【業界を読む】九州主要地銀の25年3月期決算 金利追い風も収益構造が浮き彫りに
2025年3月期、九州の地方銀行各行は、長く続いた低金利環境からの転換を追い風に、そろって大幅な増益を記録した。なかでも貸出金利の上昇や与信費用の減少といった「金利のある世界」における構造変化を的確に捉え、地域経済に根差した営業力やデジタル施策を組み合わせた戦略が成果を上げている。本稿では、ふくおかFG、西日本FH、九州FGと、北部九州の単県型銀行である大分銀行、佐賀銀行を取り上げて、それぞれの銀行の好業績の内実と収益構造を見ていく。
ふくおかFG
全方位で収益増
<COMPANY INFORMATION>
代 表:五島久ほか2名
所在地:福岡市中央区大手門1-8-3
設 立:2007年4月
資本金:1,247億円
(株)ふくおかフィナンシャルグループ(以下、ふくおかFG)の2025年3月期連結決算は、経常収益4,557億円(前年比12.6%増)、経常利益1,035億円(同81.9%増)、当期純利益721億円(同17.9%増)となった。
まず、一時的な変動要因を差し引いたコア業務純益が大きく成長し、前年の1,004億円から1,191億円へと約18.5%増加となった。この成長は主に国内資金利益の拡大によるもので、貸出金利息は、金利環境の改善に加え貸出残高の積み上げによって前年比で166億円増加し、資金調達費用である預金利息の増加分124億円を大きく上回る結果となった。さらに、有価証券利息も金利上昇にともなう利回り改善などによって145億円増加し603億円となった。これらの結果から、ふくおかFGが早期に金利上昇局面を織り込んだ運用戦略をとってきたことがうかがわれる。
他方、非資金利益についても投資信託販売手数料や法人関連フィーの拡大により前年比で47億円増加し、336億円を確保した。とりわけM&A支援を中心としたソリューション機能の拡充が奏功しており、グループ横断的な専門性強化がフィー収益の底上げに寄与している。経費については前年より101億円増加し1,603億円となったが、これは福岡中央銀行との経営統合にともなう費用や人件費、システム更新およびDX関連の成長投資によるものであり、戦略的支出と位置づけられる。
また、信用コストは前年の242億円から61億円へと大幅に縮小した。この改善は、前年度に引当基準の見直しを行い多めに積んでいた引当金の反動に加え、コロナ禍後の企業の業績回復にともなう債務者格付けの引き上げや大口債権の回収が寄与した。これにより、銀行本体における信用コストはわずか1億円となり、グループ全体でもリスク耐性の強化と健全化をもたらした。なお、有価証券関係損益は依然として98億円の赤字ではあるものの、前年の173億円からは大きく改善しており、金利リスクへの対応とポートフォリオ再構築の進展がうかがえる。
好調な業績の結果、24年度を最終年度とする第7次中期経営計画で掲げた主要指標の多くを達成した。連結ROE(※1)は目標の6%程度に対し7.4%、コアOHR(※2)も目標60%程度に対し57.4%となった。貸出残高は15.1兆円、預金残高は21.5兆円、投信残高は1.3兆円と、それぞれの目標水準を上回る水準に到達した。
25年度から始動した第8次中期経営計画では、連結当期純利益を27年度に1,000億円、ROEを9%程度へと引き上げる方針を掲げており、今後は非資金収益の一層の強化や投資銀行機能の充実、みんなの銀行のBaaS展開の拡大など、新たな収益源の確立が求められている。すでに25年度はコア業務純益1,245億円、純利益800億円を計画しており、金利上昇効果や営業体制の深化、システム外販収益などがこれに寄与すると見込まれている一方で、信用コストは保守的に積み増す方針を取っており、外部環境の変化への対応力も維持している。
※1 ROE:自己資本利益率。企業の自己資本(株主が出資したお金)に対して、どれだけの利益を上げているかを示す。ROEが高いほど利益率が良いことになる。
※2 OHR:銀行の業務効率を示す。業務粗利益に対する経費の割合を表し、低いほど効率性が高いことを示す。コアOHRは、業務粗利益から一時的な変動にあたる国債など有価証券売買損益を除いた場合の数値。
西日本FH
資金主導の利益拡大
<COMPANY INFORMATION>
代 表:村上英之ほか3名
所在地:福岡市博多区博多駅前3-1-1
設 立:2016年10月
資本金:500億円
