災害時対応に端を発したDX化 「デジタルど根性」旗印に一層の拡大

(株)アネシス
経営戦略本部 DX戦略部
HR戦略部部長 木下裕之 氏

(株)アネシス 経営戦略本部 DX戦略部 HR戦略部部長 木下裕之 氏

 住宅会社にとって、大規模な災害が発生した際の顧客宅の被害状況の確認や復旧は、非常に大きな役割となる。しかし、混乱する状況のなかでそれらを円滑に進めることは、とても難しいことだ。熊本市に本社がある(株)アネシスは、熊本地震などを経験するなかでDX化を推進、発展させてきた。その成果を社内において働き方改革などのさまざまな場面に役立て効率化につなげているほか、DXの伴走型支援事業を展開。その取り組みは、社外にも広がろうとしている。一連の動きを中心となって牽引している、同社経営戦略本部DX戦略部・HR戦略部部長の木下裕之氏に話を聞いた。

根底にある理念「アフターメンテ日本一」

 ──御社が「DX」に本格的に取り組み始めたのは、どのような経緯からなのでしょうか。

 木下 当社((株)アネシス)は、熊本県内と福岡市において分譲・注文の戸建住宅供給を中心に住宅事業を展開する企業で、オーナー数はリフォームも含め約4,500件です。「アフターメンテナンス日本一」を掲げており、熊本地震(2016年)や九州北部豪雨(17年)、熊本南部豪雨(20年、人吉球磨水害)など、いくつもの台風や地震などの大規模災害を経験するなかで、被災した顧客宅の復旧や生活再建の支援にあたってきました。具体的には「災害対策室」を設けるなど、常に大規模災害に備えるための体制を構築しています。

 同室の発足当時、書類による災害時マニュアルを全社員に配布していました。指揮系統はもちろんのこと、どのような対応をすれば良いかが記してあるものです。台風を例に、大まかな流れを見ていくと、まず台風が来ることがわかった際には、施工現場の養生や顧客への注意喚起など、被害をできる限り小さくするための取り組みを実施します。台風上陸時は社員が事務所に待機し、被害が判明したときに迅速に復旧活動にあたれる体制とし、そして被害状況が明らかになると、対応計画を立て、どのように復旧にあたるかを確認し、被害地域の全棟訪問、仮復旧などに取り組むというものでした。

熊本地震など大規模災害の経験を経て

 ──16年に発生した熊本地震での災害対応は、大きな転換期になったのではないでしょうか。

 木下 とくにDXの取り組みを強く進展する契機となりました。熊本地震では被害にあったオーナーさまの件数があまりに多く、自社の既存リソースだけでは迅速な復旧活動ができなかったためです。紙のマニュアルは存在していたものの、印刷物であったため使い勝手が悪く、社内での情報共有などの点に課題が見つかりました。そこで熊本地震以降、マニュアルの電子化に取り組み、パソコンのほかスマートフォンやタブレットなどで各種資料にタイムリーに触れられる環境を整備しました。

 また、社員がより理解しやすいようにマニュアルの一部の動画化や、災害対策専用のホームページを作成しました。とくに専用ホームページの開設は、そこに情報を集約化することで、社員が時間や場所にとらわれず、各種情報にアクセスできることに役立ちました。災害時は道路が寸断されていることがありますが、ルート上のどこに注意すべきかを目で見て確認できるよう情報を共有化し、それによって従来と比べて迅速な復旧を可能になるなどです。また、社員の安全確保のため、災害時に限っては社員の位置情報を取得できるようにし、不測の事態にも対応するようにしました。オーナーさまに向けても、専用ホームページや公式LINEで情報発信や相談の受付などができるようにしました。加えて、施工中の物件も現場カメラを設置することで、現場に赴かずとも被害状況の把握ができるようにしました。

レジリエンスアワード最優秀賞受賞

 ──大規模災害時は情報が錯綜し、それを整理するのが大変です。同じオーナー宅に何度も訪問するなど、ロスが発生するのが、これまで住宅業界の常でした。

 木下 オーナーさま宅への訪問においては、社員はスマートフォンを通じて位置情報などを取得し、現地に赴いた際にはどんな被害状況だったのかを入力。その情報はリアルタイムで各部門に共有されることで、各部門が迅速な対応をできるようになりました。全体の進捗もダッシュボードを用いることで、漏れなく対応できるようにしました。各オーナーさまへの対応履歴も確認できますから、「前回の災害でここに被害があった」などということもわかります。実際に現場を訪問しても、これまでのように脚立を使用して屋根に登るのではなく、ドローンを飛ばし、デジタルデータとして残すことで、安全に見落としなく確認できるようになりました。もちろん、図面も個別に電子化していますから、わざわざ図面を取りに会社に戻る必要がなく、現場で即時に対応できるようになりました。

