登山計画
今年の夏は非常に暑かった。秋の気配がする10月に入ると、無性に山を歩きたくなった。
ルートは脊振山系雷山(955m)〜井原山(982m)縦走。国土地理院の地図を開きルートを決める。自宅の福岡市早良区から佐賀市に通じる国道263号の曲渕ダムの横を通り、三瀬峠から右折すれば糸島市から佐賀市への県道12号線の長野峠まで7kmの林道に入り、雷山への登山口に一番近い場所に車を停めた。雷山を登り、井原山までの縦走をし、雷山林道の中間地点の古場岳登山口に下り、デポした車で登山口まで戻るコースにした。
脊振の自然を愛する会の仲間を誘う。「雷山〜井原山秋の縦走路を歩きます。仕事が現役のY(男性)は水曜が休みで、予定を組むので空けていてください」と早めに連絡した。10月8日(水)筆者を入れて総勢5名が参加することになった。年齢は80代1名、70代1名、60代3名。最高齢者は筆者である、うち女性が2名。
筆者は、昨年10月半ば登山整備中に小さな石に飛び乗ったとき足を滑らせ腰の圧迫骨折をした。1カ月入院後、退院してから登山やスキーをするため懸命にリハビリを続けた。まだ少し腰に違和感があるが、軽い登山はできるまで回復した。
今回縦走路計画をしたが、体力と腰への負担が心配であった。今回は体力テスト登山でもある。
仲間には雷山直下の登山口集合と案内した。福岡組は福岡市早良区の野河内谷駐車場に3台が集合し、旧国道263号に三瀬峠へ連なって登りカーブの多い道を走った。三瀬峠から右折して雷山林道へ入る。
この林道は車も少なく、比較的安全に走れるので、高齢の元医者とのサイクリングや登山でよく利用した。
久しぶりに通る林道は荒れていた。井原山への登山口、古場岳の別荘地の路肩に仲間の軽自動車2台を停めた。井原山から下山し雷山の登山口へ戻るためである。カーブとアップダウンが続く林道を20分ほど走る。糸島市在住のH(女性)と登山口で待ち合わせをしていた。はたして間違わないで待っているだろうか?登山口に差しかかると見慣れた車が停まっていた。Hである。違う林道へ入ってしまって引き返したと。合流できてよかった。
登山開始
5人が合流して車道から登山道へ入る。このルートを歩くのは数年前に会員Mと三瀬峠まで5時間縦走して以来である。登山道の状況は記憶に残っていた。登り斜面を連なって杉林のなかを歩く。30分も歩くと福岡県側から続く林道に合流した。昭和の時代に雷山スキー場があり、コンクリート製の避難小屋も最近まであった付近である。
楚々岐野(そそきの)と呼ばれる場所は一面のススキの草原となっていた。放牧地の跡で鉄条網は残っているが牛はいなかった。雷山の直登ルートの入り口になる。
しばらく休んで汗を拭う。女性Hがむいた柿を振る舞ってくれた。彼女は何かと持参してくれるありがたい仲間である。
一息ついて、草原のなかを進む。この日、登山者がガスと呼んでいる霧で覆われていた。直射日光を受けないのでありがたい。
霧で方位がわからない、スマホの地図アプリを利用していたが、方位は標識で確認した。ススキの原のなかを露に濡れながら進んでいった。少し離れると仲間たちがぼんやりと見えた。
先を行く女性たちが何かを見つけ騒いでいる。秋の花のミゾソバである。ピンクの色の金平糖のような蕾をたくさんつけている。咲いている花も可愛い。筆者は何度も脊振山系でこの花をマクロレンズで撮影した。雨上がりに露が丸まって輝き、透明の真珠のように見え、周りの景色が映り込んで自然のレンズとなっていた。筆者は自然の神秘と対話を楽しんできた。



草原の花とアサギマダラ
草原には四方にミゾソバ、ヤマアザミなど秋の花の草原となっていた。大分県の九重のタデ原湿原(ラムサール条約で保護)と同じ光景でもあった。筆者たちはぜいたくな草原歩きを楽しんだ。
雷山へ直登の山道を進むと、またも前を歩く仲間からの歓声を聞いた。何千キロもの旅をするアサギマダラがヤマアザミの花の上でふわふわと舞っていた。
それも1匹ではない、手を出せば止まってくれる近さで乱舞していた。またヤマアザミの数は阿蘇の草原と同じ光景とも思えた。仲間たちは、それぞれスマホで撮影していた。筆者はカメラを構え、アサギマダラにレンズを向けた。
飛んでいるので、うまくピントが合わない。アザミの花に止まり、写してとポーズをとっているときにシャッターを押した。これだけの数のアサギマダラは見たことがない。雷山に残された自然に感謝である。

偏西風に乗って何千キロもの旅をする
雷山への登りは続く
急登は続いた。久しぶりの山歩きに足が重い。傾斜は15度近く、かなりの登り坂である。歩いてきた方向を見下ろすが、霧に覆われた草原しか見えなかった。
重い足を何度も持ち上げて進むと、やっと雷山山頂の標識が霧のなかにみえてきた。懐かしの雷山山頂である。長男が幼いときにおぶって登ったことがある。当時は眼下のススキの原にスキー場が見えていた。今は樹木が成長し、眼下の光景は見ることはできない。
雷山山頂で一息ついた。仲間はそれぞれ非常食でエネルギー補給をしていた。女性Hから手づくり銀杏おにぎりを、女性Sからはいつものようにお菓子セットが回ってきた。
差し出されたおにぎりはタッパーにたくさん入っていた。「1人2個ずつどうぞ」、これだけ担いで来るとは重かっただろうに。
彼女は今年の夏、北アルプスの立山から薬師岳を小規模ツアーで歩いている。下山した後温泉で転倒し左手甲を骨折し、現在リハビリ中である。
筆者と彼女ともどもリハビリ登山にもなっていた。彼女は骨折のトラウマから縦走できるか不安があったようだ。「途中で下山するかも」と連絡がきていた、筆者は「体が覚えているよ」と彼女を励ました。
(つづく)
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行