2024年05月04日( 土 )

【TSMC効果】再興なるかシリコンアイランド九州(2)

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工業団地の整備

 新工場や事業所、設備増強などの動きに加え、その受け皿となる工業団地などの整備も進む。

 大和ハウス工業(株)(大阪市北区)は23年12月、益城町において工業団地「DPI(ディープロジェクトインダストリー)シリコンヒルズ熊本」の開発工事に着手した。また、着工に先立ち同年8月、大和ハウス工業と益城町は産業の振興と雇用機会の拡大に寄与するため、同工業団地における協力協定を締結している。同工業団地は、半導体関連施設の集積地「セミコンテクノパーク」から約10kmと近接することから半導体製造工場など関連施設の立地場所として最適で、機械や食品の製造工場の建設に適した大型の区画を用意しているだけではなく、工場に関連する研究施設や倉庫など、企業の事業展開に沿ったエリア拠点の新設が可能。敷地面積は約7.9万m2(販売予定面積:約7.4万m2)で、約8,200m2~1万7,000m2の6区画に分割する予定となっている。九州自動車道・益城熊本空港ICから約8km、熊本空港から2.5km、熊本駅から18kmに位置し、自動車輸送から空輸、貨物輸送まで対応可能な交通アクセスに優れた立地特性を有している。同工業団地の造成工事は23年12月に着工し、24年5月に完了予定。24年夏以降に建物着工を開始し、27年冬に全施設竣工予定となっている。

 また熊本市は23年9月、半導体関連産業の集積に向けて、(株)林倉庫(福岡県久留米市)、(株)ジョイント(熊本県菊陽町)、福岡地所(株)(福岡市博多区)のそれぞれと産業用地整備事業に係る協定を締結した。熊本市と民間企業が産業用地整備に関して協定を結ぶのは、初めてだとされている。整備される産業用地は、林倉庫を代表事業者とし、(株)オフィスバークレー、(株)サンズ、鉄建建設(株)、(株)白馬物流、(有)林商店、和久田建設(株)で構成されるグループが一般県道熊本空港線沿線エリア約24haを、ジョイントを代表事業者とし、(株)アスク工業と戸田建設(株)で構成されるグループが国道443号沿線エリア約8haを、福岡地所を代表事業者とし、NPO法人健康生活応援くまもとプロジェクト、(株)サンケイビル、(株)都市開発、前田建設工業(株)で構成されるグループが北熊本スマートIC周辺エリア約16haをそれぞれ整備する。

 整備される産業用地の合計は約48haで、整備された用地には半導体関連企業や倉庫など入る予定。協定を結んだ3社がそれぞれ企業誘致も行う予定で、協定には産業用地の整備や企業の誘致がスムーズに進むよう、熊本市が3社に対して支援を行うことなどが盛り込まれている。今後は24年度に農用地区域除外や農地転用、地区計画策定、開発許可申請、用地取得、造成工事開始が行われる予定で、25年度に造成工事の完了と建築確認、建築工事開始を予定。26年度に建築工事の完了と操業開始を予定している。

 熊本県内の周辺エリアでは、ほかにも工業団地の整備計画が進行している。代表的なものを挙げると、熊本県が整備主体となって菊池市で約25ha、合志市で約25haの工業団地をそれぞれ整備するほか、各自治体が整備主体となる開発では、益城町約9ha、合志市約11ha、西原町約10ha、大津町約10ha、八代市約20haなどがある。どの自治体もTSMC進出にともなう好影響を取り込もうと、半導体関連企業進出のための受け皿の拡充に余念がないようだ。

