コメ農家と消費者はおなかと手足

 NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は「令和版の〈新食糧管理制度〉を創設することが求められる」と論じた5月25日付の記事を紹介する。

 令和の米騒動。コメの小売価格が2倍に暴騰した。価格を下落させるには供給を増やすしかない。江藤拓農水相が更迭されて小泉進次郎氏が新農相に起用された。小泉氏は政府備蓄米を低価格で放出する方針を表明した。小売価格5キロ2,000円で販売すると表明した。しかし、販売と同時に瞬間蒸発することになるだろう。

 すべての国民が購入希望の全量を購入できる保証はない。政府の備蓄が枯渇すれば供給は途絶える。小泉新農相が石破内閣の救世主になるとは考えられない。念頭にあるのは参院選。参院選に向けて政府批判、自公批判を鎮火できればよい。そのような近視眼的発想で対応策が示されているに過ぎないと思われる。

 その場を取り繕うだけの〈弥縫策(びほうさく)〉である可能性が高い。警戒が必要であるのは、コメ輸入を一気に拡大する路線が想定されている疑い。

 この問題を考える視点が三つある。

 第一の視点は消費者視点。消費者は5キロ2,000円だったコメ価格がいきなり5キロ4,000円を突破して打撃を蒙っている。

 第二の視点は生産者。コメ農家は苦しめられている。生産に要する費用が増加の一途を辿る一方でコメの買い入れ価格は低下傾向をたどってきた。コメ農家の所得は時給換算で10円との数値も示されている。これでは農家の存続を展望できない。まさに〈頑張っているのに報われない〉現実が広がっている。

 第三の視点は食料安保。国民が生存するためには食料が必要不可欠。世界はいつ飢饉に見舞われるか分からない。日本の食料自給率はカロリーベースで38%。海外からの食料供給が断ち切られれば国民は餓死してしまう。国民の生命と生活を守るためには食料自給体制の確立が必要不可欠。日本国民の主食であるコメの安定的な国内自給体制を維持することが必要だ。

 メディアの論調を見ると第一の消費者の視点だけしか語られていない。第二の生産者の視点からの問題提起に対しては冷ややかに扱う傾向がある。

 イソップ寓話に「おなかと手足のけんか」というものがある。手足が、おなかは自分で動かぬのに食べ物をもらって食べるばかりでずるいと怒り、動くことをやめる。すると、栄養が手足に行き渡らなくなり、おなかだけでなく、手足もふらふらになる。手足はおなかと手足が相互依存関係にあることに気付く。

 消費者の視点で価格の下落ばかりを求めて、国内でコメを生産する生産者が消滅すればどうなるのか。コメの国内自給は消滅する。海外からのコメ供給が途絶えれば消費者も餓死してしまう。三つの視点のすべてを考えることが必要だ。

 結論として最優先するべき課題はコメの自給体制強化だ。これまで政府は減反政策を続けてきた。名目上は減反政策をやめたとしながら、実際には生産制限が実行されてきた。この結果として供給不足が顕在化した。

 コメの生産を拡大する政策方針を明示する必要がある。しかし、そのためにはコメ農家の所得を補償する必要がある。農家が永続してコメ生産を行う意欲を持てる所得環境を整備することが必要不可欠。

※続きは5月25日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「コメ農家と消費者はおなかと手足」で。


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植草一秀の『知られざる真実』

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<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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