名古屋市立大学22世紀研究所 特任教授
日本ビジネスインテリジェンス協会
中川十郎
21世紀前半は中国、後半はインドを含むアジアの時代、21世紀後半から22世紀にかけてはアフリカの世紀が到来する。
日本のグローバル・マーケティング戦略は、今後躍進する中国・インド・アジアを中心に、未来の大市場アフリカ攻略が決め手となる。インド、トルコ、さらには中国をも活用したアフリカ戦略を提言する。
1. 中国とSCO(上海協力機構)
(1)中国・ロシアが注力するSCO(上海協力機構)は、加盟10カ国に加え、対話パートナー国(ラオス、トルコ、サウジアラビアなど)、さらにオブザーバー国のアフガニスタン、モンゴルなどを含む。2025年8月31日~9月1日に中国・天津で開催されたSCO会議には、20カ国の首脳が参加した。
トランプ政権の高率関税の乱発に対抗し、グローバルサウスが中国、インドを中心に結束を強化しつつある。さらにBRICSの雄、南米のブラジルに対しても、ボルソナーロ前大統領への裁判に不満を示し50%の関税を課すなど、インドやロシアとの関係も悪化している。
(2)トランプ政権が新興・途上国への米国の援助を担うUSAID(米国開発局)を廃止したことから、中国のグローバルサウスへの主導権がさらに高まる可能性がある。トランプ政権の高関税政策により、途上国の中国との貿易が拡大しつつある傍ら、国際投融資においても「一帯一路」を通じて、国際物流、貿易に加え、発展途上国への中国の影響力がさらに強まる可能性が高い。アジアで躍進を続けるASEAN(東南アジア諸国連合10カ国)もSCOのオブザーバーとして参加し、関係を強化している。さらに中国はASEANに近い南寧で毎年ASEAN貿易見本市を開催し、発展するASEANとの関係を強化している。
(3)中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)はインド、パキスタン、イラン、カザフスタンなど10カ国で構成される。世界のGDPの4分の1、人口の半分を占める。1996年に中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが「上海ファイブ」として発足。2001年にウズベキスタンが加盟。さらに17年以降、インド、パキスタン、イラン、ベラルーシが加わり、10カ国となり、南西アジアから東欧までの中央アジア広域経済圏を構築。政治、経済的にも大きな影響力を有するようになっている。同地域はエネルギー、鉱物資源など産出国も多く、経済面のみならず、地政学的にも重要な地域となりつつある。
(4)さらにこれらの地域は中国・習近平主席が重視する「人類運命共同体」を目指す広域経済圏構想「一帯一路」の中心地域でもある。習近平主席は今回の天津会議においてSCOの35年までの10年間の発展戦略の「天津宣言」に署名。米国中心の国際秩序を脱却するため、多国間主義の実現、人民元建ての融資を増やし、非ドル決済網の構築に注力するものとみられる。中国は南米ブラジルや中東などとの資源取引を中心に米ドルを介さない決済を広げる戦略である。
(5)中国が設立した以下の国際金融機関の動きも注目される。
・AIIB(アジアインフラ投資銀行):加盟国・地域数110、投融資総額618億ドル。本店:北京。設立2016年。
・BRICS銀行(新開発銀行)加盟国・地域数 9、投融資総額390億ドル。本店:上海。設立2015年。
ちなみに日米が中心のADB(アジア開発銀行)は設立1966年、加盟国・地域数69、投融資総額1,585億ドルである。
今回の天津SCO会議で習近平国家主席が上海協力機構(SCO)開発銀行を早期に設立すると表明したことは注目に値する。BRICSの動きとも合わせ、中国を中心とするロシア、インドなどSCOの動きには注目が肝要と思われる。
(6)SCO加盟国10カ国の人口は34億人(世界人口の42%:24年)、GDP2.2兆ドル(世界の25%:22年)、貿易額8兆ドル(世界の18%:23年)と世界的にも大きなシェアを占めつつある。
(7)さらに中国は北極海「氷上シルクロード」開拓に本格的に動き出している。中国は北極海航路による欧州への貨物輸送を開始。中東・紅海を経由する従来ルートに比べ、半分以下の18日で欧州に到着する。中国の北極海国際物流の動きに注意が肝要だ。(25年10月3日、日経)
2. インドとTICAD(アフリカ開発東京会議)
(1)インド政府が25年8月29日に発表の4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前年同期比、7.8%と驚異的な伸びを示し、インド経済の好調ぶりを際立たせている。