歓迎ムードの経済界

熊本商工会議所
熊本商工会議所

 TSMCの進出に対しては、地場の経済界も諸手を挙げて歓迎ムードだ。熊本商工会議所では22年2月、所内に「熊本商工会議所半導体産業集積に関する情報連絡本部」を新たに設置した。TSMC進出による経済効果が、半導体関連企業だけでなく、熊本をはじめ九州全域への波及が期待されているなかで、所内の常設・特別専門委員会を横断する体制を新たに整備。半導体産業の最新動向の共有と課題対応について検討・整理していくことで、この千載一遇のチャンスを追い風として熊本を支える企業をたしかな成長軌道に乗せていくことが狙い。TSMC進出決定を機に県が全庁横断的に設置した半導体産業集積強化推進本部(本部長:蒲島郁夫・熊本県知事)のカウンターパートとして、熊本商工会議所の対応を一体的に検討・推進する組織と位置付けており、本部長を久我彰登・会頭が務め、常設・特別専門委員会などへ本部会議の内容をフィードバックしていくとしている。

 熊本県下の49商工会で構成される熊本県商工会連合会でも23年3月、台北市進出口商業同業公会(IEAT)とのMOU締結(台湾と熊本の相互発展に向けた連携)を実施した。TSMCの熊本進出にともない、台湾との交流人口の増加や経済交流の活性化が期待されることから、相互協力の下でさまざまな経済交流を行っていくこととしている。その一環で、熊本県内の中小企業・小規模事業者が熊本県の酒や食品加工品等を台湾に輸出する際の支援を実施しており、台湾のバイヤーを含む4名の審査員が、「台湾での需要が見込めるか」「台湾への輸出可能性が高い商品か」などの視点での審査を行い、その結果を踏まえて、輸出支援する17商品を選定。成分検査や輸出書類の作成代行などの輸出支援や、IEAT主催の台湾での商談会などを実施していくとしている。

九州沖縄の地銀が一丸

肥後銀行本店営業部
肥後銀行本店営業部

 地元銀行である(株)肥後銀行では23年4月、法人コンサルティング部「地域産業支援室」の電子デバイス関連産業対策チームを独立組織へと昇格させるかたちで、「半導体クラスター推進室」を新設。機能をさらに強化し、熊本県内進出企業対策を含む電子デバイス関連産業や周辺開発等への課題解決支援の取り組みを加速していくとしている。また、「国際ビジネス支援部」も新設し、台湾との交流活発化、中国・ASEANなどへの熊本県内企業の進出、熊本県産品の輸出拡大などの海外ビジネスの支援体制を強化していくという。さらに同行では23年6月に、台北駐在員事務所を開設。日本と台湾の相互の顧客の多様化するグローバルビジネスニーズに対して、現地でのリアルタイムな情報やネットワークの提供により、顧客の輸出入や進出ニーズなどの課題解決を直接支援することが狙いとしており、現地スタッフ1名を含めた3名体制としている。 

 さらに今年1月には、(株)福岡銀行、(株)西日本シティ銀行など九州・沖縄の地方銀行11行が、半導体産業の集積などによりさらなる成長を目指すため、「新生シリコンアイランド九州」の実現に向けた連携協定を結んだ。参加行は(株)大分銀行、(株)沖縄銀行、(株)鹿児島銀行、(株)佐賀銀行、(株)十八親和銀行、(株)筑邦銀行、西日本シティ銀行、肥後銀行、福岡銀行、(株)宮崎銀行、(株)琉球銀行と九州・沖縄全県の地銀。連携内容については、①「サプライチェーン強靭化に向けた取り組みに関すること」、②「サステナビリティ推進に関すること」、③「九州・沖縄の活性化に関すること」、④「九州・沖縄での業界調査および分析に関すること」を挙げており、サプライチェーンに関しては、地場の半導体関連企業への支援や、関連企業の誘致・紹介などを行う。ふくおかFGや九州FGの傘下行が台湾の銀行と連携をしていることから、進出企業についての情報などの共有も検討するという。11行もの銀行が連携協定を結ぶのは異例ともいえ、TSMCの熊本進出により半導体関連産業の集積が進むなか、関連企業の参入を九州・沖縄の地銀が一丸となって支援することで後押しすることが期待される。

(つづく)

【坂田 憲治】

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