【鮫島タイムス別館(40)】小泉進次郎、優等生戦略で総裁選首位へ 高市苦戦、林が台頭

総裁選スタートと主要候補の構図

 自民党総裁選が始まった。小泉進次郎、高市早苗、林芳正、茂木敏充、小林鷹之の5氏の対決だ。本命はズバリ、小泉氏。対抗は高市氏、ダークホースは林氏である。

 昨年の総裁選は9人が名乗りをあげる乱戦だった。これを制した石破茂首相が退陣を表明し、今回は総裁レースから抜けた。7〜9位の3人(上川陽子、河野太郎、加藤勝信の3氏)も出馬を見送り、2〜6位だった5人の対決となった。代わり映えしないメンツといえるし、その分、票の出方も読みやすい。

小泉進次郎は昨年総裁選での失敗を反省

 昨年は事実上、小泉、高市、石破の3氏の戦いだった。小泉氏は昨年も当初は本命視された。出馬会見で賛否が割れる「解雇規制の見直し」や「選択的夫婦別姓」に踏み込み、猛反発をくらった。政治キャリアが乏しくて発言も軽々しく「若すぎる」という評価が一気に広がり、党員票で失速。国会議員票は1位だったものの、党員票で3位に沈み、決選投票に進めず、予想外の大惨敗に終わった。

 その反省を踏まえて、今回は「挙党一致」「党内融和」を合言葉に、党内で賛否がわかれる政策は徹底的に封印する。前回総裁選で「解雇規制の見直し」や「選択的夫婦別姓」に反対した加藤勝信財務相を選対本部長に起用して保守派の取り込みを狙う。

 後見人の菅義偉元首相に加え、石破政権をともに支えた森山裕幹事長も支持するとみられる。さらに前回は高市支持に回った麻生太郎元総理や、決選投票で石破氏を支持した岸田文雄前首相も今回は小泉支持へ傾いている。

 石破首相が居座り、一次は「石破おろし」に対抗する衆院解散まで検討したことで、党分裂を恐れた重鎮4人(麻生、菅、岸田、森山)に連帯感が広がり、「挙党一致で進次郎」という流れが出来上がったのだ。

 国会議員票では圧倒的な優位を築きつつある一方、懸念材料はやはり党員票だ。「若すぎる」という批判は根強い。農水相として米価引き下げを狙って備蓄米の大量放出に踏み切り、コメ増産も打ち出したことで、自民党の岩盤支持層である農家にも反発が強い。

 小泉氏は世論調査で高市氏とトップを争い、自民支持層に限るとトップに立つが、不用意な発言が飛び出して失速する「進次郎リスク」を懸念する声はなお強い。差し障りのない発言で「守り」に徹し、国会議員票を固めて逃げ切る戦略だ。

小泉のイメチェン、「挙党一致」掲げる戦略と支持拡大

 昨年は小泉氏に「選挙の顔」を期待する向きもあったが、今回は「挙党一致」「党内融和」のシンボルとなった。「人気者」から「優等生」へ、すっかりイメチェンである。

 小泉氏も、後ろ盾の菅氏も、維新と蜜月だ。順当に勝利すれば、維新を連立に加えて衆参両院で過半数を回復することが既定路線。当面は解散権を封印し、政局の安定化を優先させることになろう。

 維新が「連立離脱カード」を振り回して無理難題を迫ってくる場合に備えて、森山幹事長は立憲民主党の持論である「給付付き税額控除」について自民、公明、立憲3党の協議体を立ち上げた。維新が連立離脱カードを振り回して手を焼いた場合、いつでも立憲に連立相手を差し替える準備である。一方、減税を訴える国民民主党は突き放す構えだ。

 自公維連立の小泉政権が誕生すれば、内閣支持率はそれほど上がらなくても、衆参両院で過半数を回復し、自民党内では挙党一致体制が築かれ、当面は政局が安定するだろう。ここで負け組に回れば、冷や飯期間が長引く恐れがあり、「勝ち馬に乗れ」という議員心理が昨年の総裁選以上に働くに違いない。小泉氏が「守り」の選挙に徹すれば、逆に雪崩を打ってほかの候補を圧倒する可能性もある。

高市早苗の基盤崩壊と林芳正の台頭

 逆に劣勢を強いられているのは、高市氏だ。なんといっても、国会議員票で昨年以上の苦戦が見込まれる。支持基盤の中心だった旧安倍派の中堅若手が衆参選挙で大量落選。前回の推薦人20人のうち9人が落選し、支持基盤が壊滅したのだ。

 さらに前回は「石破阻止」の一点で高市支持に回った麻生氏が、今回は小泉支持へ傾いているのが痛い。麻生氏は野党が掲げる消費税減税への批判を明言し、減税派の高市氏を突き放した。高市氏は麻生氏の支持を取り戻すことに必死で、出馬会見では消費税減税を封印した。この結果、インパクトに欠ける公約となり、逆に勢いを欠いている。

 党員票と国会議員票が半々の第一回投票をトップで通過しても、国会議員票中心の決選投票で逆転される可能性が極めて高い。昨年の二の舞だ。

 党員票で過半数の支持を受け、国会議員にプレッシャーをかけたいところだが、簡単ではない。昨年も高市氏が獲得したのは、党員票の3割程度だった。今回は不出馬の石破票がどこへ流れるのかが大きなポイントだが、石破票の多くは「小泉氏は若すぎる。高市氏は右すぎる」として消去法で石破氏を選んだとみてよい。今回も高市氏にはほとんど流れず、多くは石破内閣で官房長官を務めた林氏へ向かうのではないか。

 むしろダークホースとなるのは、その林氏だ。小泉失速の場合は「高市阻止」の受け皿として急浮上するだろう。高市氏が失速した場合は「経験不足の小泉氏より、安定感のある林氏がよいのでは」というムードが一気に広がる可能性もある。事実上の三つ巴となった昨年の総裁選の石破氏の代役を林氏が担う格好だ。

 現時点の当選確率を大胆予想すれば、小泉氏が60%、林氏が30%、高市氏が10%という具合ではないか。小泉氏が「優等生役」を演じ切れるかどうかが総裁レースの行方を左右する。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝、与謝野馨や幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約15万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。

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