高市自民党新総裁は総理の座に王手:尖閣諸島問題にどう向き合うのか?

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、10月10日付の記事を紹介する。

日中関係 イメージ    自民党の新総裁に選ばれた高市早苗衆議院議員は総理の座を目前にしています。果たして、女性初の総理の誕生となるのでしょうか?

 そんな折、気が早いというか、正確な情報に無頓着なトランプ大統領は自身のサイトで「日本は初の女性総理を選出した。彼女は偉大な知恵と力を備えており、高く尊敬を勝ち取っている。日本にとっては素晴らしい出来事だ。お祝いを伝えたい」と、大はしゃぎ。今月末には訪日を予定しているトランプ大統領とすれば、かつてアメリカの連邦議会で下院議員のインターンを務めた高市氏であれば、「与しやすい」と判断してのこと。

 しかし、自民党の総裁には選ばれたものの、国会にて総理に選ばれたわけではありません。その意味では、大統領のソーシャルメディアでの発信の内容の正確性を誰もチェックしていないことが明らかになった瞬間といえます。

 とはいえ、安倍晋三元総理とは大のゴルフ仲間であったトランプ氏とすれば、安倍氏を師と仰ぐ高市氏であれば、願ってもない交渉相手と大歓迎しているに違いありません。当然のことですが、アメリカ政府はワシントン時代に遡り、高市氏の言動を詳しく情報収集しているはずです。大のディール好きのトランプ氏ですから、高市氏のスキャンダルネタをしこたま仕入れており、首脳会談の裏舞台では様々な駆け引きの材料にすると思われます。

 実は、高市氏はウクライナ危機をもたらしているロシアの軍事侵攻に関連させ、「尖閣諸島問題への対応をより明確に国際社会に訴えるべき」との考えを打ち出してきました。言うまでもなく、中国の動きを念頭に置いたものです。

 故安倍総理をはじめ、自民党内にはウクライナ戦争が「台湾有事」に飛び火する可能性が高いと受け止め、「備えが欠かせない」との見方が広がっていますが、その急先鋒が高市氏でしょう。

 自民党の政調会長時代の高市氏は尖閣諸島に関しては「日本政府が施政権を明示し、中国に対抗すべき」と強く主張。その上で、「実効的に日本の領土だと示す工作物の設置や、日本の施政権が及ぶと明確に示す形を作ることが非常に大事だ」とも発言し、話題となったものです。更に、高市氏はロシアが不法占拠する北方領土や、韓国が警備隊を常駐させている島根県竹島の事例を挙げ、「領土の奪還は憲法で認められていない。取られたら、もう終わりだ」とも発言。

 高市氏はウクライナ戦争に触れながら「ロシアと中国が連携しかねない状態をもたらしており、何としてもアメリカとの関係を強化して、中国の動きを封じ込めるチャンスとすべき」と捉えているようです。そうした危機感を煽り、尖閣諸島の実効支配に向けての示威行動の先頭に立とうという姿勢を見せることで、「強いリーダー」を演出しているようにも思えます。

 要は、「魚釣島に日の丸を掲げれば、施政権の示威としては非常に効果的で、後々裁判になった際にも有利。監視兵が常駐するようになれば、なお良い。施政権継続のためにはかつて米軍が使っていた久場島や大正島の射爆撃場を米軍と共に再稼働させ、また船泊まりを整備するなどの示威活動も重要になる」との発想です。

 米軍の間でも自衛隊幹部の間でも、「2027年は習近平国家主席の4期目再選の年であり、中国人民解放軍建軍100周年にあたる。もし中国が台湾に軍事侵攻した場合、台湾から100キロしか離れていない与那国島をはじめ日本列島に何が起きるか。備えを怠るわけにはいかない」との危機感が共有されています。

 しかし、危機感や脅威を煽るだけでは、国際関係は悪化の一途を辿ることになります。今こそ、日中双方が英知と技術を持ち寄り、共同戦線を模索すべきではないでしょうか。

 元を正せば、島々も海洋資源も中国や日本が生み出したものではなく、地球という生命体が生み出した自然の産物、いわば人類の共通財産です。琉球の大交易時代に遡れば、尖閣諸島が琉球と中国の交易のための島として存在していたことに思い至るはずです。

 そうした歴史的理解に立てば、安全保障の観点とは別の、「海の外交」という可能性が急浮上してもおかしくありません。日中双方が「海を介した平和」の実現に一心同体で取り組むことが望ましいでしょう。

 高市氏は靖国神社の秋の例大祭への参加を取りやめたようです。明らかに中国との関係を考慮してのこと。これを機に、一衣帯水の日中両国に相応しい平和外交への突破口を見出して欲しいものです。


著者:浜田和幸
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