2024年06月13日( 木 )

目に見える断熱仕様の提案(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 バケツには穴がたくさん空いていて、下から水が漏れ出している。バケツを水でいっぱいにするためには、「A:もっと水を注ぐ」「B:穴をふさぐ」のどちらを選ぶのが最適だろうか?──子どもにもわかる問題で、正解はもちろん「B:穴をふさぐ」なのだが、残念ながら日本社会は、この問いに対して長らく「A:もっと水を注ぐ」という解答を選び続けてきた。

資産価値を高められるか

 「住宅の資産価値を高める政策」も求められている。住宅は現在の法律では、木造なら20年後に価値がゼロになる。アメリカでは、国民が住宅のために支払った費用が長期にわたって有効活用される。中古住宅も適切に評価されて価値がつくため、資産価値が減りにくくなっているのだ。ところが、日本では年を追うごとに、国民はせっかく投資した住宅の資産価値を失っている。住宅の性能を適正に評価することで、中古住宅の資産価値を減らさずに長期的に活用し続けられる仕組みをつくる必要がある。その際に重要な柱となるのが「住宅の断熱気密性能の向上」で、長く健康的に住むための機能性が、空間にも求められているのだ。

 さらに、個別の住宅の断熱性能を高めるだけでは不十分で、まちづくり(都市計画)全体を見直すことも不可欠だ。日本ではどんな建物をどこに建てるかについて、自治体が総合的に調整する法律や権限がない。土地所有者が自由に開発できる権限をもっていることで、さまざまな問題が発生し、結果的に住宅の資産価値を下げる要因になっている(たとえばエリアによるマンション供給過多、水害可能性エリアの強行開発など)。

住宅の資産価値を高められるか pixabay
住宅の資産価値を高められるか pixabay

    行政が住宅の量と質を適切に管理できていないことで、国民が持つ住宅の資産価値は減り続けている。それをコントロールするためには、自治体が土地利用に関する権限をもち、全貌をマネジメントしなければならない。

 1軒ずつ状態の異なる住宅の改修には、新築よりも高い技術が必要だが、熟練した大工はどんどん減っている。「リノベの時代」といわれるが、あと10年もして大工がいなくなれば、空き家のポテンシャルを生かすこともできなくなってしまう。人材の育成・確保も同時に進めていく必要がある。

ポイントは全館空調

 新設された「断熱性能等級」、断熱専門家の見解では“断熱等級6”以上が適切とされているようだ。理由は健康を守りつつ、光熱費が上がらない最低限のライン。寒さから健康を守るためには、一部屋だけ暖める間欠暖房ではなく、家全体を暖める全館暖房が必要。そして全館暖房をしても消費エネルギー(および光熱費)が増大しないレベルが、「断熱等級6」ということ。等級4から等級6にレベルアップするために必要なのは、窓のサッシをアルミから樹脂に替え、天井などに断熱材を追加するだけで可能。そう、至ってアナログで、かつやった分だけ率直に結果が出るシンプルな構造だ。

 また、ドイツでは窓の外で日射を遮ることが常識で、戸建やマンションだけでなく公共施設や商業ビルといった大きな建物でも、外付けスクリーンや外付けブラインドといった設備が当たり前の風景になっている。「断熱+気密」性能を高め遮熱をしていけば、少ないエアコンで家中を快適な温度に保つことができる。冬だけでなく、夏の暑さに対する断熱構造も同時に叶えていきたい。

外付けブラインド OSMO&EDEL HPより
外付けブラインド OSMO&EDEL HPより

    ちなみにマンションの断熱性能は、戸建に比べると優れている。外と接する壁が少なく、上下左右を住人のいる部屋に囲まれていれば、周囲環境が断熱材の役割をはたすからだ。“断熱や気密”には、「丁寧に…」「精度を高めて…」という技術レベルは必須だが、スマートハウスのようなハイテク技術や通信などを要するものでなく、“物理的な隙間を密度を以って塞いでいく”という解答に尽きる。この考えを応用して、マンションの断熱仕様の間取りの可能性を考えてみたい。

【提案】断熱動線の家。~目に見える断熱仕様を~

 「断熱性能」は基本的に目に見えない。裏側でその機能を発していて、下支えする存在としては大きいが、なにぶん地味である。その効果が目に見えるかたちで瞬間的に現れるものではないから、初期投資も後回しになる傾向にある。

 ある2人暮らしの間取り。寝室や浴室を内側へ、外側に二次的な居室を配置して空間を挟み込む二重構造に。外部との緩衝空間をもたせて、目に見えるかたちで断熱的な動線を組んでみた。

①部屋と「ENTRANCE」は扉で仕切る。玄関戸から入ってくる冷気は、ここでシャットアウト。ただし、閉塞感を和らげるために、ガラス戸で抜け感を。
②「リビング・ダイニング・キッチン」は広々ワンルーム。ここは開放感を取るために窓に面した南側をキープ。
③夏場の暑い日差しを簡易的なオーニング、「よしず」や「簾」で遮熱。熱は一次的に“外側”で断つ。
④個室とリビングは引き戸で仕切る。緩くつながる開放感を。
⑤寝室は外壁面から離す。「インナーバルコニー」と「WIC」に囲まれる二重構造へ。
⑥窓の多い外壁面。断熱的緩衝スペースの「インナーバルコニー」は、家のなかの隠れ家的趣味空間として。
⑦植物の温室スペースにもなるここの床は、水にも強いタイル張。耐水性・耐久性も高めて、一段下げた土間として使うも良し。
⑧もちろんデスクを置いて“スタディールーム”として使うのもGood!
⑨⑩インナーバルコニー専用の出入口で、細長い空間に独立性をもたせる。
⑪「寝室」の緩衝部屋となる「WIC」は、同時に大容量の収納部屋に。「浴室」への通路で家事動線も確保。
⑫「洗面室」も「浴室」を外壁から遠ざけるための緩衝空間。洗面、洗濯、アイロンなど、家事作業ができる“ユーティリティスペース”としても重宝する。
⑬「浴室」は「寝室」同様、部屋に囲まれた“インナースペース”へ。少しでも内側へ入れて寒さから回避する。その代わり換気扇でしっかりと湿気対策を。
⑭二重サッシはできるだけすべての窓に入れたい。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

(中)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事