拡大する小規模オフィス市場 三菱地所は丸の内に3万坪計画

 事業の規模に柔軟に対応できる「フレキシブルオフィス」へのニーズが高まっている。三菱地所(株)は、2022年4月に事業参画して、30年までに東京・丸の内エリアで約3万坪を整備する計画だ。スタートアップ企業や外資系企業の日本法人、大企業の新規事業のオフィスとしてのニーズが見込めるという。また、福岡においては、東京に続き2番目となる米国発のイノベーション拠点「CIC Fukuoka」がオープン。新興企業や新規事業向けの小規模オフィスの展開は、全国的な動きとなっている。

外資や大手新規部門も 丸の内エリアに約3万坪

 「社会の変化・要請に応じてフレキシブルオフィスマーケットの育成・拡大にチャレンジする。ニーズをつくるのも(我々デベロッパーの)役割だ」(荒木治彦執行役常務)と、三菱地所(株)はグループでフレキシブルオフィス事業に取り組む背景を説明した。

 同社は、2023年には貸し会議室やコワーキングスペースなどを国内で展開する日本リージャス(株)を完全子会社化した。今年4月からは、三菱地所のフレキシブルオフィスブランド「xLINK」(クロスリンク)を拡張。新たに4施設を稼働するとともに、既存施設も増床する。丸の内エリアで7施設、約4,300坪に拡大し、25年度のフレキシブルオフィス事業による年間売上高は325億円を見込む。

 フレキシブルオフィスは、大企業の新規事業や外資系企業の利用が多いという。とくに、外資系企業の日本進出は数人単位でスタートし、短期間で総務部や人事部などの人員を増やして規模を大きくしていくケースが多いという。

 新築ビルのほか、既存ビルの改装や施設拡張により展開を拡大。数カ月という短期間の賃借も可能だ。机や椅子などの什器も備え付けているため、一般的な定期借家よりも2~3割高い坪単価を設定でき、床の収益性を高めることもできる。最大2,000坪規模のフレキシブルオフィスを26年竣工予定の「大手町ゲートビル」(東京都千代田区内神田1丁目)に整備する計画。さらに、日本一の高さのビルとなる28年竣工予定の「Torch Tower」においても、フレキシブルオフィスの開設を検討している。

丸ビル内に旗艦施設 出社したくなる職場に

ハーフセットアップオフィスの執務エリア。なお、入り口はコーポレートロゴ設置やコーポレートカラーへの変更が可能なデザインウォールを採用
ハーフセットアップオフィスの執務エリア。
なお、入り口はコーポレートロゴ設置や
コーポレートカラーへの変更が可能な
デザインウォールを採用

    同社のフラッグシップビルである丸ビルに、「xLINK丸ビル」がオープンした。丸ビル27階および28階の約1.5フロアに開設。4~33人までの什器付き個室サービスオフィス(22室)、ハーフセットアップオフィス(3区画、38坪・102坪・104坪)、会議室付き小割オフィス(7区画、35~66坪)の3種類のフレキシブルオフィスを整備した。サービスオフィスとハーフセットアップオフィスは、自社のコーポレートロゴを設置できる専用入り口やキッチン、コミュニティスペースなどを設けた。「出社したくなるオフィスへの相談も多くなっている」(荒木執行役常務)。

多様な用途を持つ共用ラウンジ。外資系企業などのニーズで、17時から開始し18時に終了するような社内懇親会にも対応する
多様な用途を持つ共用ラウンジ。
外資系企業などのニーズで、
17時から開始し18時に終了するような
社内懇親会にも対応する

    共用ラウンジには、カフェ、ソロワークブース、フォーカスブース、ミーティングブース、ボックスシート、イベントスペースを用意。また、リフレッシュルームや出張者向け作業スペースなど、アンケートやテナントヒアリングで寄せられた最新のニーズを盛り込んでいる。丸の内エリアにおいて、企業の成長に合わせたオフィスを提供する。

 同社では、まずは丸の内でフレキシブルオフィス事業の展開を進めていく。今後は、同社と日本リージャスとの協業なども検討している。札幌、大阪、福岡などほかのエリアにおいては、グループ企業である日本リージャスが展開。「独立性や自主性を尊重しており、リージャスはリージャスの戦略で展開」(三菱地所)するため、他のエリアでの展開など協業の具体的な内容は現時点では決まっていない。

福岡にCICの起業拠点 先行イベント1,000人超

 米国マサチューセッツ州でイノベーション拠点を展開するCICは、日本での拠点として東京・虎ノ門ヒルズに続く場所に福岡を選んだ。4月24日にオープンした大型複合ビル「ONE FUKUOKA BLDG.」の7階に「CIC Fukuoka」を開設。この地を選んだ理由として、運営会社のCIC Japanは、アジアのどこからでもアクセスしやすい地理的優位性や住みやすさを挙げ、九州のスタートアップシーンの国際化とエコシステムの活性化を目指すとしている。

 CIC Fukuoka には、1~12人用の小規模なプライベートオフィス143室とコワーキングスペース、16室の会議室、スポーツジムなどを用意。最も大きな特徴は、米国や欧州のCICの拠点と交流できることだ。海外スタートアップ企業や投資家などとつながることで、事業の成長速度を速めたり、資金調達の多様化などが期待できる。

毎週木曜日に開かれている「Venture Café」福岡でのイベントの様子
毎週木曜日に開かれている「Venture Café」
福岡でのイベントの様子

    具体的には、定期的に開催される「Venture Café」というコミュニティの存在が挙げられる。世界13都市で展開され、福岡においては24年11月から、毎週木曜日に「サーズデー・ギャザリング」というイベントを開催。参加者は今年3月までに累計1,000人超を数える。スタートアップや起業家、大企業の新規事業担当、投資家、大学の研究者、行政などが参加している。今後は、開催場所を「ONE FUKUOKA BLDG.」の6階に移す。「CIC Fukuoka」に入居するスタートアップ企業などとの交流も深めていく。

 日本において、新たな産業を育成する場として、フレキシブルオフィスを始めとするイノベーションの拠点整備は始まったばかりだ。全国の主要都市で、同様の動きは広がる可能性がある。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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