2024年05月10日( 金 )

現代の日本医療に必要とされるもの(4)

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カマチグループ 会長 蒲池 真澄 氏
九大病院第一内科 教授 赤司 浩一 氏


チャレンジングであることが認められにくい日本


 赤司 しかし「アイデアを実用化させるまでに時間が掛かってしまう」という日本の企業体質は製薬会社に限ったことではありません。アメリカは、何か新しいことを行おうとすると、巷から寄附が集まる、いわゆる「投資」に価値を置く風土があります。ベンチャー企業が新企画をどんどんと立ち上げ、これに民間人が積極的に寄附をするのがアメリカのやり方。民間人から寄附を募ることができる体制があるから大手会社でなくても新しい商品を開発するチャンスがあるのです。特に薬剤は当たると非常に大きな利益が出ますから、皆どんどんとチャレンジします。

 もちろん、すべての新薬が高いレベルにあるわけではありませんが、なかには非常に優れた薬が現れます。そうなると爆発的に売れます。投資家たちは、自分たちが投資して稼いだ資金でベンチャー企業を買い、一度新薬をヒットさせたベンチャー企業は大手の傘下で安定した成長を遂げていきます。こうして市場の動きがどんどんと活発になっていくのです。

 アメリカでは民間からのサポートを得られることも含めて、様々なことが日本とは違いすぎます。サイエンティストはアメリカでは「聖職に従事する人たち」として非常に尊敬されていますし、サイエンティスト自身も誇りをもっています。日本の科学者も誇りをもってやっていますが、それを見る社会の目が違うのです。アメリカはサイエンスを含めて新しいことをやるということに対して寛容です。ベンチャー系をリスペクトし、アイデアさえ良ければ担保はなくても銀行から融資が得られやすく、民間人も投資します。端的に言えば「チャレンジングかどうか」が非常に重視されるのがアメリカです。

 蒲池 そのあたりのギャップには私にも覚えがあります。若い時分、病院を開設したとき、様々なところから、反対されました。理由は教授会や医師会が反対しているから、というもので、皆の反対を押し切って、それでも病院を建てるというのは常識を無視しているなどと、散々言われたことがあります。私が「若い医師が新しい病院を建て、時代を刷新していくことも大切だ」と主張しましたが、通りませんでした。しかしその病院は現在、カマチグループとして社会に貢献しています。確かに日本では新しいこと、チャレンジングであることは認められません。しかしチャレンジし、活発でなくてはならなりません。
開発費がかさみ新薬の値段が高騰


 ―─ところでカマチグループではあまり薬を使わないと伺いましたが。

 

 蒲池 医学部に入った年に、医師である父から「薬は効かないといかん。医師になるなら効く薬を使え」と厳しく言われたこともあり、製薬会社の宣伝に乗せられて効果的でない薬を使うようなことはしていません。新薬は出ても1年は様子をみて確実に効くとわかったうえで、院内の倫理委員会に掛けてから使います。薬の情報は主に権威あるジャーナルから得ています。後は自分が使ってみていいと思ったものは使いますね。
 ですから正確にいえば薬を使わないのではなく、効果的で、効率が良い薬だけを使うという方針です。「患者さんが痛がっていれば、薬ですぐに止めてあげなさい」と指導しています。「痛いのを我慢しなさい」などということは当院ではあり得ません。

 赤司 抗がん剤は、本当に開発が進みましたね。がんのタイプに合わせてオーダーメイドできるほど、効果の高い薬がたくさん出てきました。

 蒲池 赤司先生はその道にお詳しい。この前、福岡和白病院でも院内研究会として、赤司教授の特別講演会を開き、その方面の最先端医療について当院のスタッフ向けに講義してもらいました。

 赤司 あのときお話したのは、免疫チェックポイント抑制剤についてでしたね。がん細胞は人体の免疫をマヒさせるようなチェック機構(チェックポイント)を担う分子を出しており、これを標的にする薬剤のことを「免疫チェックポイント抑制剤」と言います。がんができることで、人の免疫を弱らせていくような物質も発生する、これをブロックすることで、免疫によってがんを弱らせようというものです。この薬は手術では取れないような、不治と言われたがん、メラノーマ(悪性黒色腫)にも適応します。治りにくい腎がんや免疫療法での効果が見られなかった肺がんでも有効性が示されました。ただ問題は、劇的に効く新薬はその分、高額だということです。この新薬は一部の治療を除いて日本への導入が遅れており、現時点では個人輸入するためには1カ月一薬で200万円程度かかります。

 蒲池 いつかは保険適応内になりますか?

 赤司 日本でも治験が始まっていますから、数年以内には保険適応になるでしょう。日本も、そのような優れた薬を開発・輸出して、輸出産業を活性化させようとしています。国策として医療機器、医療医薬の開発に巨額の予算を投下しているのはそのためです。

 蒲池 しかしそれでも日本の製薬会社はベストテンに入ってないわけですね。


(つづく)
【聞き手・文:黒岩 理恵子】

 

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