2024年05月06日( 月 )

【TSMC効果】再興なるかシリコンアイランド九州(3)

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行政・大学も

 地元の国立大学・熊本大学では、半導体に関する人材を育成する新たな学部や学科にあたる組織をスタートさせる。新たにスタートするのは、データサイエンスや半導体を学ぶ「情報融合学環」という学部にあたる組織と、工学部の「半導体デバイス工学課程」という学科にあたる組織の2つ。情報融合学環では「DS(データサイエンス)総合コース」と「DS半導体コース」を設け、文理融合や実践的教育、学内連携、地域連携、大学間連携により、DX、数理・データサイエンス人材を育成。半導体デバイス工学課程では、半導体の専門領域の学習を軸にしつつ、半導体デバイスのプロセス、システム設計、評価技術などの高度な専門的能力を習得できるのが特徴で、企業と連携して行う課題解決型(PBL)の講義や半導体関連企業での企業実習をカリキュラムに取り入れ、産業界からの声を直接聞くことができる機会を設けている。すでに文部科学省からの認可は受けており、情報融合学環と半導体デバイス工学課程はそれぞれ24年4月からのスタートを予定。熊本大学が学部にあたる組織を新たに設置するのは75年ぶりとされている。

 さらに熊本県でも23年3月、TSMCの熊本進出を契機とし、今後、県内における半導体産業のさらなる集積や新産業の創出等の波及効果を生み、県下全域における県経済の成長に結びつけていくため、「くまもと半導体産業推進ビジョン」を策定した。同ビジョンでは、目指す姿として「半導体インフラを支え、挑戦し続ける熊本」を掲げ、具体的な取り組みの方向性として、「半導体サプライチェーンの強靭化」「安定した半導体人材の確保・育成」「半導体イノベーション・エコシステムの構築」という3つの方針を軸に構成し、それぞれの方針に重点取り組みを設定。今後、目指す姿の実現に向けて同ビジョンに基づき、県、企業、大学などが一丸となった取り組みを進めていくとしている。

菊陽町では地価高騰

菊陽町役場
菊陽町役場

    TSMCの第一工場が完成し、第二工場の建設も予定されている菊陽町は、熊本市のベッドタウンとして、光の森エリアを中心に住宅地として高い人気を誇っていた。近年はTSMCの従業員用などでさらに居住地としての人気が高まっており、24年1月末現在の人口は4万3,885人。10年前(14年1月末:3万9,310人)と比較して約4,500人増加するなど、早いペースで人口が増加しており、このままいけば市制単独昇格の要件である人口5万人もそう遠くない将来に達成しそうである。

 だが、菊陽町では幹線道路から少し入ると途端に一面の農地が広がるなど、町内の大部分が市街化調整区域であり、農業振興地域が大部分を占める。市街化区域は町西部の国道57号沿いなどの限られた部分で、町全体の約15%に過ぎない。その限られた土地の争奪戦はすでに繰り広げられており、新たな住民を受け入れる住宅の捻出がなかなか難しい状況にある。そうした状況下で地価の高騰も著しく、熊本県が23年11月下旬に公表した「令和6年度基準地価格」によると、菊陽町(光の森三丁目)は平米あたりの基準宅地価格が前回(21年度)の8万6,100円から10万9,000円と26.6%も上昇し、県内で最大の上昇率となった。周辺部も大津町(大字室字新田)22.8%、合志市(幾久富字中沖野)17.6%と急上昇している。

 「町内の住宅はほぼ飽和状態で、ここ最近は人口増のペースが少し落ち着いてきています。地価上昇にともなう家賃や住宅価格などの高騰も、町内への転入希望者を阻んだり、逆に町外への転出者の増加を促す要因となっています」(菊陽町半導体産業支援室)。

町内で進む住宅開発

 こうした状況を打破すべく、菊陽町では開発可能な土地を新たに捻出し、受け皿を拡充していく取り組みに注力している。たとえばJR原水駅から南に約200mの距離にある元農地では現在、新たな住宅地開発のための造成工事が進行中。約150戸規模の分譲住宅地となる計画だといい、駅至近の立地もあり、相応に人気の住宅地となっていくと思われる。

