一般流通材による木造非住宅建設を地域事業者の新たな選択肢に

黒田木材商事(株)
専務取締役 黒田覚 氏

黒田木材商事(株) 専務取締役 黒田覚 氏

 低層の店舗や事務所、倉庫といった木造非住宅の普及において、とくに重要と位置づけられているのが、住宅用の一般流通材(主にプレカット材)の活用だ。住宅用であるからこそ、製材所などから比較的安定的に調達ができ、工務店など地域の建設事業者が参入しやすく、地域経済への波及効果が大きいからだ。そうしたことから最近になって、この分野に特化した展開を行う事業者が現れつつある。そこで今回は、福岡県内におけるその代表的な事業者である黒田木材商事(株)の黒田覚専務取締役に、現状や今後について話を聞いた。

木材会社が鉄骨造の倉庫を使う違和感から

 ──御社が木造非住宅の普及に取り組むようになった経緯について教えてください。

 黒田 当社は製材事業を皮切りに、プレカット加工・販売や木材(国産材・外国産材・構造用集成材)、住宅設備機器、建材(輸入建材含む)の販売などを行い、福岡のほか長崎、佐賀、岡山、愛媛に拠点も有しています。木造非住宅については、「中大規模木造建築事業」として取り組んでいます。これは、当社も含めた木材を商材とする企業の倉庫が鉄骨造であることに、違和感をもっていたことがもともとの背景としてありました。当社で取り扱っている一般流通材で倉庫を含む事業用建物の建設に取り組むため、柱のない大空間を可能とする建物ができないかと検討を重ねていたところ、構造強度を担保した木造建築物を可能とする「ATAハイブリッド工法」(以下、ATA工法※)の存在を知ることになり、それをきっかけに事業化することとなりました。

 第1弾として2017年11月に「佐賀プレカット工場(富士大和製材、佐賀市)」を開設する際、その工場建屋を同工法で建設したのが、当社が木造非住宅を建設した始まりとなります。以降、これまで年間2~3棟のペースで木造非住宅をコンスタントに受注、建設してきました。

※富山県滑川市に本社がある(株)ATAが開発した、一般流通材、トラス(切妻、片流れ、水平の屋根に対応)、オリジナルの金物により、最大スパン38mの柱のない大空間を実現できる工法。一般流通材は乾燥した木材(KD材・集成材)を使用。これにより構造計算、CAD設計も実施し構造的な強度と安全性を確保する

「軽さ」もメリットの1つ

 ──ATA工法による建物には、どのような特徴があるのでしょうか。

 黒田 木造非住宅の建物には、大きくCLT(Cross Laminated Timber)や大断面集成材などの特殊材によるもの、一般流通材を用いたものの、2種類があります。前者は「縦方向に伸ばす建築」に向いている技術。後者は「横に広げる建築」に適した工法で、ATA工法はトラス構造であるため、平屋で内部に柱を立てずに大スパンを飛ばせるのが特徴です。対象は主に、平屋建の建築物、具体的には300m2~1,000m2未満の規模で、これまでに倉庫や店舗、幼稚園、特別老人養護施設、公共建築物などに採用された実績があります。1,000m2以上の建物になると、耐火や防火の兼ね合いで建築条件が厳しくなり、経済的なメリットが少なくなるため、鉄骨造、あるいは木造である場合は分棟とすることをお勧めしています。なお、大阪・関西万博において、ATA社はイタリア館などの建物をこの工法で建てたと聞いています。

 ATA工法で使用する木材は、基本的に一般流通材(長さ6m以内、梁成450mm以下)で、特殊材と比較して、安価な価格で調達ができます。また、これまで主流だった鉄骨造の建物や特殊材による建物と比べて、重量を軽減できるため基礎工事費用が低減される、短期施工が可能というメリットもあります。基礎施工については、九州は軟弱地盤が多い地域ですが、たとえば基礎下の柱状改良といった地盤改良が、木造の場合は鉄骨造に比べて少なくて済むケースが多いのです。鉄骨造だと重量負荷が大きいので、地域によっては地盤改良に数千万円単位の費用がかかるという話も耳にします。このほか、木造には減価償却期間が短いなどの特徴もあります。

コストメリットの一方で課題も

 ──鉄骨造やCLT造と比べて、コストメリットも期待できそうです。

 黒田 ATA工法による最新の建築事例として、当社では24年末に「鳥栖みやき支店」(佐賀県三養基郡)として、幅18m×奥行38m×最高の高さ7mの倉庫を竣工させました。この建物は、基礎工事から竣工まで合計3カ月という短工期で竣工させることができました。特殊材を用いた建物に比べても、低コストで建築できたと考えています。特殊材はその性質上、生産が工場での特注となるため、一般流通材に比べて高コストになってしまうからです。

