九州・道路ネットワーク整備事業の現状

厳しさと変化の渦中の道路事業予算

九州・道路ネットワーク整備事業の現状 九州の道路事業は、厳しい予算制約とインフラ老朽化という課題に直面しつつも、国土強靱化や生産性向上といった国の重要政策を追い風に、着実な進展を見せている。今回、9月25日に開催された国土政策セミナー(主催:(一社)国土政策研究会九州支部)で国土交通省九州地方整備局の道路部長・福井貴規氏が行った講演「道路を取り巻く最近の話題について」の内容を基に、近年の道路事業をめぐる予算の動向、国土強靱化政策の新たな展開、九州管内における具体的な事業の進捗状況など、道路関連の最近の話題を紹介する。

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 日本の公共事業費は、ピーク時の2000年頃の約15兆円から、最も少なくなった11年には約5.3兆円と約3分の1規模にまで減少。その後、若干の回復は見られるものの、現在は8兆円前後で推移しており、道路事業を取り巻く予算環境は依然として厳しい状況にある。

 24年度の道路関係の当初予算額は対前年度比1.2倍となったが、予算額の増加は必ずしも事業量の拡大に直結するわけではない。近年の物価や資材価格の高騰を踏まえれば、執行できる事業量は実質的に目減りしているのが現実である。

 さらに、道路予算の構造的な課題も浮き彫りになっている。道路予算は、新しい道路を建設するための「改築費」と、既存インフラを維持管理するための費用に大別される。道路ストックの老朽化が進むにつれて維持管理費は年々増加しており、その結果、新規建設に充てられる改築費が圧迫されるという構造に陥っている。

 この厳しい状況を支えているのが、毎年の補正予算である。当初予算だけでは事業の継続が難しく、補正予算によって事業規模を維持しているのが実情だ。この補正予算の大きな柱は2つある。1つは「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に代表される国土強靱化関連の予算である。もう1つが、熊本のTSMC周辺の道路整備や中九州横断道路などが該当する「生産性向上」関連の予算であり、これも1,000億円以上の大きな規模をもつ。これら補正予算を上乗せで確保することで、増加する維持管理費をカバーし、改築費を何とか維持しているのが現状なのである。

 そうしたなか、九州地方整備局の25年度当初予算は、直轄で対前年度比1.02倍、改築事業で1.01倍と微増にとどまる。とはいえ、これは全国の地方整備局との予算の取り合いのなかで確保されたもの。わずかながらでも増えているのは、九州には取り組むべき事業が多いことが、国にも配慮された結果だと考えられている。

新たなステージに入る国土強靱化

 予算確保の最大の柱である国土強靱化政策は、新たな段階へと移行している。24年6月に新たな「国土強靱化基本計画」が閣議決定され、これに基づいて今後5年間で、15兆円規模の事業が進められることになったのだ。

 今回の計画で特筆すべきは、「資材価格の高騰、人件費の高騰は、予算編成の過程でその都度措置する」旨が明記された点である。これにより、物価上昇が事業の進捗を妨げるリスクへの対策が示された。また、予算規模の捉え方にも変化がある。これまでの「5か年加速化対策」における15兆円は、事業規模の「上限」としての意味合いが強かったが、今回の計画における15兆円は、あくまで事業を進めるうえでの「ベースライン」であると認識されている。これをいかに大きくしていけるかが、今後のインフラ整備のカギを握るだろう。

 予算の使途も拡大している。従来は地震対策など災害に強くするための事業というイメージが強かったが、物流ネットワークの確保や老朽化対策にも活用できるようになった。さらに今回の計画では、「道の駅の防災拠点化」や「道路の雪寒対策」なども対象となり、活用の幅が大きく広がっている。

道路ネットワーク整備
九州の進捗状況

 厳しい予算状況下でも、九州の道路ネットワーク整備は着実に前進。25年度は、西九州自動車道 国道497号・松浦佐々道路(松浦IC~平戸IC)と、国道220号・古江バイパスの2カ所が開通予定となっている。

 新規事業化も進んでいる。直轄事業としての道路の新規事業化は全国で年間10~15カ所程度と非常に狭き門であるが、今年度は九州で3カ所(国道201号・みやこ行橋バイパス、国道57号・熊本環状連絡道路、国道34号・福重橋架替)が事業化された。これは九州が抱える課題の多さが国に配慮された結果といえる。このほか、自治体が管理する橋梁の修繕を国が代行する「修繕代行事業」として、熊本県上天草市の樋島大橋も事業化されている。

 今後の供用目標も公表されており、26年度に有明海沿岸道路・大川佐賀道路(諸富~川副)と中九州横断道路・滝室坂道路、29年度に国道202号八木山バイパス(筑穂~穂波東)の開通が目指されている。

 九州の高速道路ネットワークは、計画延長約1,500kmのうち約88%が開通済みであるが、課題も多い。その多くが暫定2車線区間であることや、計画そのものが何十年も見直されていないといった問題点が指摘されている。現在、事業中あるいは調査中の路線を着実に進め、計画の熟度を高めていくことが重要となる。そのためには、地域や経済界と連携し、事業化に向けた熱意を国に伝えていくことが不可欠である。

 主要路線では、熊本と宮崎を結ぶ中九州横断道路で、全線事業化の姿が見えつつある。宮崎側ではトンネルが貫通し、新たなトンネル工事にも着手している。また、東九州自動車道では、未事業化区間であった南郷・奈留道路も24年度に新規事業化されたことで、全線事業化となった。

啓開計画や脱炭素化
道路行政の新たな潮流

 近年、道路行政を取り巻く環境は大きく変化しており、新たな法制度や政策が次々と打ち出されている。

 今年度の道路法改正では、主に3つの点が盛り込まれた。①能登半島地震を踏まえた災害対応の強化、②持続可能なインフラマネジメントの実現、③道路の脱炭素化の推進である。そのなかで、とくに重要なのが「道路啓開計画」の法的位置付けである。

 「道路啓開」とは、災害時にがれきなどを除去し、緊急車両などが通行できるルートを確保する作業を指す。これまで、災害発生時には国が管理する国道は国が、県道は県が啓開を行うのが原則であり、国が県道などを啓開するには関係機関との調整が必要だった。今回の法改正により、あらかじめ啓開計画に位置付けられた道路については、調整や協議を経ずとも国が直接、県道や市町村道の啓開作業を行えるようになる。これが迅速な救命・救助活動や復旧活動につながることが期待される。九州ではすでに南海トラフ地震を想定した啓開計画を策定済みであり、今後はこの法改正を踏まえて内容を更新するとともに、火山災害や雪害など対象とする災害も拡大していく予定である。

 道路の脱炭素化も、今回の法改正で促進のための枠組みが導入された。国が基本方針を策定し、それに基づき各道路管理者が計画を作成するという流れになる。道路局は23年に「道路のカーボンニュートラル推進戦略」を策定しており、LED照明化や低炭素アスファルトの利用拡大といった対策に加え、道路を「つくる」段階から「管理する」段階までのライフサイクル全体でCO2排出量を削減していく、世界的に見ても先進的な目標を掲げている。海外では気候変動対策はあらゆるプロジェクトの最重要課題と位置付けられて久しいが、これまで出遅れていた日本の道路分野も、ようやく本格的な取り組みが始まったといえる。

 このほか、「自転車活用推進計画」や「無電柱化推進計画」も来年度に改定時期を迎え、データ活用や防災の観点を踏まえた検討が進められている。また、「道路構造令」などの技術基準も改定され、新たな知見を反映したインフラ整備が進められていく計画だ。

【坂田憲治】

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