 さらにJR原水駅の北西側、JR線路より北側の約70haという広大なエリアでは現在、「(仮称)原水駅周辺土地区画整理事業」として大規模な土地区画整理が行われようとしている。同区画整理事業は、菊陽町における人口増加の新たな受け皿や、職住近接に対応した市街地の整備、交流・にぎわい拠点および交通結節拠点としての都市機能を備えたまちづくりを目指して行われるもの。その一環として、現在の菊陽杉並木公園に全国大会や世界大会を誘致可能な水準の「アーバンスポーツ施設(面積:約2万m2)」や、「町民グラウンド(面積:約2万6,000m2)」などを新たに整備する計画も進めており、将来的には同公園を「菊陽町総合運動公園」として管理・運営する方針で、誰もが住みやすい豊かなまちづくりの実現につなげたい考えだ。

 区画整理事業が進むエリアにおいては、JRの新駅設置の計画も進んでいる。新駅は、JR豊肥本線・三里木~原水間に設置され、ちょうど前出の菊陽杉並木公園や菊陽町図書館などに近い場所での設置が予定されている。ホームや鉄道路線等の鉄道施設のほか、交通広場や交流施設等の周辺施設も整備する方針で、23年12月に菊陽町とJR九州とで新駅設置に関する覚書を締結。新駅の開業目標時期は27年春を予定している。住宅開発においては、福岡のマンションデベロッパー・作州商事(株)(福岡市博多区)も用地開発を済ませているほか、JR新駅の近くでは、(株)グッドライフカンパニー(福岡市博多区)が賃貸マンションの建設に着手したところだ。

開発は大津・合志でも

 菊陽町の東側に隣接する大津町でも、TSMC効果を取り込もうと、新たな開発が進んでいる。たとえば、JR肥後大津駅まで約500mの距離にある国道57号・大津バイパス沿いでは、地場不動産会社の(株)アズマシティ開発(熊本市東区)が6棟・計300戸の賃貸マンションの開発を進めている。駅だけでなく、イオン大津ショッピングプラザなどの生活利便施設や、大津町役場などにも近く、完成を待たずに満室になっている物件もあるなど、相応の人気を博しているようだ。なお、JR肥後大津駅は、将来的に整備される熊本空港アクセス鉄道への分岐駅にもなる予定で、肥後大津駅から熊本空港の間には中間駅設置も検討されている。町内に中間駅が設置されるとなれば、大津町での開発にもさらに弾みが付きそうだ。

 合志市でも新たな住宅地開発が進む。先行して積水ハウス(株)(大阪市北区)による総区画数269区画の住宅地「合志みなみプレイス」の開発が進行。また、合志市北部の合生(あいおい)地区では、民間による住宅地と商業施設の大規模開発「かすみヶ丘地区」の開発が進んでいる。住宅地は約200区画を造成し、半導体関連企業進出を含めた住まいのニーズに対応するほか、隣接地には市北部になかった食品スーパーを中心とした商業施設を整備。商業施設は(株)イズミ(広島市東区)による熊本県内でのゆめモール1号店となる「ゆめモール合志辻久保(仮称)」が開発される予定となっており、イズミグループの(株)ゆめマート熊本(熊本市東区)が運営する食品スーパー「ゆめマート合志辻久保(仮称)」を核テナントとし、敷地内に駐車場を取り囲むかたちで複数の専門店が並ぶオープンモールとなる。かすみヶ丘地区から東に約500mの場所では、地場の不動産会社である(株)MR不動産(熊本市中央区)による全19区画の住宅地「MR hill'sかすみケ丘東」の開発も進行しており、合志市内でまとまった規模の住宅地が新たに誕生することになる。

全19区画の「MR-hill'sかすみケ丘東」

(つづく)

【坂田 憲治】

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