(株)西日本フィナンシャルホールディングス(以下、西日本FH)の25年3月期連結決算は、経常収益1,964億円(同5.8%増)、経常利益455億円(同27.9%増)、当期純利益309億円(同31.4%増)と大幅に増加し、利益面で過去最高水準に達した。
金利上昇を背景に貸出金利息の増加が顕著となった。貸出金利息は前期比の97億円増となり、これは事業性貸出や個人向けローンの残高が堅調に増加したことに加え、利回りの上昇が寄与した。また、日本銀行への預け金利息の31億円増加や外貨調達コストの54億円減も資金利益を押し上げた。調達コストである預金等利息は68億円増加したが、貸出側の増益がこれを十分に上回り、結果として預貸金利鞘は拡大した。資金利益全体では前期比118億円増の1,028億円に達しており、この構造的な収益改善が、純利益の拡大を支える最大の要因となった。
他方、役務取引等利益、すなわち手数料収益は234億円と、前期から6億円減少したが、この減少は、前期に計上された大口法人案件手数料の剥落による一時的な要因によるもので預かり資産関連などの手数料はむしろ堅調に推移している。こうした本業収益の改善に加え、経費面では人件費やシステム関連費用などの増加により、全体で829億円と前期比27億円の増加となったが、トップラインの増加が経費増を上回ったため、コアOHRは66.5%から63.5%へと改善した。なお、信用コストについては、与信先の健全性が維持されたことにより、前期の66億円から58億円へと減少し、収益の下支えとなった。
ただし、有価証券関連では課題も見られた。利息配当金は前期比13億円増の293億円となったものの、有価証券評価損益は大幅に悪化し、前期の553億円から25年3月期は121億円の赤字に転落した。とくに国内債券および外国証券の評価損が拡大し、これが全体の収益構造に影を落としたかたちとなっている。
好業績の結果、ROEは5.51%と前年の4.26%から改善し、OHRも引き続き効率化が進んでいる。26年3月期の目標(純利益320億円、ROE6%)に現実味が帯びてきたかたちであり、同グループが目指す「地域総合金融グループとしての収益構造改革」は、一定の成果を上げつつある。
九州FG
熊本の貸出伸長
<COMPANY INFORMATION>
代 表:笠原慶久ほか1名
所在地:鹿児島市金生町6-6
設 立:2015年10月
資本金:360億円
(株)九州フィナンシャルグループ(以下、九州FG)の25年3月期連結決算は、経常収益2,512億円(同12.9%増)、経常利益429億円(同11.8%増)、当期純利益303億円(同15.0%増)となった。資金利益や役務取引等利益の増加を中心に増収増益となり、連結ベースで過去最高益を更新した。
増益の主因は、貸出金利息の増加と与信費用の減少にある。貸出金利息は金利上昇と貸出残高の拡大を背景に80億円増加し、資金利益全体では前期比97億円増の1,037億円となった。とくに熊本県内の法人貸出が大きく伸び、肥後銀行単体での法人貸出残高は前年比7.8%増を記録している。貸出金利回りは0.05ポイント上昇し、収益に寄与した。また、預金金利も上昇したが、調達コストの増加を上回る収益の押上げがあった。
役務取引等利益は、ローン取扱手数料や為替手数料の増収を主因に前年から8億円増の174億円となり、手数料収入も着実に伸長した。ローン関連手数料は、住宅ローンの取扱件数回復に加え、金利上昇局面における固定型商品への需要増加も影響したとみられる。
一方、経費は前期比29億円増の806億円と上昇した。人件費はベースアップを反映して2億円増、物件費はシステム保守や事務委託費用の増加により18億円増加しており、とくにDX推進にともなう費用8億円増が目立つ。また、コア業務純益(資金利益+役務取引等利益−経費)も53億円増加し、銀行本業の収益力強化が明確となった。その他、与信費用は前期比27億円減少し、不良債権処理負担が軽減された。
有価証券運用においては、利回り改善の効果はあったものの、引き続き金利上昇局面下にあることから抑制的な運用がなされている。有価証券残高は前年比で約1,400億円減少しており、評価損益も改善傾向にあるものの、外債・円債ともにデュレーション短縮を通じたリスクコントロールの姿勢が鮮明となった。
大分銀行
小規模・高効率型へ
<COMPANY INFORMATION>
代 表:高橋靖英ほか1名
所在地:大分市府内町3-4-1
設 立:1893年2月
資本金:195億円 9,843万円