 ただし、ATA工法も含めた一般流通材を用いた木造非住宅の建築にも、まだ課題があります。たとえば、構造計算に1カ月以上かかるケースがあること。鉄骨造ではすでに長年の蓄積からそうしたシステムが整っており、システムに慣れた人材も多く、構造計算などに時間がかかりません。しかし、木造非住宅では住宅の技術の延長とはいえ、それとは異なる設計要素が絡んできますから、鉄骨造と比べると事前準備に時間がかかるのです。そしてそれは、CLTでも同様で、つまり木造非住宅の分野は、インフラが未整備であるともいえるのです。

インフラ、バリューチェーンの整備に課題

 ──インフラ整備の観点からすると、ほかにも課題はありそうですね。

 黒田 当社の2つの木造建築物は外国産の木材による一般流通材により建設されたものですが、仮にそれを国産材、たとえば福岡県産材で実現しようとすると、大変なことになります。第1に大量の木材をどこから、どのように調達するのか。第2に大量の木材を製材する工場が福岡県内にあるのか。この2つの問題をクリアするには、相当の時間とコスト、労力が必要なのです。

 このようなインフラ、バリューチェーンの問題が解決されなければ、経済的な合理性が確保できず、普及しないことは自明の理です。現に、首都圏などを中心に木造・木質の高層ビルや大規模な施設が建設されるようになってきましたが、それらは補助金頼みの状況。補助金がなければ、建設されることはなかったでしょう。

 もう1つ考えておかなければならないのが、国際情勢です。最近、「木造建築物のコストが下がってきた」という話を耳にしますが、それは木材自体の価格が、ウッドショック以前の価格に、ほぼ限りなく近いレベルまで下がってきたことが影響しています。輸入材はウクライナ情勢などのヨーロッパの状況が関係しており、日本の木材業界に非常に大きな影響を受けています。木造建築物のコストメリット創出には、木材価格の低迷という側面があること、そしてそれは外国産材だけでなく、国産材・地域産材も同様であり、バリューチェーンの重要な担い手である川上の林業や川中の製材事業者の収益を圧迫していることも、理解しておかなければなりません。

10年前とは隔世の感

 ──今後、御社ではどのような展開を考えていますか。

 黒田 そもそも当社の中大規模木造建築事業は、当社がメインのプレイヤーになる取り組みではありません。ですので、おおっぴらに「(当社を含めた)木造非住宅は優れていますよ。鉄骨造に比べてコストメリットがありますよ」などとアピールはしてきませんでした。重要なのは、地域のハウスビルダーや建築事業者の方に、この事業を通じて新たなサービスを提供することです。さまざまな選択肢の1つとして、地域の方々に木造の良さや可能性を感じてもらうために、先ほど述べた木造建築物を建ててきたという背景があるのです。新設住宅着工戸数が減少傾向にあるなかで、そうしたお客さまが木造非住宅分野にチャレンジされる際の一助となればと考えています。

 ですから、現在も当社の中大規模木造事業では年間2~3棟というペースは変わっていません。ただ、事業開始当初に比べると引き合いの件数が増加傾向にあるなど、顧客や設計事務所などの関心は、以前より確実に高まってきたように感じています。民間による木造建築物普及が始まったのは約10年前のことです。当時に比べれば隔世の感があります。そういったなかで、木造非住宅という選択肢が増え、木造や木質化の物件が身近に増えていくことで、さらに木造化、あるいは木質化が進んでいく可能性があると考えています。この分野はまだまだ普及していく可能性、成長していく可能性があります。

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:黒田恵介
所在地:福岡県糟屋郡須恵町大字植木2047-73
設 立:1980年3月
資本金:1,000万円
TEL:092-936-5505
FAX:092-935-1925
URL:https://kuroda-mokuzai.co.jp/


<PROFILE>
黒田覚
(くろだ・さとる)
1975年、福岡県春日市生まれ。94年に筑陽学園高等学校卒業後、カナダ・バンクーバーにあるカナディアンインターナショナルカレッジへ留学。2000年に黒田木材商事(株)に入社し、常務取締役を経て22年から現職。趣味は休日に家族で家庭菜園や郊外ドライブ、愛犬との散歩などを楽しむこと

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