世界一の個人資産を誇る天才投資家の健康長寿の秘訣(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 いずれにせよ、その一挙手一投足が注目を集める「投資の神様」です。今年5月の「バークシャー・ハザウェイ」の株主総会では想定外の重大発表がありました。何かといえば、「2025年末をもって会長の座を降りる」との発言です。60年間にわたって生まれ育ったネブラスカ州オマハを拠点に投資ビジネスを展開し、「あの世に行くまで現役で働く」と豪語していたのですが、突然の現役引退宣言には世界中の投資家がビックリしました。

 何しろ、11歳のときに初めて株を買って以来、83年間にわたって株の売買の世界で生き抜いてきたバフェット氏です。本年3月、彼の投資会社は資産が1兆ドルを突破する偉業を成し遂げたばかり。まだまだ「登り龍」の気迫を感じさせているバフェット氏が引退の決断に至った背景は何だったのでしょうか?

 彼は来年以降の経営のかじ取りを副会長のグレッグ・アベル氏(62歳)に譲るとも発表。アベル氏はすでに25年以上に渡りバフェット会長を支えてきており、政権移譲に問題はなさそうです。

 実は、バフェット氏はトランプ大統領の関税措置には猛反対しています。根っからの民主党支持者で、株主総会にも顔を出すことの多かったオバマ大統領やヒラリー・クリントン元国務長官に感謝し応援していましたが、バイデン前大統領やハリス副大統領とは距離を置いてきました。要は、政治不信がかつてないほど高まっているようなのです。

 そうした背景もあってか、これまで所有していた「バンク・オブ・アメリカ」の株式70億ドルを手放しました。優良株の長期保有を投資の大原則にしてきたバフェット氏がアメリカを代表する金融株に見切りをつけたということです。

 加えて、「アップル」の株もほぼ半分にあたる500億株を売却。どう考えても、迫りくるアメリカの経済破綻を回避する手立てを講じようとしているに違いありません。さらにいえば、独自のルートで入手している情報でトランプ大統領やアメリカ経済の先行きに見切りを付けた可能性もあります。

 そもそもすでに分裂国家の様相を呈しているアメリカです。傍若無人のトランプ政権の行方に、これまで以上に危機感を抱いているとしか思えません。日本では想像ができないかもしれませんが、バフェット氏のような先を読み、投資で大もうけを重ねてきた人物の言動にはこれまで以上に注意を払う必要がありそうです。

 いずれにせよ、バフェット氏は「本年末に引退する際には保有する資産の99%を慈善団体に寄付する」とも明言しています。質素な生活スタイルを続けており、実質的には世界一の大富豪ですが、住まいは1958年に3万1,500ドルで購入した、どこにでもありそうな2階建て。とはいえ、とても気に入っているようで、手入れを重ねて居心地の良い住まいにしてきたとのこと。

ハンバーガー イメージ    また、食生活もぜいたくとは無縁で、大好物のピーチ味のコカ・コーラとUtzのポテトチップスが欠かせないとのこと。「自分は6歳の子どものように食べる」というのが口癖です。しかも、割引のクーポンを集めるのが趣味になっているというから驚きます。少しでも食費や買い物を節約しようという心がけです。ゲイツ氏と一緒に中国を訪問した際には、アメリカから持参した割引券を使ってマクドナルドで食事をしたことで、ゲイツ氏は「目を丸くした」と述べていました。

 とはいえ、最近では日本の総合商社の株を積極的に買い増しているバフェット氏です。日本人のビジネス感覚やビジネス風土は気に入っているようですが、和食は苦手のようです。89年、ソニーの盛田昭夫社長から招かれ、セントラルパークを見下ろすニューヨークの高層マンションで、すし職人が腕を振るった15品におよぶ超豪華なメニューを前にして、まったく手を付けなかったそうです。

 「生の魚はとても食べる気になりません。身体が受け付けてくれないのです」と平謝り。あきれる盛田社長に別れを告げると、その足で近くのマクドナルドに飛び込み、空腹を満たしたとの逸話が残っています。曰く「自分は一生涯、刺身もすしも御免こうむりたい」。

 実は、バフェット氏は離婚する前のビル・ゲイツ夫妻に誘われて夫婦で中国にも何度か足を運んでいます。現地で中国の技術力を目にして、電気自動車「BYD」の大株主になったわけですが、中華料理には辟易(へきえき)したようです。幸い、中国にも各地にマクドナルドがあるため、「緊急避難場所として駆け込んでは一命を取り留めた」と笑い話のように語っています。

 要は、幼いころから慣れ親しんだマックのバーガーとポテトチップスが身体に染み込んでおり、それ以外の食事にはなかなか適応できないというわけです。柔軟性に欠けるとも思えますが、自分の身体の素直な反応に敏感に対応して、大事にしているといえるのかもしれません。そこまで自分の食生活にこだわるのも珍しい生き方ではないでしょうか。

 それ以外に健康長寿と投資の大成功の秘訣について問われると、返ってくる言葉は身に染みるものばかり。

 第一、「よく眠ること。最低8時間は熟睡します。良い眠りは長生きの元です」。

 第二、「週二回はトランプでゲームを楽しむこと。記憶力を維持するうえで欠かせません」。

 第三、「予定表には常にゆとりを。ギシギシのスケジュールはご法度です。自分の自由になる時間ほど大切なものはありません」。

 第四、「読書を欠かさないこと。毎日、5、6時間は本を読み、自分の頭で考えます。ビジネスや投資のチャンスを得るヒントを得ることになるからです」。

 第五、「感謝の気持ちを持ち読けること。食事や運動よりも大切です。家族や同僚、周りの人々があっての自分ですから。自分が愛する人や自分を愛してくれる人をどれだけ身近に見いだせるかが人生の成功を決める最大の要素です」。

 65年に地元にあった倒産寸前の繊維会社を買収し、失敗と成功を繰り返しながら、今では資産価値1兆ドルを超える超優良会社に成長させたバフェット氏の生き方からは学ぶべき点が多くあります。本年末、95歳で現役を引退されるとのことですが、ますますのご活躍をお祈りしたいものです。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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