行している。

熊本市役所
熊本市役所

    そうしたなか、熊本市役所本庁舎の建替えも検討されており、熊本市は2月13日、建替え候補地について現庁舎敷地一帯や、城東町、桜町、白川公園の計4カ所のなかから絞り込む方針を提示。概算事業費は470億円と想定しており、物価高騰の影響や新庁舎の延床面積を20年3月に出した基本構想より広げたため、従来想定より115億円増になると試算している。新庁舎には、大規模災害時の執務スペースを新たに確保するほか、市民が活用できる多目的スペース、カフェやコンビニを設置する方針で、防災対応やまちづくりの機能を備えるため、延床面積は基本構想段階より約8,000m2広い6万m2となる見込み。前述の概算事業費は現庁舎の解体費や新庁舎の設計・建設費のみを計上しており、建設地決定後に確定する用地取得費や仮設庁舎の経費、駐車場整備などは含まれていない。

広域インフラ整備も

 中心市街地の再開発が進む一方、熊本市にとって喫緊の課題が慢性的な交通渋滞の解消だ。熊本市は、全国の三大都市圏を除く政令指定都市のなかで主要渋滞箇所数がワースト1という不名誉な状況となっている。市民が生活するうえでの快適さを損なうだけでなく、経済活動の足かせにもなっており、菊陽町へのTSMC進出を受けて、今後は物流においても人流においても、安定的な道路ネットワークの構築が急務だ。

 そういった状況を改善するため、熊本都市圏においては「熊本都市圏都市交通マスタープラン」に基づき、2環状11放射道路の道路ネットワーク整備を進行。また、熊本市と熊本県とで「熊本県新広域道路交通計画」を策定し、市の中心部から高速道路ICまで約10分、熊本空港まで約20分で結ぶ「10分・20分構想」を掲げ、現在3つの新たな高規格道路の検討を進めている。加えて、中九州横断道路や九州中央自動車道などの県外とつながる広域道路ネットワーク整備も進めていくとしており、熊本市内外の道路ネットワーク整備の進行とともに、熊本都市圏のポテンシャルが今以上に高まっていくことが期待される。

 広域アクセスの観点からは、熊本市と大分市を結ぶ全長約120kmの地域高規格道路「中九州横断道路」の進捗も気になるところだ。このうち、すでに事業化されているのは一部区間に過ぎないが、20年度に(仮称)熊本北JCTから(仮称)合志ICまでの9.1kmが、22年度に(仮称)合志ICから(仮称)大津西ICまでの4.7kmが事業化されており、23年9月に大津熊本道路(合志~熊本)として着工。今後整備が進んでいくことになる。とくに合志ICや大津西ICなどはTSMC工場からの最寄りICとなる予定で、開通の暁には、TMSC工場の搬入・製品出荷などの際の利便性のさらなる向上が見込まれる。

 さらに熊本県では、23年10月に「新大空港構想」を策定した。これは16年度に策定した「大空港構想 Next Stage」をさらに発展させたもので、TSMC進出といった新たな環境変化をチャンスと捉え、50年・100年先を見据えた空港周辺地域のさらなる活性化に向けてさまざまな施策を推進していくもの。「地方創生の先進地域」の実現に向けて、「空港機能の強化」「産業集積・産業力強化」「交通ネットワークの構築」「快適な生活ができるまちづくり」の4つの柱で取り組みを推進し、空港周辺地域の活性化を、県全体、ひいては、九州全体の発展につなげていくとしている。

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 TSMC進出による影響は、菊陽町の周辺エリアだけでなく、熊本都市圏、熊本県内、さらには九州広域に至るまで広範囲に広がってきている様子がうかがえる。九州では人口増を続ける福岡都市圏の1人勝ちが叫ばれて久しいが、TSMCを擁する熊本都市圏の勢いは、それを凌駕しそうなほどである。地理的にも九州の中心部に位置する熊本は、かつて明治期の鉄道唱歌で「九州一大都會」と歌われ、当時は名実ともに九州の中心都市であった。それから時が流れて現在、TSMCという世界的な企業の進出を強力な後押しとして、熊本が再び九州の中心都市の座を奪い返すのも、決して夢物語ではないだろう。産官学の連携による“TSMC協奏曲”により、シリコンアイランド九州の中心としての熊本の飛躍が始まろうとしている。

(了)

【坂田 憲治】

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