(2) 一方、インドは将来の経済発展の重要要素である「労働人口」で25年6月公表の国連人口白書では40年に中国の人口が約13億8,000万人に減少するのに対し、インドは逆に16億1,000万人に増加する。生産年齢人口は50年に中国7億4,000万人、インド11億2,000万人となり、マンパワーで中国はインドの3分の2まで低下するとの驚くべき数字を発表。インドのマンパワー、人材の量と質で中国との格差が際立つと『選択』25年10月号は報じている。
(3)25年8月20~22日、横浜で開催のTICAD9(第9回アフリカ開発東京国際会議)は大阪関西万博との関連もある。さらに、トランプ2.0が矢継ぎ早に打ち出す高関税対策としてグローバルサウス、とくに54カ国からなるアフリカの対応策上も国内外の関心が高く、1993年の創設以来、第9回TICADは大きな関心を呼んだ。期間中にJETROが主催した「TICAD Business Expo & Conference」には日本・アフリカ各国から政府や企業関係者が参加。出展企業は200社で過去最高となった。覚書(MOU)交換は300件を超えたという(JETROビジネス短信)。
(4)重要鉱物などの資源に恵まれ、インド同様、若年人口が増え続けるアフリカは「最後のフロンティア」と目されている。日本は「インド洋・アフリカ巨大経済圏」構築を目指し、現地での事業経験が豊富なインドやトルコ、中東など第三国の企業との連携をアフリカ戦略の柱にする必要がある。アフリカに根を張る、旧宗主国の英仏、ベルギーなどの企業との提携も一部動いている。しかし、日本政府が本年2月に提唱した「アフリカの持続可能な経済発展のための日印協力イニシアティブ」の下、インドへの産業集積の促進。アフリカへの民間投資、雇用創出、人財育成の取り組み促進が求められる。
(5)とくに石破首相が発表した「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」に呼応し、アフリカとともにインドや中東などインド洋諸国との連携強化に努力。日本とアフリカの共創関係の構築。さらにアフリカでのビジネスを加速するため、第3国との連携を活用することが不可欠と思われる。とくにインドとの協力に関してはインドとアフリカの地理的、歴史的な近接性、インド企業、ビジネスパーソンのアフリカでの実績を活用し、すでにインドで実績のあるスズキやダイキンがインドで製造している自動車や空調機器をアフリカに輸出している実績も参考にしながら、インド経由のアフリカ向け輸出、そのためのデジタル物流網構築などに日本企業としては尽力することが強く要請される。
(6)この機会に筆者がかねがね提唱している「CHINDIA」(中国・インド戦略)に加え、AACI(ASEAN・アフリカ・中国・インド戦略)に日本が注力することを期待したい。
(7)あわせて中央アジア、中東、とくに北アフリカと歴史的かつ宗教的にも回教圏で関係が深いトルコともインド同様、アフリカ進出に関し連携することが肝要であろう。
かつて未来学者として有名なダニエル・ベル博士が日本を訪問。講演で、トルコの中央アジア、中東、北アフリカでの影響力の強さを強調されたことがある。アフリカ戦略でのトルコとの提携もインド同様、真剣に検討する価値がある。
日本のS総合商社はトルコのゼネコン会社と組み、中央アジアのウズベキスタンで病床800の病院や100万kWの風力発電設備、160万kWの火力発電開発を進めている実績がある。(日経25年10月2日)
今後、トルコと組んだアフリカでの大型プロジェクト参画の可能性もある。インドと並びアフリカでのトルコ企業との連携協力も推進すべきと思われる。
3. 中国のアフリカ戦略と日本の対応
(1)アフリカの人口は2025年の15億人から2050年には25億人へと10億人増加し、世界人口の4人に1人がアフリカ人となる見通しである。日本のアフリカ攻略上、競合が予想される中国は「一帯一路」広域経済圏構想でアフリカに攻勢をかけている。25年1~6月の中国のアフリカ向け投資は400億ドル(約6兆円)で全体の3割強を占めている。とくに中国はアフリカのレアメタル、鉱物資源確保を目指し、投資を拡大している、アフリカは人口の増加が著しく、21世紀後半から22世紀にかけて「残された最大のマーケット」となることは間違いない。
(2)日本のアフリカ攻略はインド、トルコなどアフリカとの関係が深い国々に加え、アフリカ進出に熱心な中国も含めウィンウィンの関係で競争と協力の精神でアフリカ戦略を進めることが必要だと強調したい。
<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。