遊び半分の本気と上手
今や世界的な知名度を得て、多くのインバウンド客を集めるスノーリゾート・白馬村。日本海も近い信州のこの地は、意外にも首都圏、中京圏、関西圏のいずれからも交通アクセスが良く、昭和の時代からメジャースキー場として、冬季にはたくさんの日本人スキーヤーで賑わってきた。青年期の筆者は冬のワンシーズン、この村にある家族経営の旅館に居候し、そこで労働力を提供しながらスキーライフを大いに楽しんだ。
取り付け道路や駐車場の雪掻き、客室や大浴場ほか館内の掃除、玄関周りや用具置き場の整頓、食事の支度手伝い、配膳、食後の片づけ、雪室状態の畑からの材料掘り出し調達など──それらを済ませ、お客さんを送り出した後、自分のスキー支度を整えゲレンデへ向かう。リフト券は宿に割り当てられた無料パスを貸してもらう。昼飯の時間を惜しんで名物コースをはじめ滑走を目いっぱい楽しむ。そして、宿にお客さんが帰ってくる前に“職場”へ戻り、夕食の準備やら職務をはたす。ひと仕事終われば、常連の泊まり客の方々との歓談の機会にも加われた。
観光に従事する人たち、とくに宿泊業においては、賃金が低いとされる。客1人あたりに要する手間がかかり労働生産性が低いとされ、仕事内容や拘束時間の割に低い収益性は、求職者に食指を伸ばしてもらえない理由に挙げられる。しかし、半人前の筆者にとって雪中の毎日は目新しく、恵まれたレジャー環境でお客さんたちと疑似家族的な関係に浸り、割り振られた役割を居候として楽しんでいたように思う。
落ち着いて働きたいシニア向きかも
リゾートバイトの待遇
現在、WEB上にはリゾートバイトのマッチングサイトがいくつかある。職種を横断的に見ると、接客業務として、仲居/レストランサービス/ホール/カフェ・ラウンジ/フロント・ベル・受付/ナイトフロント/販売。裏方業務として、裏方全般/調理/調理補助/清掃/洗い場/宿泊予約・事務。テーマパーク・レジャー業務として、テーマパークスタッフ/アクティビティスタッフ/マリンスタッフ/ゴルフ場/エステ・マッサージ/農業・酪農・牧場。スキー場業務として、リフト係/リフト券販売/レンタル/ゲレンデレストラン/インフォメーション/インストラクター/パトロール/駐車場係/運転手/託児所スタッフ、といったところ。今様に多彩な役どころが並ぶ。
こうした職種に、希望する勤務期間や地域を加えて検索すると、候補先が拾い上げられる。ちなみに九州エリアでは大方が観光地や温泉地の旅館やホテル。時給は1,200円前後。
応募する側にとって肝心なのは、寝食の条件だ。賄い三食を基本とし、寮タイプで見ると個室寮=部屋内に風呂・トイレ完備(一部供用もあり)、部屋でWi-Fi利用可といった提示が多い。温泉地だと、温泉利用可というのも好条件になるのだろう。滞在期間中に自身の余暇体験を確保したい向きは、通しシフト、中抜け可という選択肢も重要。
筆者は布団部屋を専用の居室にあてがわれ、屋根裏での寝泊まりを面白がった。はがき一枚の問い合わせで受け入れてもらい、雇用契約を結ばない居候という立場は、そんな待遇なのだろうと不満を抱くことなく、メジャースキーエリアに一住人として一時の拠点を得て、賄い飯をありがたがり、ささやかな役割で来訪他者の余暇を支えながら、自身も応分に楽しむ。不定形な仕事にも融通を利かせて引き受け、布団部屋で十分くつろげた。
今どきのリゾートバイトは現地事情を勘案させつつも、当世の社会規範に沿う雇用内容となっているようだ。
超リゾートの助っ人枠
紳士然とした数名のリゾートバイトが
淑女をリードし、もてなす
英国のオーシャンライナー、キュナード社の豪華客船には、素敵なダンス専用ホールがある。夕食後、ドレスコードに準じた紳士淑女が集まってくる。そして、着飾った女性が壁の花にならないよう、丁重に誘いかける専任ダンスアテンダントが複数名控える。そろいのジャケットを着て、ほどよい枯れ具合の爺さまばかりだ。彼らは、フロリダの人材会社から派遣されていた。全行程か特定の寄港地間かは知らないが、まさにリゾートバイトとして乗船し、航海中の衣食住を保証され、幾ばくかの報酬も得るのだと思う。航海中の彼らの居所は船底に近いデッキだろうが、自分の特技を余生に活かし、自らも楽しみを得ながらゲストをもてなす。爺さまたちゆえ、船内の厳しい規律、たゆたう洋上でお客さんとの距離感の保ち方にも順応しやすかろう。クルーズ船でのリゾートバイトは、我が国ではまだ一般的ではないが、布団部屋に近い(?)仮住まいながら、自負と喜びを感じながらシニアライフを送るのも魅力的に思える。
離職防止に福利厚生の充実が有用といわれるが、観光レジャー分野では、働く人の個人的興味対象に関する知識や技術の修得、あるいは社会還元をいかに追求できるかも吸引力と思われる。給金の多寡ではなく、意欲を掻き立てる要素が日々の仕事に内在しているか、自分の技能や発案が仕事に役立つものとして反映してもらえるかが、継続力となろう。
リゾートバイトは、決して若者の独壇場ではなく、シニアへも大きな門戸を開いている。生きて得られる歓びを分配し合える場として観光レジャーの仕事内容を捉えるなら、若者の“自分探し”もシニアの“自分献納”も、有用な人材供給源となる。
<プロフィール>
國谷恵太(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)
ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)








