開発進まぬ“忘れられた土地”福岡・港エリア(後)

那の津通り沿いで開発進む

 現在の港エリアを福岡市の都市計画による用途地域で見ていくと、港1~3丁目の海に隣接する部分は準工業地域(建ぺい率60%/容積率200%)となっているほか、港3丁目の福岡造船(株)の造船所があるあたりは、工業地域(建ぺい率60%/容積率200%)となっている。また、港1・2丁目の那の津通り沿いは、商業地域(建ぺい率80%/容積率300%)で、港2丁目の荒戸荒津線沿いは近隣商業地域(建ぺい率80%/容積率300%)となっており、エリア内は基本的には住居地域にはなっていない。前述したように、工業地域と商業地域で区分される同エリアの用途地域も、とくに住居系の開発が長らく進んでこなかった要因の1つでもある。

 なお、福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数では、港エリア(港1~3丁目)は25年8月末現在で、人口4,444人・3,151世帯となっている。10年前の15年8月末時点では人口4,014人・2,631世帯、20年前の05年8月末時点では人口3,417人・2,003世帯であったことと比較すると、同エリアでも徐々に人口が増加傾向にあることが確認できるが、市内の他エリアに比べると、その増加スピードはややおとなしめの印象も受ける。また、人口に対する世帯数の比率を見ると、1世帯あたりの人数は約1.4人で、同エリアにおいては単身者の居住が多いようだ。

 現在の土地利用の状況を見ていくと、幹線道路である那の津通りに沿って、オフィスビルやマンションなどが集積。また、舞鶴港線沿いには、前出の西武ハウスの「モントーレ」ブランドのマンションが林立している。那の津通りと港1439号線、舞鶴港線が交差する一帯には、昔ながらの長浜ラーメンの店舗が軒を連ねるほか、夜にもなれば長浜屋台街として複数の屋台が営業している。ショッピングセンター「キテラタウン福岡長浜」(21年2月開業)があるのも、このあたりだ。そして那の津通りから海に向かっていくと、前出の徳島県漁業団の系譜に連なる(株)トクスイコーポレーションの本社や、冷凍・冷蔵倉庫業を営む九州製氷(株)の本社など、かつての港町としての性格を今なお色濃く受け継ぐ企業事務所や倉庫などが軒を連ねている。

 また、海を臨む抜群のロケーションのタワーマンションでありながら、“免振偽装マンション”という不名誉な呼称で知られた「カスタリア大濠ベイタワー」は、すでに建物解体が完了。そのすぐ近くには、レジャーホテル「チャペルココナッツ ホテル イポラニ 福岡」もあるほか、海沿いには壁面アートが施されたビルが数棟あり、表通りにあたる那の津通り沿いとは異なる独特の雰囲気のまちとなっている。

 エリア内で現在進んでいる主な開発を挙げていくと、港2丁目の那の津通り沿いでは、(有)田中興産(北九州市小倉北区)による「(仮称)大濠公園北プロジェクト新築工事」の開発が進んでいる。RC造・地上14階建の飲食店および共同住宅(52戸)となる計画で、設計および施工は生和コーポレーション(株)(大阪市福島区)が担当。26年9月の竣工を予定している。

 同じく港2丁目の那の津通り沿いにある(株)内藤工務店の本社隣接地では、同社による「(仮称)港2丁目プロジェクト新築工事」の開発も進んでいる。RC造・地上12階建で、事務所兼共同住宅(賃貸、ワンルーム64戸、全68戸)となる計画で、設計はリーメック(株)、施工は内藤工務店がそれぞれ担当。竣工は27年2月を予定している。

再開発を阻む壁の存在

 このように、一部では新たな開発が散見される港エリアだが、全体として大規模な再開発の舞台にはなかなかつながらない、複合的な阻害要因があることを忘れてはならない。

 まず最大の障壁は、前述したように、土地が細かく分断され、所有権が複雑に入り組んでいることだ。大規模なマンションや商業施設、ホテルなどの開発を進めていくためには、これらの土地を1つひとつ取得し、大きな区画にまとめる必要があるが、それには想像を絶する手間と時間を要する。

 さらに、このプロセスには別の“罠”も待ち構えている。たとえば、あるデベロッパーが開発を目指し、水面下で地道に土地を買い進め、全体の6割ほどを抑えたとしよう。すると、その段階になると、そうした動きを嗅ぎつけた別のブローカーやエージェントが現れ、彼らは残りの地権者に接触。「裏でもっと高く売れますよ」「相談に乗りますよ」と囁き、価格を吊り上げ、交渉を複雑化させる。結果として、開発計画は頓挫するか、事業採算性が著しく悪化してしまう。このような状況が、これまで大手デベロッパーの参入意欲を削いできた側面はある。

 また、仮に土地の問題をクリアできたとしても、物理的な制約が待ち受けている。とくに深刻なのが、道路インフラの脆弱性だ。このエリアを貫く長浜1449号線は、福岡高速道路環状線・天神北出入口に接続しているため、百道浜方面からの車両が流入。常に交通量が多く、時間帯によっては渋滞が頻発する地帯となっている。それに追い打ちをかける懸念材料が、冒頭に紹介したロピアの進出だ。近隣のみならず広域からの集客が見込まれるロピアが開業すると、さらに交通量が増加していくことは想像に難くない。周辺の道路網には逃げ場がなく、一度大規模な渋滞が発生すれば、地域全体が麻痺しかねない。今後の大規模開発を考えるうえで、交通インフラの抜本的な改善は避けては通れない課題でもある。

 しかし、こうした数々の課題を抱えながらも、都心に隣接しながら海にも近接するという地理的優位性をもった港エリアのポテンシャルは、このまま捨て置くにはあまりにもったいない。課題が山積しているのは承知のうえだが、ロピア進出などを契機として同エリアに再び開発の機運をもたらすことで、福岡都心における貴重な海辺空間の価値をさらに引き出し、活用していくことはできないだろうか――。“忘れられた土地”港エリアの価値や存在感が増していくことで、都市・福岡全体に、これまでとは違う新たな魅力を付与することを期待したい。

(了)

【坂田憲治】

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