 また、ハザードマップなどが公開されている「くまもとデータ連携基盤・データカタログポータルサイト」も活用するなど、自社の基盤だけでなく自治体のデータも活用することで、20年発生の人吉球磨水害においては、いち早く安否確認の対象となるオーナーさまを絞り込むことができ、初動のロスを最小限に抑えることに成功しました。こうした迅速な情報取得は、復旧活動中の二次災害防止にもつながりました。このほか、全国の工務店と相互に助け合う災害協定ネットワークを構築するなどした結果、「ジャパン・レジリエンス・アワード2021」の最優秀賞を受賞することができました。

人吉球磨水害における復旧作業の様子
人吉球磨水害における復旧作業の様子

    ──社内に浸透させるのは、大変ではなかったですか。

 木下 決して簡単ではありませんでした。さまざまなシステムからなり、またシステムを1つ取り入れたからといって容易に課題が解決するものでもなく、各システムの連携をスムーズに行えるよう配慮しなければなりませでしたから。このDXの取り組みで一定の成果を挙げられたのには2つの要因があり、1つ目は「インナーブランディング」です。DX推進にあたって全社的なスローガンを「デジタルど根性」とすることで、アナログとデジタルが融合された社内環境を構築するというイメージの定着を図りました。もっと大事なのは、2つ目の「想い」の共有です。デジタルやDXはツールに過ぎず、構築するのも使うのも中心にいるのは人です。当社は、災害発生時はもちろんですが、どのような状況にあっても「オーナー第一主義」という想いがあり、それを社内全体で共有できているからこそ、可能だったのだと考えています。

AIに慣れ親しめる社内環境をつくる

 ──「デジタルど根性」というのは、刺激的なネーミングですね。

 木下 先ほど述べたようなDXに関する一連の取り組みは当初、若い世代を中心に受け入れられてきたのですが、その一方で、ベテラン社員のなかには抵抗感を持つ方々もいました。近年進化が著しいAIについても、同様です。豊富な経験や長年の勘をもつベテラン社員こそAIなどを使うべきで、それによるメリットは多大です。そこで、ベテラン社員にもAIに触れDX化の動きに慣れ親しんでもらえるよう、「現状に対し粘り強く向き合う知的な執念」という意味合いを込めて、「デジタルど根性」というスローガンにしました。
 社員にAIのファンになってもらうための当社独自の取り組みに、「AIラジオ」における情報発信があります。社内ポータルサイト内に設けているコンテンツで、バーチャルのAIキャラクターがDJを務めるものです。社員は彼らに仕事の悩みなども相談でき、問題解決に役立てられ、さまざまな知識の習得や働き方改革のきっかけの1つとして役立てられています。

他企業のDX化へ伴走支援サービスを展開

 ──災害対策だけでなく、御社の業務全体にDXが浸透し、効果を上げているということですね。今後の展開について教えてください。

 木下 当社では各種提案やプレゼン、エリアマーケティングなどにAIが使われるようになり、業務の効率化が進んでいます。たとえば、動画制作などもAIで行っています。そこで当社の経験やノウハウを生かし、社外のDX推進をサポートする「DXの伴走型支援サービス」に取り組んでいます。さまざまな企業がシステムを活用していますが、さらなる改善、最適解を目指すため、ツールの選定や、使いこなせるようになるための運用ルールの策定や定着化まで一貫して、当社が一緒になって支援するというものです。もちろん、各企業さまは異なる業態、企業風土を持ち、各々の経営課題などを抱えていますから、それぞれに合わせた本当に実行可能なプランを一緒に考えます。このサービスは、単なるコンサルやシステム納品ではなく、DX人材の教育や育成にも踏み込むものです。今後は、このサービスをさらに拡大させていきたいと考えています。

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:加藤龍也
所在地:熊本市東区長嶺南8-8-55
設 立:1994年7月
資本金:3,000万円
TEL:096-388-1822
URL:https://www.anesis.co.jp/


<PROFILE>
熊本市出身。大学卒業後、東京都内の企業でエンジニアとして勤務後、(株)アネシスに入社。IT専門部署を一から立ち上げ、社内のITインフラ管理やシステム開発、全社的なDX戦略の策定・実行までを統括している。熊本経済同友会など企業・団体へのDXコンサルティングも手がけている。

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