(株)大分銀行の25年3月期連結決算は、経常収益779億円(同6.4%)、経常利益110億円(同22.1%)当期純利益75億円(同15.6%増)となった。金利環境の追い風と営業力強化の成果が重なり、連結・単体ともに増収増益を実現した。連結いずれも前期を上回る結果となった。
この業績改善の最大の要因は資金利益の増加にある。貸出金利息は前期比で13億円、有価証券利息配当金は32億円増加した。これは、貸出金の残高拡大と利回りの改善、さらに有価証券運用のポートフォリオリバランスによって、収益性の高い資産構成に移行した成果とみられる。とくに、地元向けの事業性貸出や住宅ローンの積み増しが貸出残高の増加を牽引した。
加えて、手数料収益も堅調だった。M&Aやビジネスマッチングなど法人向けコンサルティング機能の強化が奏功し、証券仲介手数料なども増加。これにより、役務取引等利益は前年より6億円増加し、76億円に達した。営業経費の面でもコストコントロールが継続され、退職給付費用の減少などを通じて全体経費は3億円の減少となり、OHRは前期の69.0%から60.6%へと大幅に改善した。
与信費用も前期は10億円の費用計上だったが、25年3月期は6億円の戻入れ計上となった。これは、取引先の経営支援の一環として導入された資本性ローンの評価が背景にある。リスク資産に該当する融資の一部が、将来的に財務基盤の強化に寄与するとして適切に評価されたことで、引当金の計上が抑制された。
一方で、有価証券関係損益は前期より13億円悪化した。これは主に金利上昇にともなう債券価格の下落によるものだ。しかし、損益面での打撃を緩和するために中長期的な収益力を意識したリバランスが実施され、全体としては資金利益の増加が損益悪化を吸収した格好だ。
佐賀銀行
地域密着と外向戦略
<COMPANY INFORMATION>
代 表:坂井秀明ほか1名
所在地:佐賀市唐人2-7-20
設 立:1955年7月
資本金:160億6,200万円
(株)佐賀銀行の25年3月期連結決算は、経常収益552億円(同4.1%増)、経常利益110億円(同45.3%増)、当期純利益は74億円(同20.5%増)となり、増益基調を維持しつつ、地域密着型の戦略と金利環境の変化に柔軟に対応した結果、堅調な成績を収めた。これは主に貸出金利息の18億円増加および役務取引等利益が約6億円増加したことによる。
佐賀銀行は福岡県内への越県営業を重視している。佐賀県内での佐賀銀行の規模は41拠点、貸出金は9,000億円、取引先は7,000先、シェアは46.5%(銀行協会ベース)だが、福岡県内での26拠点、シェアはわずか3.3%(同)でありながら、貸出金と取引先は佐賀県内とほぼ同額同先数となっている。佐賀銀行は佐賀県内ではシェア1位を最大限生かして拡大を目標とするが、伸びしろについては福岡県のほうが大きいとみており、福岡県内での基盤拡大を今後の主要戦略としている。
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各行とも好業績の背景には、国内金利の上昇にともなう資金利益の拡大がある。貸出金利息が預金利息を大きく上回るかたちで預貸金利鞘が拡大し、有価証券利息の増加も一因となった。
一方で、各行の好業績には明確な相違点もある。ふくおかFGは資金利益・非資金利益・信用コストのすべてで大幅な改善を実現し、ROEやコアOHRといった指標も業界トップ水準に達した。全方位的な成長モデルを実現している。これに対して西日本FHは資金利益の改善による利益拡大が中心で、非資金収益はやや弱含みであるほか、有価証券の評価損(121億円)という課題を抱える。九州FGは肥後銀行を中心に熊本県での法人貸出が顕著に伸びたが、非資金利益の伸びは限定的であり、成長の源泉がまだ一部に偏っている印象がある。
単県型の2行を見ると、まず大分銀行は資金利益と手数料収益を着実に積み上げつつ、経費の抑制と信用費用の戻入れによってOHRが大幅に改善し、小規模ながら高効率な経営体制が整いつつある。もう1つの佐賀銀行は、貸出金利息を主な収益の柱としつつ、成長の足場を確保するために福岡県内での拡大を明確な戦略として打ち出している。
今後、地銀は伝統的な貸出中心モデルにとどまった場合、成長軌道から取り残される可能性があり、各行とも貸出以外の資金収益と非資金収益をどのように確保していくかなど、それぞれの条件に合わせた戦略が問われることになる。
【寺村朋輝】