【BIS論壇】AI時代の到来

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は10月29日の記事を紹介する。

AI時代 イメージ    国内外からインテリジェンス関係を主体に毎日70~80通の情報が届き、その返事に毎日4時間はかかっている。なかでも最近AI関連の情報やセミナー案内が毎日10~20通あり、AI時代の到来を痛感させられている。

 AIで論文や報告書も瞬時に作成でき、かつての百科全書を文字、映像情報で瞬時に入手できる便利な時代になった。だが、大学では学生がAIで論文を作成することを禁止しているところもある由。資料や統計を論文に活用するのは問題ないと思われるが…。AIにすべての論文を作成させるのは問題である。オーストラリアでは10代でのSNS使用を禁止することにしたとの情報もある。

 米国の情報専門家で、筆者の商社NY駐在時代以来、スウェーデン・ルンド大学のビジネスインテリジェンスの世界的権威Stevan Dedijer博士とともに長年インテリジェンスに関しご指導をいただいており、『Win/Loss  Analysis:How to Capture and Keep the Business You Want』の名著でも有名なEllen Naylor氏は、人的情報が重要で、Machine Intelligenceだけに頼ることは問題だと最近の世界でのAIブームに警鐘を鳴らしている。

 時代がいかにAI時代に突入しても、情報を審査、活用するのは人間で、人間の感情、交流、情報交換をないがしろにしてはダメだとの見解である。SNS、AI時代にMachine Intelligenceのみに頼るのではなく、人とのふれあい、人的情報を大切にすべきだとの見解で、筆者も賛成である。

 ノキアなど有力な情報企業を生み出した北欧フィンランドは教育指数でも世界的に有名だ。筆者もスウェーデン・ルンド大学で日本総合商社の情報収集と題し、講演した後、フィンランドを訪問。教育および情報教育の先進国であるフィンランドの現状に触れた。

 フィンランドは長らくメディアリテラシー教育に注力。世論がSNSなどにより外国勢力に操作されるリスクを低減できているという。AI時代に突入し、SNSの「情報戦」対策は世界的な課題になっている。情報先進国フィンランドでは数十年がかりでメディアリテラシー、メディア教育を教育課程に取り込み、幼少期から批判的思考を養っているという。

 具体的にはニュースを読んだ後、その情報源を確認したり、発信者の意図はなにかなど考えたりすることを生徒に求める。かつてBIS顧問を長らくお勤めいただいた故・小野田寛郎陸軍情報将校も「まずその情報の情報源はどこか。信頼できるのか」を徹底して吟味すべきだと力説されていた。人工知能(AI)で偽動画が簡単に生成できるようになり、批判的にニュースを読む力をつけることが必須の時代が到来している。

 高市新総理は念願の「国家情報局」を創設すると意気込んでいる。だが、まずは偽情報に左右されない、情報リテラシー教育に力を入れることが先決だろう。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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